見出し画像

本との話 まとめ

 千葉県柏市のkamon かしわインフォメーションセンターの求めに応じて、2019年7月から2020年3月まで9回にわたり同センターのHP内のブログに、月に1回連載した記事のまとめです。

*      *     *

柏まちなか図書館(サンジョルディの日イベント)

1:加藤典洋さんのこと

 こんにちは。
 ホントの話、このコラムのお話を頂いて嬉しく思っています。何しろご依頼の内容が、本に関連したエッセイを月に一回程度書いて欲しい、ということだったのですから、本好きのぼくとしては渡りに船だったわけです。
 この文章はその第1回。以後、お見知り置きの程よろしくお願い申し上げます。

 初回なので、簡単に自己紹介を。
 都内から小学4年の時に柏へ転居。柏五小に転入しました。
 大学を卒業後、とある私立大学の事務職員になり、以降約25年間、主に広報・入試部門で仕事をさせて頂き、大学新聞や入学案内を作成し、受験生の募集等に携わりました。
 柏市は二十代後半に一端離れ、都内・千葉県内で暮らしましたが、今から約15年前に実家のある柏に、大学を辞して戻りました。
 戻って最初の数年間は(親の介護を除いて言えば)、ネットの古書店を立上げただけで、日なたで微睡む猫のようにのんべんだらりと優雅な「毎日が日曜日」でした。
 「柏って、案外いいまちだな。」
 改めて住んでみて、ぼくはそう思いました。
 駅前は賑やかだし、手賀沼周りには豊かな自然があり、サイクリングなんかすると、ホントに気持ちがいいんだもの。
 ぼくは改めて、柏が好きになりました。
 そして、好奇心の赴くままに暮らすうちに、人との出会いに恵まれ、いつの間にか忙しく暮らしています。

画像34

 さて、この連載企画では、そんなある意味で柏市から見れば出戻りのぼくが、柏に暮らして思うこと、本屋さんや図書館等にまつわる話題や、ぼく自身も関わっている「本まっち柏」「柏まちなか図書館」「かしわ図書館メイカーズ」「カシワ読書会」等々の本に関連する市民活動にも触れ、時には取材などもしながら、本を楽しみ、本という文化について考え、本についての情報をみなさまと共有できればと思っています。

 併せて、本のコラムですから、本や著者の話題を取り上げて具体的にご紹介もしたい、と思います。
 というところで、さっそく第1回はこの方を ─ちょっと悲しい話題になりますが─ 紹介させてください。ぼくにとっては、とても大事な導き手でした。

■加藤典洋(かとうのりひろ)さん(1948-2019) 文芸評論家

加藤典洋さんの本

 『アメリカの影』『敗戦後論』『言語表現法講義』『村上春樹の短編を英語で読む1979~2011』などの著作があります。今年5月16日、肺炎のため逝去されました。

 個人的な思い出を記せば、まだ銀座に近藤書店があった1990年代の初頭、2階でじっくりと本棚を眺めているうちにふと手にとった一冊の冒頭に収録されていた『「まさか」と「やれやれ」』というエッセイを立ち読みして、ぼくは驚き、また感心して、その未知の著者を初めて認識しました。
 それは村上春樹の小説に特徴的に現れるこのふたつの言葉を深く、思いがけない形で読みほどくことで、村上がその小説を通して何を語っているかをぼくに開示してくれました。ここまで深く読み込むのが批評というものか、と文芸評論そのものにも初めて目を開かれた気がしたものです。

 それ以来、ぼくは加藤さんの本は欠かさず買って読むようになったのですが、それだけに、先日突然の訃報に接し、本当に知己を失ったように悲しく思ったものです。

 こちらもご参照下さい。
https://allreviews.jp/feature/18 ALL REVIEWS 特集 : 加藤典洋著作への書評
https://note.mu/waterplanet/n/nfff5e3e9c409 『戦後的思考』加藤典洋著 講談社文芸文庫版の、東浩紀氏の解説「政治のなかの文学の場所」について。
                           (2019.7.26)


画像3

2:本まっち柏と一箱古本市

 ホントの話、今年の夏は本を手にする余裕もなくアタフタと過ぎて行く。もうお盆を過ぎて、夏も後半だもの。

 昔はのんびり、ぼんやり、好きな本を読んでいた。随分贅沢な時間を持っていたような気がして来ます。いや、そんなことないよ、その時は単にヒマで、誰からも求められてもいなくて、アタフタしている今のお前は幸せなんだよ、そんな声もどこからか聞こえてきます。そうかもしれません。でも、そんなポケーとして次から次へと手にとっていた本たちが、今になっていかに自分を助けてくれることか。その頃読んだ本は、ぼくとっては親友のようなものです。

■本まっち柏との出会い

画像35

 もう、8年も前。またもやポケーとしていた頃、「本まっち柏」のみなさんと出会いました。きっかけは、柏の東口まちハズレに佇む児童文学専門新刊書店「ハックルベリーブックス」の店内に貼られた小さなチラシ。
 ん? むむむ。これは…。谷根千でやっている一箱古本市と同じじゃないか。柏でもやるんだ!

 日暮里から根津、千駄木辺り(通称、谷根千)で2005年に始まった「一箱古本市」。それは、出店者一人ひとりが段ボール箱一箱分くらいの古本を持ち寄って通りで売る、というイベント。いわば古本のフリマです。参加者は、マップを片手に谷根千の路地裏を縫うように歩き、古本と出会い、店主さんと出会いながら、のんびりと巡る。今では全国各地に広まった、本好きにはたまらないイベントです。
 それを、柏でもやろうというグループがいるんだ…! ぼくはわくわくし、ハックルベリーの店主さんに参加を申し出たものでした。

画像36

■まちの活動に参加するということ

 それから、色んなことがありました。
 今年の春の開催で、「本まっち柏」の自主開催は16回目になります。第1回の本まっち柏終了後のミーティングに初めて参加した時は、ひとりも知り合いが居ませんでした。本まっちの活動を通じて、柏という「まち」はぼくにも少しずつマッチングされて「地元」になって来たのです。手づくりての市や様々なイベント等にもその都度参加させて頂きながら、「柏を本のまちに」という目標を掲げ、本活倶楽部として活動してきました。
 毎月飽きずにミーティングも重ねて来ました。基本ボランティアベースで、出店料500円を原資に自慢のチラシで広報し、柏市柏三丁目界隈(いわゆるウラカシ)のたくさんの魅力的なお店の軒先をお借りして開催を続けて来ることができました。
 本活倶楽部に最初に集まった方々の多くは、今では多方面に広がり、それぞれの領域で多くのことを成し遂げています。残った我々も少しずつ新しいスタッフを迎えながら、今も工夫と試行錯誤を重ねています。
 そして、毎回のように参加してくださる出店者のみなさんたち。開催日に足を運んでくださるたくさんのお客様。たくさんの人たちが、それぞれの思いを持ち寄って成立している…。ぼくらの活動ではあるのですが、もうぼくらだけの活動ではないのかも知れない

 ボランティアベースの活動の報酬は、お金ではありません。でもその代わりに、何か他のものを頂いている。だから続いているのだろうと思います。

■今月の本/著者■とぶ船 ヒルダ・ルイス作(石井桃子訳、岩浪少年文庫)

画像4

 今月は子どもの頃からの愛読書をご紹介します。ピーター、シーラ、ハンフリ、そしてサンディの四人はイギリス人の兄妹。ある日ピーターは海辺の町ラドクリフで、見知らぬ通りに迷い込みます。そして、ある古ぼけた店のウインドウの中に、小さな船のおもちゃを見つけます。もちろん、それが魔法の船だとは知らずに。それがすべての冒険の始まりでした。‥‥

 船を手にした子どもたちが、数々の冒険を重ねて、やがてその船とお別れするまでの物語。大人になること、夢を叶えること、兄弟や友だちを思いやること。書かれた時代は古いのですが(1939年原著刊行)、大事なことがいっぱい詰まった古典ファンタジーの傑作です。

 気になった方は、是非ハックルベリーブックスにご注文下さい!

本まっち柏 ホームページ
 https://honkatsukurabu.wixsite.com/hon-match
本まっち柏facebookページ
 https://www.facebook.com/honkatsu500/
ハックルベリーブックスホームページ
 http://www.huckleberrybooks.jp
一箱古本市(不忍ブックストリート)
 https://sbs.yanesen.org
                            (2019.8.23)


画像5

3:柏市立図書館と「図書館のあり方」の実現について

 ホントの話、極端に暑い日が続くかと思うとゲリラ豪雨に翻弄されたり、台風に直撃されて生きた心地もなく眠れぬ夜を過ごしたり、天候のことだけ言っても今年の夏はいささか疲れました。そろそろ落ち着いた時間を持ちたいものです。

■これからの柏市図書館

 ところで、みなさんは図書館を利用していますか? そして、柏市の図書館が生まれ変わりに向けて、新たな胎動を始めていることを知っているでしょうか?
 そもそも少子高齢化の社会で自治体の財政も厳しさを増し、一方で価値観は多様化する中、図書館も今までのままではなく、変わらざるを得ない時代が来ています。今回は昨年、約半年間にわたり市民も参加して取り組み、まとめられた「図書館のあり方」策定について、ご紹介したいと思います。

■「柏市図書館のあり方」

画像6

 市では、今年2月に〈学ぶこと(学び)、分かちあうこと(共有)、創りだすこと(創造)を支え、「ひと」と地域を育みます〉を基本理念とする「柏市図書館のあり方」を策定しました。この「あり方」は施設整備の計画ではなく、今後の図書館像や運営の理念・方針等を示したもので、この「あり方」を元に、今年度から具体化のプロセスが始まっています。
 そして、理念・方針の「あり方」の策定に市民が深く関わったように、それを具体化するプロセスにも市民参加は欠かせないと思います。と言うより、折角の市の取組みをぜひ市民としても支援したいものですよね。

■「柏市図書館のあり方」策定プロセス

 『柏市図書館のあり方』を策定するにあたり、市民参加型のイベントが以下の日程で行われました。

①未来の柏の図書館について語り合おう!(全5回・7月末〜10月上旬)
②柏駅ダブルデッキ・ライブラリーフェス(10月5日、6日の2日間)
③未来の柏の図書館を考えるワークショップ(全4回・10月〜12月)

 詳しい説明は省きますが、上記のうちぼくも何回かには参加し、ダブルデッキに出かけて青空の下で図書館について語り合ったり、まち歩きをしたり、未来の図書館について想像を膨らませてストーリーを語ったりしたものです。市は多くの対話の場やワークショップを積み重ね、アンケートやパブリック・コメント等も踏まえて「あり方」をまとめたのですが、その具体化に当たっては何を重要と考えているのか、橋本図書館長、柳川主幹のお二人にお聞きました。

画像37

橋本 昨年「あり方」をまとめて、今年からは抽象的な理念・方針が書かれた「あり方」を具体化していこうという時に、限られた予算、狭くて古い施設だから出来ない、ではなくて、他の部署に助けてもらったり、市民や民間の様々な団体と連携したり、今までになかったアイデアを投入したりして、ちょっとずつでも「あり方」に近づき、実現していく年にしたい。そのためには市民との連携は欠かせないと思っています。

柳川 図書館のイメージを変えていきたいですね。図書館は本の提供者、利用者はその受け手、という関係ではなく、これからは一緒に作り上げていくようにしたいですね。

 ー 先日、まちなかの「空き」の使い方をテーマにして、とても刺激的な講演を聞いたのですが、その中でも強調されていたのが「当事者たれ!」ということでした。まちなかの空き地活用でも、図書館利用でもある意味同じで、これからはお客さんで良しとせず、利用者もまた当事者として関わっていく。そういう姿勢が大事だ、と感じます。

柳川 図書館も、利用者の皆さんからの、もっと色々、もっと便利に、もっとたくさん、といった、ある意味表面的なニーズに応えるだけでなく、今後の縮小してく社会のなかで、社会教育施設としての地域の図書館がどうあるべきか、しっかりと考える必要があると思います。

 ーそういう意味も含めて、まずはしっかりと「あり方」が目指す理念や方針に基づいて皆んなが当事者として関わることが大事だということですね。その中で見えてきたものを、やがて来る時にはしっかりとハードに反映させる、まずはソフトが先でいい。館長が仰ったようにそのスタートの年ですね。

■柏市図書館をめぐる市民の動き

 実は、市民の動きは既にいくつかあって、喫茶店や美容室の片隅など、どこにでも小さな図書館があるまちにしようという「柏まちなか図書館」の動きがあり、「あり方」のワークショップに参加した市民の中から柏市の図書館を支援しようと「かしわ図書館メイカーズ」が立ち上がっています。
 そして、この秋から「kamonかしわインフォメーションセンター」も、館内に絵本や童話などを置き、親子が気軽に立ち寄り休憩できる憩いのスペースを設けると聞いています。市内に本をめぐる様々な動きが広がりそうです。

■今月の本/著者■河合隼雄さん(かわいはやお・1928-2007)臨床心理学

画像7

 最初に手に取ったのは確か『無意識の構造』(中公新書)。次に、詩人の谷川俊太郎さんとの対話『魂にメスはいらない』(講談社+α文庫)を読んで、なんと言うのか、河合さんの話を聴く力の深さに感銘を受けます。

 以後、 『影の現象学』(講談社学術文庫)、『昔話と日本人の心』(岩波現代文庫)、『中空構造日本の深層』(中公文庫)、『子どもの宇宙』(岩波新書)、『ユング心理学と仏教』(岩波現代文庫)ほか、数々の著書や対談などに親しむようになりますが、その河合さんについて、あの村上春樹さんは「物語というのは人の魂の奥底にある。人の心の一番深い場所にあるから、人と人とを根元でつなぎあわせることができる。僕は小説を書くときにそういう深い場所におりていき、河合先生もクライアントと向かい合うときに深い場所におりていく。僕がそういう深い共感を抱くことができた相手は河合先生しかいませんでした。」という趣旨のことを何度か述べています。

 もう一つ印象的なのは、河合さんが座談の席などで連発されるユーモア。駄洒落なんですが、深いところで話を聴き続けるのは大変なこと。きっと、それを相対化するのに必要だったのだろうと思います。

「図書館のあり方」(柏市ホームページ)
 http://www.city.kashiwa.lg.jp/soshiki/280700/p046994.html
映画『ニューヨーク公共図書館エクス・リブリス』公式サイト
 http://moviola.jp/nypl/aboutthefilm.html
武蔵野プレイス
 http://www.musashino.or.jp/place.html
オガール ・プロジェクト(図書館を核にしたまちづくり)
 http://ogal.jp
Library of the Year
 https://ja.m.wikipedia.org/wiki/Library_of_the_Year
                            (2019.9.27) 


画像8

4:図書館をめぐる冒険=“市民の立場”から①

 この秋は大きな台風がふたつもやって来て、各地に様々な被害をもたらしました。被災されたみなさまには心よりお見舞い申し上げます。ホントの話、ぼくも生きた心地がしませんでした。ぼくの家は築50年の2階建て木造建築で、突風で屋根の一部に被害を受けました。被災された方々の心中をお察し申し上げます。

 話は変わって、前回は柏市立図書館と「図書館のあり方」についてご紹介しましたが、今回から2回にわたって、図書館をめぐる市民の活動について紹介させて頂きます。

■柏まちなか図書館

 「柏まちなか図書館」は、「柏まちなかカレッジ」の活動の中から生まれた市民グループです。“まちカレ”については、今回詳しく触れる余裕がありませんが、現在3期目の市会議員・山下洋輔さんが10年ほど前に始められた“まちなかに学びの場を”つくろうという活動です。

 「柏まちなか図書館」も美容室や喫茶店、いや、まちなかの何処にでも、空いたスペースの一角に小さな図書館があって、誰もが簡単な仕組みで借りることができるといいよね、という発想から生まれた取組みです。

 面白いのは、本の貸し出しに通帳を模した地域通貨の発想が入っているところです。
 通貨の単位は“ⓜ=まっち”で、スタート時点で誰もが300ⓜをもらえます。借り手も貸し手もそれぞれ通帳を持っていて、借りたい本があったら、テキトーに(じゃなくて、互いの合意の元に)「10まっちで、○○さんから、□□が『△△△△』という本を借ります。返却期限は×月×日」などと互いの通帳に記載します。これだけです。

 あまりにユルくて拍子抜けした方、いらっしゃいませんか?
 でもこれは、地域通貨の要は実は「信頼」なのだ、ということの証に他なりません。日本円でも米ドルでも、通貨の価値を保障するものは一体なんでしょうか?
 難しい議論はあるでしょうが、要するに国家が「円」を保障しているので、○○円と書かれた紙切れを我々は信頼している、と言えるでしょう。

 では、国のような強力な保障機能がない地域通貨の場合は如何に?
 おそらく、同じ地域に住み、働き、暮らしている住民同士の信頼感、しかないのです。言ってみれば体温のあるつながりです。同時にそれが、地域通貨がある程度以上には広がらない理由にもなっているのでしょうが。

 興味をお持ちになったら、ぜひ実際のまちなか図書館をお訪ねになるのが良いと思います。とは言っても、残念ながらまだこの試みは十分な広がりを持っていません。差し当たり、ハックルベリーブックスを訪ねて、店主の奥山さんにお聞きになるのが良いと思います。簡単に通帳を作り、直ぐにまちなか図書館の利用者になることができる筈です。

画像9

 この試みが更に面白いのは、貸し借りに本だけを想定していないことです。
 例えば、あなたが本を借りているだけだったらどうなるでしょう。300ⓜはあっという間に無くなってしまいませんか?
 では、自分もどこかに図書館を開設して、貸し手になれば? それもいいでしょう。ただ、別の方法もあります。例えば、通帳を持っている者同士で、簡単な仕事を頼むのです。買い物でも、調子の悪いパソコンのメンテでも、何でも構いません。いくらで請け負うのかは、その都度当事者同士の話し合いで決めます。それを互いの通帳に書き込む。それだけですが、まさに地域通貨として機能する、ということですね。

 メンバー達は、上記のほかに「まちなか図書館祭り」の開催や、野外で集まってただ一日読書する「読書キャンプ」などの活動も行って来ましたが、今は大切な人が互いに本やバラを贈りあうスペイン・カタルーニャ地方の風習である「サン・ジョルディの日」の柏版として、来年4月19日(日)に「柏サン・ジョルディの日」を開催しようという企みに夢中になっているところです。そのために、まずは「サン・ジョルディの日─柏プロジェクト会議」(11月2日18:30〜20:30パレット柏多目的スペースA)を開催し、プロジェクトメンバーを募集する、と鼻息も荒いです。

 さて、どうなりますことやら。(笑)

■今月の本/著者■赤頭巾ちゃん気をつけて☆庄司薫さん(新潮文庫)

画像10

 第61回芥川賞受賞作である「赤頭巾ちゃん気をつけて」とその作者の庄司薫さんについて、改めて書こうとしても、どこから書けばいいのか判らない、という気持ちになります。

 この小説は、学生運動華やかなりし1969年に発表され、圧倒的な評判を呼び、翌年には映画化されました。「赤」頭巾のあとには、赤と同じく庄司薫くんを主人公とする四部作(作者名と同名の主人公が活躍するさよなら快傑黒頭巾、白鳥の歌なんか聞こえない、ぼくの大好きな青髭)が書き継がれ完成した後、作者庄司薫さんは筆を擱いて、18歳の主人公庄司薫くん共々沈黙してしまいました。そういうとても不思議な経緯を持つ小説であり作者であり、ふり返ってみて、おそらくはぼくが最も影響を受けた作家でもあります。

 初めて読んだのは高校三年か、大学一年か、とにかく一発で参ってしい、(ある意味可笑しな話ですが)自分のことが書かれているような気がしたものでした。それまでにも、物語の面白さ、醍醐味を味わった小説は幾多となく読んでいました。でも、物語の主人公に没入し、ほとんどアイデンティファイしてしまうような経験はその時が初めてでした。その時から、随分と時間が流れ、今では作者と主人公を客観視出来るようになったことも確かです。でも、だからこそ、あの時あれほど共感できる小説を持てたことの幸せ、を感じるのです。

 ちなみに、赤頭巾を読んだあるピアニストが、その後作者と知りあい、その人の奥さんになって、長く幸せな結婚生活を続けられたあと、2016年に惜しまれて亡くなりました。中村紘子さんです。

柏まちなか図書館
 https://kashiwamachinaka.jimdofree.com/プロジェクト/柏まちなか図書館/

サン・ジョルディの日 柏プロジェクト会議 開催!    
 https://www.facebook.com/events/443157059740287/
                           (2019.10.25)


ストリート・パーティーでオリジナル紙芝居

5:図書館をめぐる冒険=“市民の立場”から②

 ホントの話、原稿を書いていた11月の12〜14日は図書館総合展という年に一度の図書館のお祭りのようなイベントが横浜で開催されていました。ぼくも時間を見つけてちょっとだけ覗きに行ったんですよ。
 前回は「柏まちなか図書館」についてご紹介しましたが、今回は「知恵の森」と「かしわ図書館メイカーズ」についてご紹介します。

■知恵の森

 知恵の森の活動は、もともとは柏まちなかカレッジの山下さんと柏市在住の学芸員・佐々木秀彦さんの出会いから始まりました。4年ほど前のことです。思いは、文化の拠点を駅前につくりたい、ということでした。柏は活気溢れる商業都市ですが、それだけでは足りない。そんな思いのメンバーが集まり、議論が始まりました。

 文化の拠点ですから、当然図書館機能は外せません(よね?)。でもそれだけではないのです。その拠点にはどんな機能があるべきなのか。様々なアイデアが話し合われました。また、メンバーで誘いあって、あるいは個々人の旅行のついでに、いろんな図書館やミュージアム等を見学に行ったりもしました。そして構想の全体を名付けたのが「知恵の森」です。つまり、知恵の森は団体の名称というより、メンバーが思い描いた“文化の拠点”の名称だったのです。

 2017年11月6日、メンバーは「かしわ知恵の森プロジェクト」の名称で、構想をマスコミ向けにプレスリリースし、市長に『柏駅前に新しい「暮しと文化の拠点」をつくりませんか─ライブラリー・ミュージアム機能を備えた施設づくりの呼びかけ─』なる呼びかけ文を手渡します。いくつかの新聞等に記事が載りましたのでご存知の方もいらっしゃるかもしれません。

画像12

 いわば、バトンを市民から市側に手渡す形でこのプロジェクトは一端役割を終えたのですが、その後、この呼びかけに応えるものだったかどうかはわかりませんが、市は予算をつけて前々回にご紹介した「図書館のあり方」の検討を行います。知恵の森メンバーのうち何人かは引き続き、その「あり方」の検討のワーキングに参加するなどして市の取組みをゆるやかに支援しました。

■かしわ図書館メイカーズ(=カシトショ)

画像13

 その“検討”が終わった今年4月、検討に参加したメンバーを含んで、新しい市民活動団体「かしわ図書館メイカーズ」が立ち上がりました。若く元気なメンバーが加わり、「図書館のあり方」の“実現”に向けて、市民の視点で支援し、発信していこうと志しています。
 カシトショが今後、どのような活動を行うのか。実は、まだ定まっているとは言えません。大枠として、上記のように「図書館のあり方」の実現を、市民の立場から支援していく、ということで動き始めたところです。

 柏アーバンデザインセンターUDC2が、不定期で歩行者天国の日曜日に柏駅東口駅前通りで仕掛けている「ストリートパーティー」に、今年の夏はカシトショとして参加し、人工芝の上にストリートライブラリーを展開しました。読み聞かせや紙芝居を行い、併せて生まれ変わろうとしている図書館の動向を発信しました。
 今後の活動にご注目頂ければと思います。

■今月の本/著者■村上春樹さん(1949〜)

画像14

 言わずと知れた、村上さん。今更何をご紹介すればいいのでしょう。という話ではあるのですが、まずは個人的なエピソードを。
 1979年『風の歌を聴け』が第22回群像新人文学賞を受賞してデビューしますが、その時デビュー作が載った「群像」をたまたま神保町の三省堂書店で手に取って丸谷才一の選評を読み、「この人はなかなか良さそうだ。単行本が出たら買おう」と思ったことを覚えています。つまり、幸運にもぼくは最初期からの読者になり、彼が作家として成長していく様をリアルタイムで見て来たのです。

 しかも、このブログの第一回でご紹介した加藤典洋さんは、最も作家・村上春樹を評価し、たくさんの批評を書いた人で、加藤さんに着目したのも、彼が村上春樹を論じた短文「『まさか』と『やれやれ』」がきっかけでした。第三回で触れた河合隼雄さんは、「村上春樹、河合隼雄に会いに行く」の著書もあるくらいに、例外的に村上さんが信頼していた人物でした。そして、実は前回ご紹介した「赤頭巾ちゃん気をつけて」の作家・庄司薫さんは、デビュー直後の村上さんが先輩作家の中上健次と対談した時に、「ほとんど日本の小説は読まない」という中で、例外的に言及した作家でもありました。本を読む、というのは、こうして網の目のように広がる私的なネットワークを持つ、ということでもあるのでしょうね。

知恵の森「柏駅前に新しい「暮しと文化の拠点」をつくりませんか?」
 https://y-yamasita.com/文化/5343.php
                            (2019.11.22)


画像15

6:古本という「文化」=太平書林とブックススズキ

 いよいよ年の瀬ですね。
 ホントの話、今年は(ぼくとしては、ということですが)とっても忙しい年でした。年齢的にはそろそろリタイア世代なんですが、寝ているヒマがないくらいでした。というのはもちろんウソで、まずは昼夜問わず寝て体力確保に努めていました。寝て食べて、その合間にちょっと仕事と市民活動。そんな年が暮れていきますが、今回は古本屋さんという「暮れゆく文化」(?!)にスポットライトを当ててみようと思います。

■太平書林

画像16

 店主の坂本さんは、この20年ほどの古本業界の変遷を身をもって体験してこられた方。先代の店主の元で店員として長く働き、2年ほど前に太平書林を引き継ぎました。太平書林は理工系などを除いてほぼオールジャンルを扱う県内有数の古書店です。古書店の“今”についてお聞きしてきました。

 初めに簡単に太平書林の現状をまとめておきます。
 月曜日と木曜日は、東京と千葉の各古書組合の市場に(そう、古本屋さんにも市場があるんですね)仕入れに行く日だそうです。ですから、月曜日はお店の定休日で、木曜日は千葉の市場から帰った夕方から営業しています。それ以外の日は原則店を開く。と言うことは、実は基本休みがなく、定休日も働いているのだと言います。
 平日は11時半、土日祝は12時に開店し、夜は9時まで営業。古書の買い取り依頼があれば、主に午前中に行くそうです。これら総てをひとりでこなします。
 お店の売上げと、市場での売り買い、そしてお客様からの買い取りが収入源で、仕入れ代金はもちろん、お店の家賃、倉庫代を毎月支払います。
 インターネット販売はやらないそうです。時間もないし、リアル書店の経営が根幹で、お店に来てくださるお客様が一番大事、と考えているからです。

 実は、既に千葉県全体でも店舗を持っている古書店は数えるほど。しかも跡継ぎはほぼいない。10年後に何店残っているか。これは東京や京都など、ほんの一部を除けば全国的な傾向であるに違いありません。
 坂本さんが働き始めた20数年前に比べて、来店者数は半分以下に減ったといいます。当時は柏市内に6~7軒の古書店があったのが、今はほぼ一店でこの状態。来店者の多くは高齢者で、若者は数少ない。何故そうなるのでしょうか。

画像17

 「本を読む人がどんどん減っていますんで。残っていく古書店はほんの一部でしょうね。今は本当に本が読まれなくなってきた。電車の中でもみんなスマホを見ていますから。」という坂本さんに、ブックオフなどの新古書店やアマゾンについてもどう観ているのか聞いてみました。

 アマゾンの影響の大きさは認めながらも、アマゾンは実際便利で、否定はできない。むしろ、アマゾンの影響を受けているのは太平書林のような旧来の古書店より、小説や漫画を主な商品とする新古書店だろう、と言います。
 一方で、「新しくて綺麗な本」の買取に価値を置く新古書店では見向きもされないような本を扱っている(?!)のが太平書林なので、ある意味で棲み分けは出来ている、のだそうです。
 今、太平書林を支える客層は、本がなくては困る、というコアな人たち。「レコード屋さんみたいな感じだと思えばいい」

 新刊書店も厳しくなっています。在庫をたくさん抱えられる大型のチェーン書店か、アマゾンしか存続できないような状況が続く。「本だけじゃないですけれどね。個人経営で物販のお店ってまちにないじゃないですか」と笑う坂本さん。話が悲観的過ぎて笑うしかない、のかもしれない。

 話を聞いているうちに気がつきました。すると、過去の名作、名著を手にとる機会がなくなっていく、ということにはならないのだろうか? アマゾンには確かに膨大な新刊本と古書が登録されているのだろうが、検索して一直線にめざす本を手に入れるには便利でも、まちの書店のように、棚から棚をめぐり、偶然に導かれてモノとしての本を手に取り、選ぶ、というような体験は望めない。

 一方、ブックオフなどの新古書店はとても便利なのだが、値段を付ける基準はどうしても新しい本、綺麗な本……などで、本の内容をきちんと判断して古くとも汚れがあっても値段を付ける、というのは難しいようだ。そもそもバーコードがついていない本は買い取り対象にならない。持ち帰りたくないと言えば、受け取ってはくれるのだが、店頭には並ばずに廃棄処分をするので、むしろお金がかかるんですよ、という説明を聞いたことがある。

 ということは、過去の名著は触れられる機会もないまま(電子化もされず)、たった今もどんどん破棄されているのだろう。せめて、図書館がしっかりと本という文化の守り手として機能してくれたら、とは思うものの、まちの中で孤塁を守る古書店が貴重である所以だ。

 Googleは、実は片っ端から本をデジタル化したはずだ。どれほどの予算があればいいのか分からないが、国か誰か、同じことを日本でもやってくれないものか。おそらく、戦闘機一機をアメリカから購入するよりずっと安いだろうから。

■ブックススズキ

画像18

 kamonかしわインフォメーションセンターの「つながるライブラリー」にも登場したブックススズキの鈴木さん。
 ライブラリーはとてもいい試み、と褒める。本を紹介する5人がそれぞれ個性的。それに、かしわインフォメーションセンターのように誰でも来れる場所、開かれた場所でやっていることに意味がある、という。松葉町で、絵本に特化した古書店を経営する鈴木さんに話をお聞きした。

 今やインターネットやスマートフォンの時代。
 直ぐに情報が得られるネットやスマホの良さはあるけれど、すごく忙しい現代人は、自分が好きなことばかりでつながりがち。子育て世代は子育て世代だけでタコ壺化する。親がそうだし、子どもはもっと、生まれた時からスマホがある時代。

 「私は、ネットのない時代の良さは、常に考えるヒマがある、考えながらコミュニケーションをとっていた良さ、だと思うんですよ。会って話すのが当たり前だったから、相手の表情とかも一緒に解釈するんだけれども、今は、見えないところで話が進んでしまう。本当に話したことが相手に伝わっているか分からないままで話が進んでいく。あるいは、見えないから言い易いんだ、っていう空気を肯定している気がする。子どもたちが育っていく過程で、心を育てていく時期を、それでいいのか。思春期の、不安でいっぱい悩む時期に、私たちは人とぶつかったり、人のフリを見て育って来たんだと思うんですよ。」

画像19

 元々は新刊書店を経営していた鈴木さん。しかし時代は移ろい、まちの本屋の経営は限界に。
 そのピンチに、知人から1000冊以上の絵本・児童書を託され、これをチャンスにと一気に子どものための古書店へと業態変換する。

 今、広い店内には、トトロが居る木製の小屋や、機関車が置かれる。いずれも知人に託されたり、とある展示会終了後に廃棄されそうだったものを引き取ったりしたものだ。
 「どうせやるなら、子どもたちが楽しんで笑顔になる絵本を置きたい。絵本には人生を語っている部分が含まれていることが多いんです。だから、大人にもいい。子どもはあっというまに育ちますから、絵本に触れないで育ったらその時間がもったいない。店内の本は自由に読んでくださいって、当初から言っていたんです。特に三歳未満の子どもは、何でも自分の思ったように行動したいんです。それが成長過程だから。でも、子どもを連れたお母さんはそれを駄目、ダメって、止めなきゃいけないと思って、書店でも図書館でも、とってもストレスなのね。当然なんです。それをこの店では取り払いたかったのね。」

* * * * * * * * * * * *

 今回、二つの古書店にお邪魔して話を聞き、まちの書店が文化を担い、子育てを陰ながら支援する様を見せて頂いたように思いました。しかし、いずれも経営としては綱渡りでしょう。
 因みに、ぼくも関わっている古本のフリマの「本まっち柏」のような市民活動についてはどう思いますか? と太平書林の坂本さんにお聞きした時、返事は明快でした。

 「それは、有難いと思います。むしろどんどんやって下さる方がいい。イベントを目指して他所から来たお客さんが当店にも寄って下さるかもしれないですし、本当は古書店も何店かあった方が集客力が増すんです。回遊して下さる。」

 お話を聞いて思いました。新刊書店や古書店、そして市民活動、さらに図書館、インターネットをも含めて、きっと何らかの連携や協力が必要な時代が来ているんだろう、と。
 今はきっと、本という文化のサバイバルの時代なんだ、と。

■今回登場した古書店
◎太平書林 柏市あけぼの 1-1-3 電話 04-7145-1555
◎ブックススズキ 柏市松葉町5-15-13 電話 04-7132-5870
                            (2019.12.27)


画像20

7:読書会の「饗宴」

 ホントの話、ぼくは柏市内のふたつの読書会に関わっているのですが、前回は古本屋さんという文化の行く末について、いささか悲観的なことを書いてしまい、ちょっと哀しい気持ちになったので、今回は気分を変えて読書会の話をしましょう。

■何故読書会なのか

画像21

 さて。人は何故、今どき読書会などというものに集い、あまつさえ主催者になろうなどと思うのか?

 ぼくの場合は端的に言って、「ローガン」です。つまり、マーヴェルの映画でも描かれたように、あのウルヴァリンも寄る年波に勝てず、かつての超人的治癒力にもついに限界が…。

 んん? …違った。老眼でした。

 つまり、本を読むのが段々と億劫になってきた。忙しくなってしまったこともあるのですが、本を読み始めても集中力が続かず、すぐ疲れる。随分前から読書量ががっくりと減った。もう歳ですね。きっとローガンのせいだ…。

 (気を取り直して)では、どうするか。思いついたのが、読書会です。
 【仮説】読書会に参加すれば(主催すれば)きっと否が応でも本を読むはずだ。(←ホントか?)

 そこで、この仮説を検証するために、ネットで巷に読書会がどのくらいあるのか調べ(結構ありました)、そのいくつかに足を運んでみました。

 これがもう、3〜4年前。確か2016年のこと。
 結構いろんなタイプの読書会があるんだなぁ。と、思いました。ぜひ、調べてみて下さい。そして、自分でも立上げてみることにしました。多少の試行錯誤はあったのですが、今では松葉町のご縁カフェ・まつばRと、柏市柏三丁目のハックルベリーブックスの二階で、それぞれまつばR読書会とカシワ読書会を開催させて頂いています。

 また、参考までに、NHKのEテレに「100分de名著」という、一冊の本を25分×4回で丁寧に読み解いてくれる得難い番組があります。

■読書会のやり方(「持ち寄り本語り」形式の場合)

画像22

 柏で読書会を立上げる際に参考にしたのは、浅草で既に150回以上続いているアサクサ読書会でした。ぼくはちょうど100回目に初めてお邪魔したのですが、シンプルで暖かみのある運営スタイルに惹かれて通ううちに、このやり方で柏でも読書会をしたい、と思うようになり、主催者の川口民夫さんに了解を得て、暖簾分け(?)してもらい、カシワ読書会を立上げました。まつばRの読書会も基本同じやり方で開催しています。

 ぼくが個人的に「持ち寄り本語り」と呼んでいるその読書会のやり方を、ちょっと紹介しましょうか。

①グループ分け
 集まった参加者は、おおよそ8名前後のグループに分けます。少なくても構いませんが、これ以上の人数が集まったらグループを分けた方がいいでしょう。
 グループごとにひとり進行係を決め、最初に簡単にルール説明をします。相手の意見を否定しないことetc.の良くあるやつですね。
 次に、1分程度で短く自己紹介をします。名前(もしくは呼んで欲しいニックネーム等)とどこから来たのか。そして「新春に思うこと」なんて類いの進行係が提示した本日のテーマ、など。初めての参加者も声を出すと落ち着くものです。

②本の紹介と質疑応答
 さて、いよいよ読書会開始ですが、「持ち寄り本語り」形式では、参加者がそれぞれ持ち寄った本を、決められた持ち時間内で紹介し、その後質問を受けます。持ち時間は全体の時間と参加者数にもよりますが、ひとり当りおおよそ12〜15分くらいにします。
 また、本の紹介だけで時間をすべて使わずに、5分前後質問時間を残すのがオススメです。例えば13分の持ち時間なら、8分で紹介を終え、5分は参加者から質問を受けます。
 時に予想外の質問があったりするのもいいですし、答えが見つからずに焦ってオタオタするのもいいものです。
 紹介は順番を決めず挙手で行います。基本、何番目にやろうと自由ですが、本の紹介をしないで帰ることはできません。

 さて。正直に言いますと、ぼくは主催しているくらいなので、何度も本の紹介をしているのですが、未だに紹介が上手くなったとは思えません。もちろん、紹介する本がいつも違うから、ということはあるんだろうとは思いますが、限られた時間の中で一冊の本を適切に紹介するのは、いつもチャレンジングなのことなのだと感じています。

③記念撮影
 全員が終わったら、最後に持ち寄った本を写真に収めて終了です。あっという間に、2〜3時間が過ぎていてびっくりしたりします。

■読書会の魅力とは?

 では、読書会の何が楽しいのか。
 さて、ぼくは何が楽しくて続けているのでしょう? また、おいで下さる参加者のみなさんはどうでしょう?
 理由はこの場合も人それぞれ、なのかも知れません。また、続けているうちに変化していくのかも知れません。

 ただ、ぼくはここで不意に、あの林達夫さんの「『タイスの饗宴』─哲学的対話文学について─」のことを思い出します。

タイスの饗宴

プラトンと言えば対話篇が有名で、「ソクラテスの弁明」「ゴルギアス」、「パイドン」、そして「饗宴」などがあることは知られています。林さんによれば、対話篇におけるプラトンは、まず何よりも戯曲作家である、といいます。そして、戯曲としての対話篇は、登場する当時の著名人物たちの著書の語彙、文体、リズムほかの巧みな模写による、パロディの文学・思想劇であるところに本質があるのだ、と言います。
 現代でも、テレビをつければ、芸人達が歌手やら、政治家やらの模写、パロディを披露しているのを見ることはよくあります。そこで模写されているのは、声であったり、表情であったり、仕草の癖であったり、主に目に見える部分でしょう。
 でも、稀にその人の内面まで写し取ったかのごとくの模写もある。
 いや、むしろ伝記的な映画で、実在した人物の、内面まで深く掘り下げた演技を披露する俳優に、感嘆することがある。
 林さんが言うのは、プラトンはそれを思想の劇として表現した、ということなのです。

 その時、プラトン自身はソクラテスを初めとする著名人の言辞の背後に隠れ、何の権利も主張しない。そこにあるのは、ある種の折衷主義である。しかし、プラトンの折衷主義は「まことに相補足する種々の思想形態の、熟慮の後の選択」であり、彼はそうすることで、「時代を動かしているあらゆる思想を篩いにかけて、その中から思想家、政治家がよって以て立つべき正しい精神、正しい生活態度を全体として描き出そうとした」のだ、と林さんは言います。

 これって、ある意味では(理想の)読書会のことじゃないか…。

 紹介される様々な著書の語彙、文体、リズムほかの巧みな模写(紹介)が響きあう空間。ぼくに言わせれば、それこそが読書会の醍醐味ではないか、と思うのですが…。
 例によってぼくの、言い過ぎというものでしょうか。

 さあ、貴方も読書会へ、ようこそ。

 付記)【検証】これで、読書量が増えていればめでたしめでたし、なんですが、大きな声では言えませんが、…やっぱり言わないでおきます。

アサクサ読書会
 https://www.facebook.com/asksdksk/

カシワ読書会
 https://www.facebook.com/kashiwadokusyokai/

ご縁カフェ・まつばR
 https://cafematsuba-r.jimdofree.com

100分de名著
 https://www.nhk.or.jp/meicho/
                            (2020.01.31)


画像24

8:「本まっち柏」と「本と花の日@柏」

 ホントの話、真冬の寒さがゆるみ、これから春だ!というところでの新型コロナウィルスの感染は辛いニュースですね。身の回りでも、友人知人が主催者になっているイベント等が次々と中止や延期になり、悲しいです。
 まだ終息が見えない現在、緩みが見える政府には本気の対策を望みます。

 今回は新刊書店に取材して、書店の未来について考えようか(いささかオーバーですが)、と思っていたのですが、趣向を変えて4月に予定しているイベントのご紹介をしてみたいと思います。4月にはウィルスの感染も終息していてくれ!……という思いも込めて。

■本まっち柏

画像25

画像26

 軒先ブックマーケット「本まっち柏」については、このブログの第2回でも触れました。次回開催が4月19日(日)で、ぼくらスタッフは通称「春の本まっち」と呼び習わし、毎年この時期に開催しています。既に配布を始めている自慢のチラシをぜひご覧下さい。チラシ表面は一貫して新星エビマヨネーズさんのイラストです。毎回ホント、ぼくらも楽しみにしています。

 タイトル下に「page17」とあるのは通算17回目の開催、ということの本まっち流の表記です。毎回40前後の出店者さんを募集し、主に柏市柏三丁目界隈(通称・裏カシ)のお店等にご協力頂き、その軒先をお借りして、ここに2店、ここは1店…と応募してくださった出店者さんを割り振っていきます。当日は裏カシ一帯の通りが古本ストリートと化すわけです。

 裏面に書いてあるように、3月16日からいよいよ出店者の募集も始まります。誰でも出店可能です。家に読み終えた本はありませんか? 貴方もぜひ、ブックオフに持っていく代わりに(とか言うと怒られそうですが)本まっち柏に出店して下さい! 自分で本に値付けして、道ゆく人と対話しながら本を売る。古本屋さんごっこは楽しいです。

■本と花の日@かしわ

画像27

 ところで、本まっち柏のチラシ表面には縦書きで「柏サン・ジョルディの日に同時開催」と書いてあります。実は、これが「本と花の日@柏」のことなのです。少し前まで、こう呼んでいたのですが、もう少し分かり易い呼称に変えたのです。
 実は正式なチラシの作成はこれからなのですが、ちょっと急ぐ理由があり、大急ぎで暫定的なチラシを作成しました。まずはそれをご覧頂くと嬉しいです。

 そこにあるように、『4月23日はユネスコの「世界本の日」や、日本においても「子ども読書の日」に指定されています。スペイン・カタルーニャ地方では、毎年この日に大切なひと同士で本や花を贈り合う「サン・ジョルディの日」という風習があり、大変賑わいます。
 この風習をもとに「本と花の日」として、柏から全国のまちで開催されることを目指します。』というものです。

 大切な誰かに、感謝の気持ちを伝える、その手段としての「本と花」。

 このイベントは、このブログの第4回でご紹介した柏まちなかカレッジと柏まちなか図書館のグループが昨年から会議を重ねて検討してきたものです。
 開催は、4月23日の直近の日曜日として19日、つまり春の本まっちと同日開催です。場所は柏駅東口マルイ前のウッドデッキです。

 詳細はまだまだこれから詰める段階ですが、

紙芝居「ドラゴンのバラ」上演
「しばわんこ」で人気の川浦良枝さんのサイン会・本まっち柏(ウッドデッキにも5店ほど出店予定)
生け花ワークショップ       
バラの絵のライブペイント
バラの折り紙ワークショップ    
アコーディオン生演奏

 その他、本の渦、という説明し難い企画や、まだ詳細をお知らせできる段階ではありませんが、市内大型書店さんにも企画でコラボして頂けることになりそうです。

 何しろ初めての試みで、何がどうなるか分かりませんが、今のうちにスケジュールに入れておいて下さい。ただ、本まっちも、本と花も、雨天の場合は中止です。
 野外のイベントは、特に本のイベントは、雨に弱い。これは常に悩みです。

■本屋さんのある暮らし

 さて、今回のブログも本や著者の紹介コーナーはなしです。5回目までは文末に付録みたいに付けていたのですが、本文がどんどん長くなっていき、予定の文字数を毎回超えてしまうので、最近はパスしています。

 つい先日、前々回の記事で触れた柏の素晴らしい古書店「太平書林」に久々に足を踏み入れました。

 店内は心持ち以前より整理されていて(それでも所狭しと本の山ではありますが)、お客様も入れ替わり立ち替わり訪れている様子です。そして、ひとりの男性が店主の坂本さんに気軽に話しかけ、坂本さんも面倒な素振りもなくにこやかに応対していました。ぼくも思わず一言くちを挟みました。

 そう言えば、昔は普通だったよな、こういう光景。
と、そう思いました。

春の「本まっち柏」            
 https://www.facebook.com/events/2835641123182980/

本と花の日@柏
 https://www.facebook.com/events/803652536718640/
                           (2020.02.28)

後記)残念ながら、上記のふたつのイベント共に中止になりました。本まっち柏については、既に出店者の募集も始まっており、特に常連のみなさまには「残念だ」「次の機会に出店したい」という声を頂きました。
 本と花の日については、イベントそのものは取り止めるものの、本と花の「日」そのものを、広めてゆく活動は行おう、ということでラチシを作り直しています。ちょうど出来上がってきたものがありますので、ご覧下さい。(2020.04.14)

A4カラー


9:本との未来

画像29

              (イラストレーション:新星エビマヨネーズ)

 ホントの話、昨年の6月から始まったこの連載も今回が最終回です。終わりに、地元の児童文学専門新刊書店のハックルベリーブックスと、大阪は文の里という駅の商店街にある「みつばち古書部」のことを書いて、本の未来にちょっと思いを馳せながら、連載を締めくくりたいと思います。

■ハックルベリーブックス

画像30

 馬鹿げた問いかも知れないけれど、人は何故、本屋さんなんてものをやりたいと思うのでしょうか?

 ハックルベリーブックス店主の奥山さんは、元高校教員ですが、その前からいつかは本屋さんをやりたいと思っていたのだといいます。在職中から、書店員とはどんな仕事か、とセミナーに参加したり、書店を建てる土地を探したりしていたそうです。
 いよいよ教職を辞して、本屋を始めようと様々な人に話をしたら、ほとんどの人から「やめた方がいい」と言われたそうです。まあ、そうだろうとは思います。それが2000年代半ばくらいのことだそうです。

 最初から、土地を借りテナント料を払っての書店経営はとても無理だと判断していた奥山さんは、所謂裏カシの一角にある土地を運良く見つけて買い、店を建てました。退職金をつぎ込み、ローンを組み、夢を現実にする時が来ました。
 ただし、直ぐに開店したわけではありません。クラス担任になったタイミングもあり、さらに4年ほど教員を続け、その間に借金を減らしつつ、退職後漸く店を開きました。

 最初から順調にことが進んだわけではありません。そもそも本を仕入れるためには取次店と契約しなければなりません。しかし、小さな店と契約してくれる取次は限られるのが現実だといいます。契約に当たっては月間の売上げで100万円程度を期待される上に、その2〜3倍の契約金を求められるのが通常だそうです。奥山さんは幸い、土地を担保にすることで、契約金を払わずに済みました。
 また、雑誌をほとんど置かず、自らセレクトした本を取り寄せて棚をつくる形を選びました。基本的に買い取り。返本は出来ません。棚に並んでいる本は、基本全部自ら読んだ本です。リスクはあるやり方ですが、取次店任せの配本は嫌だったのです。

画像31

 記念すべきオープンは2010年の10月でした。運が良かったのは近くに住んでいて市議になりたての山下洋輔さんなど、発信力のある客が店を見つけ、柏まちなかカレッジのメンバーが出入りするなどして、存在が知られ始めます。更に2階のレンタルスペースの利用者が徐々に増えていきます。前回述べた古本のフリマ「本まっち柏」などの活動もハックルベリーを拠点に始まりました。

 大学で児童文学等を講ずる非常勤講師を三つ掛け持ちし、店番をしながら講義の準備をし、ライフワークの評論の執筆にも時間を割きました。そして店は、今年10月、10周年を迎えます。しかし、店の経営はやっとトントンだそうです。もし、テナント料を払っていたら赤字。試行錯誤の10年でしたが、それでも、これが現実。

 奥山さんには当初から、個人経営のお店が成り立たないような、行き過ぎた資本主義の風潮に挑戦したい、という思いもあったと言います。10年やってみたが、状況は動かない。これでいいのか。本屋に限らず、チェーン店ばかりのまちではつまらない。その思いは今も残ります。それでも奥山さんは、40万都市の柏の中に、独力できらりと光る文化の灯を構え、老若男女が集う貴重な場を提供しています。世の中にはそういう物好きな人が必要なのだ、と思います。

■みつばち古書部

画像32

 「本まっち柏」の常連出店者さんだった北山さんが、お仕事の都合で関東から関西に帰られてしばらくして、実は面白い古本屋さんがあるんですよ、と教えて下さったのが、大阪の「文の里」という駅から徒歩一分、駅前商店街にある「みつばち古書部」でした。

 無駄に好奇心旺盛なぼくは、関西に行ったついでに早速「みつばち古書部」と、その生みの親である古書店「居留守文庫」の店主・岸さんを訪ねました。それが2017年11月。そして、話を聞いてみてびっくり。いやはや面白いことを考える人がいるものです。みつばち古書部は2017年7月にオープンし、手探りで新しい古書店の姿を模索している最中でした。

 そもそも岸さんは演劇人。長く住まわった演劇の世界から古書店主に転じるきっかけは3.11だったと言います。震災後にボランティアとして石巻に赴き、半年ほど住み込んで復興支援の活動をした後、大阪に戻って自身の今後を考えた時、以前から漠然と考えていた古書店主になることを選んでいました。

 そして始めたのが文の里の住宅街にひっそりと佇む居留守文庫。面白いのは、演劇の世界で舞台の段差をつけたりするのに使う「箱馬」から発想して、木箱を積み上げる方法で店をつくっていること。木箱が積み上げられ、その中に本が収まる独特の空間になっています。

 みつばち古書部のきっかけは、居留守文庫のお客さまだった駅前商店街の空き店舗の大家さんから、お店を出してみないか、と誘われたことでした。個人営業なので、二店舗の運営は難しいが、木箱を使い、古本好きの人々に箱単位で出品場所を貸し出し、場所代の代わりに日替わりで店番を担ってもらえば、テナント料を払って古書店の運営が可能なのでは、と考えたのです。

画像33

 そんな風変わりな仕組みの古書店に出店者が現れるのか、心配していた岸さんでしたが杞憂に終わります。少しずつ箱の数も増やし、出店ルールにも工夫を重ねて、現在は店内に100を越える箱が積み重なり、個性豊かな本が並ぶ。その様子は正にみつばちの巣。出店者も90組近く、店番予約がすぐに埋まるほどになり、テナント料を安定的に払えるまでになりました。(詳しくは、上記「みつばち古書部の仕組み」を参照のこと)

 この試みをぼくに教えてくれた北山さんも「東風451」の屋号で出店し、定期的に店番も務めています。古書「部員」として、現役の書店員や古書店主、一箱古本市などで趣味的に本を売る活動をしている人や著作活動をしている人など、様々な本好きが集い、本を出品し、また日替わりの古書店主を楽しんでいる様子が窺えます。

 岸さんによれば、始めから意図したことではなかったが、このような仕組みがうまく行くことが分かって、参考にしてもらい、同じような試みが広がっていくようなことになれば、とても嬉しい、とのことです。

*   *   *

 9回にわたって、本や書店、図書館、古本市などの話題を取り上げて来ましたが、ぼくが書ける範囲は僅かで、また、本を巡る状況はたった今も目まぐるしく変わりつつある中、及ばずながら、ひとりの本好きとして、本について書かせて頂く機会は有難かったです。
 願わくは本という文化が、今後もぼくたちを支え続け、励ましや勇気を与え続けてくれますように。
 

ハックルベリーブックス
 http://www.huckleberrybooks.jp
居留守文庫/みつばち古書部
 https://www.irusubunko.com
風文庫/芦屋みつばち古書部
 https://kazebunko.com
「本との話」一覧(Kamon かしわインフォメーションセンター HP)
 https://kamon.center/tag/本との話/
                     (2020.03.27)

*今回、全9回の連載をまとめるにあたり、若干の追加修正を行いました。
(2020.04.14)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?