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『ダンテ その生涯』アレッサンドロ・バルベーロ[著] 【読書感想】

『神曲』の作者、西洋文学最高峰の詩人ダンテ。
しかしその生涯は、詩人というより政治指導者としての波乱に富む人生でした。
そんなダンテについて、中世史研究者が著したダンテの評伝が翻訳出版されました。
『ダンテ その生涯』アレッサンドロ・バルベーロ[著](亜紀書房 2024年)です。

ダンテの評伝というと、
「まずダンテが生きた13世紀後半から14世紀初頭にかけてのイタリアやフィレンツェの政治情勢を記述、そこに『神曲』での著名人物評やダンテの個人的エピソードを散りばめていく」
という感じのスタイルがオーソドックスなのではないかと思います。
(たとえば中公文庫『帝政論』の「訳者あとがき」でのダンテ紹介がそのような書き方になっています。
このダンテ小伝は、簡潔ながら詳しい内容を含むので、個人的におすすめです)

しかし、今回の評伝の特徴は、一般的な伝記では見落とされがちなダンテの生涯の細部にこだわったところにあるかと思います。
たとえば、ダンテが従軍した時の装備や戦場での配置、貴族や騎士を称せる家系だったかどうか、結婚の年齢、祖国を追放された際に没収された財産への処置など…
つまらないトリビアのようにも思えますが、驚くことに、これらがダンテの社会的階層や政治的な立ち位置につながる話になっているのが、この評伝の面白いところです。

ダンテの生涯についての手掛かりとなる(決して多くはない)資料から、これらの些細な情報が直接的にわかるわけではありません。
そこで、評伝著者の中世史家としての手腕が発揮されます。
数少ない手掛かりをもとに、当時の社会的な制度や慣習についての著者の知識を動員することで、ダンテの生涯の細部を推定して埋めていくのです。

この復元作業によって、ダンテだけでなく彼を取り巻く周囲の世界も一緒に立体的に描かれることになります。
そのため、ダンテや『神曲』に対する文学的関心を抱く人はもちろん、むしろ1300年前後のイタリア中世の政治史や社会史について興味がある人が満足できるんじゃないかと思います。
個人的には、白派と黒派が内乱にいたった時期のフィレンツェ史について詳しい記述が参考になりました。





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