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52 くら寿司(Kura Sushi)


はじめに

今日のコラムでは、あの人気の「くら寿司」さんが新型コロナの影響を乗り越え、予定よりも遅れはしたものの、先日6月15日に中国に記念すべき1号店を出店されたことを社会的な視点から少し考えてみたいと思います。
社会の中で起きている出来事を経済的な視点から見ていくことは、世界や日本の情勢に関心をもつことにつながることにもなるかと思います。

12種類のサーモン寿司

寿司の人気のネタと言えば、マグロやエビなどが思い浮かぶわけですが、回転寿司の一番人気のネタと言えば、サーモンというのは今や当たり前になっているかと思います。それもそのはずで、実はここ9年間は不動の一位がサーモンだそうです。比較的お手頃な価格であるにも関わらず、食べやすい味でありがながらこってり感のある食味が好きだという人も多いのではないでしょうか。
今回、くら寿司さんが中国に進出する際も、日本で提供しているサーモン系のメニュー10種類以上に12種類のものを提供しているようです。これは、サーモン自体への人気の高まりが影響しているようです。この人気の高まりは、価格にも影響してきています。
例えば、サーモンの産地で有名なノルウェー産の商品の輸入価格は、10年前は1㎏単価が700円台ほどであったものが、現在は1㎏単価が約1,100円と高騰してきています。なんと、国際市場で水産物の価格を見てみるとここ10年ほどで、約6割も高騰してきています。これも、魚に対する世界的な需要が高まったことが影響しています。
料理としてみても日本で700円前後の焼き魚定食が海外では、2,000円近い値段で当たり前に提供されている現状もあるほどです。

世界的な魚人気

現在私たちの日本では、原油高、物価高、円安による輸送費の高騰や原材料費の高騰などにより、所得が上がらない中にもかかわらずモノの値段が上がり続けていることに一般的には、頭を抱えているという一面をもっています。
こうなる少し前、人はデフレという状態に約20年間悩み続けていました。価格競争が進み、安さ競争の中で様々なコストを削る中で、人件費を削り所得が上がらない状態が続いていきました。ですから、国民の多くは安い商品を中心に求めるようになりました。比較的価格に高い魚よりも安価に購入できる鶏肉などの食材の需要が伸びる中で、日本人の魚離れも進む中で消費が落ち込んでいきました。
そんな中、世界では魚を食べる文化が浸透していき、消費が伸びていきました。水産庁の調査などでは、世界全体では1人当たり魚の消費量は過去半世紀で2倍に増加したとされています。この大きな要因になっているのが、なんと「日本食ブーム」なのです。
日本では消費が減っている魚ですが、日本の食文化の中でも魚を用いた食事に注目が集まっているのですから皮肉なものです。魚はたんぱく質が豊富に摂取できるため、先進国でも増えていますが、新興国において顕著に需要が高まっています。東南アジアのインドネシアでは、約4倍の消費増加となっています。また、くら寿司が新たに出店した中国では、9倍に増加しています。日本とは違い、生で魚を食べるという食文化に距離があった文化圏でも寿司は、日本を代表する食文化として広がりを見せていることもこうした消費の増加につながっています。

魚の買い負け

こうした、需要の高まりが、日本の「魚の買い負け」という状態を引き起こしています。魚の買い負けとは、文字通り、買いたくても買う競争に負けて手に入らないことを意味します。
まず、今、世界の魚の需要と供給のバランスを数字で見ていくと食用の魚は天然と養殖を合わせると約1.5億tが供給できる状態にあります。その内、約1.5億tが消費されています。つまり、需要と供給がほぼ同じ量で保っている状態です。しかし、先ほども述べたように魚の消費が倍増しているので、このバランスが変化していきます。今後世界の人口が100億人という時代に向かっていけば、この傾向はより一層進んでいくことが予想できます。
さて、その時に問題になるのが購買力の強い国や企業が自分の国の人々や顧客のために、その需要に応えようとすると購買力の弱い方が買えなくなる等減少が起きるわけです。魚の消費が減ってきている日本では、価格も下がりそのために購買力も下がってきていますので、買い負けるという現象が起きているのです。
購買力が低くても、自分の国で生産できれば問題ないわけですが、自分の国で生産している魚であっても、購買力の高い国が供給を求めれば日本での需要には応えられないわけです。つまり、魚はとても高級な食材になるか、手に入りにくいものになっていくのではないかというのが一つの考え方としてできるわけです。
日本の食文化を支えている醤油やみそなどの調味料の原材料である大豆も今では、アメリカやブラジルやカナダから大量に輸入している現状で、食用の国内の大豆の生産割合は約20%ということで自給率はとても低いのです。
日本は、食料もエネルギーも自給率の低い国ですので、買い負けることは私たちの生活に直結する大きな問題なわけです。
世界で人気を呼ぶ日本のお寿司を気軽に日本人が日本で食べられる日々というのは、意外に当たり前ではない時代が来るのかもしれません。

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