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不屈

以前にも述べた通り、ボキは政治と宗教に関する物事をこの場では避けている。
何故ならば、いずれも「個人」の問題であり、議論を重ねた所で解決する問題ではないからだ。
ましてや、地球上にあらゆる人種や思想を持った人々が共存している。
全てを統一する事は不可能であり、もし統一しようと目論む人が存在するならば、それは大きな間違いであるとだけ告げたい。

これまで映画に関する記事を述べてきたが、「ドキュメンタリー」というジャンルは数える程度しか紹介してこなかった。
今回はやや堅い内容だが、「米軍が最も恐れた男 カメジロー 不屈の生涯」を紹介したい。



ご存知の方もおられるだろう。
この作品は「米軍が最も恐れた男 その名は、カメジロー」の続きというか、続編に当たる作品だ。

前作との違いは、より瀬長亀次郎氏の生涯にピントを合わせた内容に仕上がっている点だ。


細かな内容はここをクリックし、概要を読み解いてほしい。

残念ながら沖縄を訪れた事はないが、憧れは常に抱いている。
特に本国にはない琉球独特の音源には常に頭が下がるばかり。

音楽はもとより、食べ物も同様、本国にはない食材や調理法が目立つ。
これは個人的な解釈なのだが、海を隔て台湾に近い部分も関係してそうだ。
事実、歴史を紐解くと、遠い昔の話だが、台湾とまだ本国(日本)の領土ではなかった時代に、沖縄と台湾は国交を結んでいたそうだ。
いずれも小国ではあるが、結束を深めるために音で威圧した記録がある。
それは即ち音楽に繋がるのなのだろう。
とても抽象的な言い回しなのだが、大国の船が近ずくと、小国ではあるが結束した隣国から攻撃をするぞ!といった脅しが独特の音源を生んだといった内容の事を以前に教わった。
こういった背景があり、両国の共通した文化が反映されているのだろう…
これも勝手な解釈に過ぎないが。

ここで紹介する主人公は役者でもなく、演じる者ではない。
記録の中の証人なのだ。

戦後まもない時代、沖縄はアメリカに支配されていた。
かつては独自の文化を切り開いた島が、崇拝も尊重すらない大国が土足で汚しつつも、文化の違う理念や思想を押し付けられる。
しかもその大国は「民主主義」を理念に掲げる。
だが、島の人間にしてみれば、まるで狭い鳥籠に無理矢理に閉じ込められた翼をおられた小鳥に過ぎないとしか思えなかった。

この様な制圧に対し真っ向から否定したのが、「カメさん」または「カメジロー」こと瀬長亀次郎氏である。


自己主張が強く、市民から絶大なる支持を集めたカメジローを最も恐れたのが大国アメリカだった。
それからというもの、権力を駆使しカメジローの弾圧を図る。

先ず理不尽な理由で刑務所に収監し、選挙権を剥奪した後、本国に上陸できないように旅券(当時は沖縄と本国を往行きする際にパスポートが必要だった)の差し押さえなど、アメリカがカメジローに対する行う行為はまるでテロリストを扱うかの様であった。

不当な扱いをされつつもカメジローは屈する事なく、自身のためではなく沖縄のために戦い続けた。


表向きは本国への返還を要求したのだろうが、実際は沖縄を都合の良い場所にしたかったのだろう。
事実、この作品で描かれている様に、アメリカはサリンや化学兵器を勝手に密輸し、密かにか沖縄に隠し通してきた。
この様な事態が知られると、持ってくる時はコソコソとしつつも、帰る際は堂々と「いつでもこの島を鎮める事は可能だぞ…」などと言わんばかりに胸を張って帰る。
その後、完璧とまでは実現はしなかったが、アメリカは少ない数の兵隊を残しつつも、大半の数は本国へ帰って行った。

事実上、アメリカ軍は縮小はしたものの、都合の良い基地を残しつつも、本国(日本)に対し、思いやり予算という理解不能な金額をいまだに払い続けている。

カメジローには信念が通っていたせいか、決してブレる事がなかった。
この様な精神をガジュマルの木に例えたのだろう。


本作で当時の総理大臣である佐藤栄作とのやり取りが実に圧巻だ。


晩年は治療に専念し、横になりながら新聞紙を開くと、「憲法改正」の是非が記されている欄を読むと、「変えてはならない、変えてしまったら、また戦争が起こる」と親族を通してカメジローの言葉を聴くと、今の時代にも当てはまる事が妙に不思議であり、不気味に感じるのは私だけなのだろうか…
そしてカメジローが一貫して伝えたかった信念はひとつ。
本来あるべき姿の「自由」と「民主主義」の在り方を、不屈の精神に従い全うしたかったのだろう。

それ以前に、今の政治に期待する事がないのが現状である。
何故ならば、かつての様に、政治にドラマがなくなってしまったからであろう。

この作品を世に送り出した監督を務めた佐古忠彦氏の力量に感謝だ。


これも個人的な意見だが、間違いなく本作は、佐古氏の師匠にあたる筑紫哲也氏も喜んでいるに違いあるまい。


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