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「松本の本」の私的体験記

2019年、天皇の退位と即位、改元に伴う10連休という社会人になって発の二桁連休をほぼ松本市内のみで過ごしたゴールデンウィークの終盤。
それなりに日々満喫し充実した連休であったが、最後の最後に思わず久々に文章を綴りたくなる出来事があった。

里山辺のお船祭りを堪能し、昼食を済ませ何気なくTwitterのTLをスクロールしていたおりに、目に飛び込んできた books電線の鳥さんの「松本の本」に関するツイート。

「あー、一箱古本市覗いてみたかったんだけど、行かれなかったんだよなぁ。ところで、これは本好きのための古書店の話題が中心の冊子かな?」

くらいに思いつつ、なんだか面白そうな予感がし、汗ばむ陽気の午後、早速「Books電線の鳥」さんへ向かう。

訪れるのはおよそ一年ぶりくらい。

本が並ぶ土間の間で呼び鈴を鳴らし店主さんを待つ。
久しぶりの訪問だったので、初めてきたような顔して待っていると奥から出てきた店主さん。
どうも覚えてくれていた様子で、なんともこそばゆい。

土間で靴を脱ぎ、ちゃぶ台が置かれ、本が並ぶ八畳一間の畳の間に招かれる。
この友達の家に来たみたいな気楽過ぎる感覚も久々。

早速

「松本の本、ってのがあると知りまして、ありますか?」

と訊ねると、あーあーありますよーと言った感じで「見本」と付箋の貼られた冊子と付録の地図を持ってきてくれた。

冊子の出来は元より味わい深く温かみを感じる手書き地図がまた良いわけで。記事としっかり連動もしていて眺めてるだけでも発見がある楽しい地図。

アイスコーヒーを頼み、待ち時間に何気なくパラパラとめくって出てきた最初のページが
「東町・裏町界隈の小路」の題と見慣れた場所の写真。
昨年から毎週日曜の早朝はここで珈琲を頂く、と決めて通い始めた「珈琲茶房かめのや」さんがある通りの写真だ。
下には「笹井小路」とある。

ん?ん?あれぇ?古書店の話題だけかと思ったらこういう話題も載ってるのか。
しかし待て待て、それより「笹井小路」って、何だ?

毎週のように訪れているこの通りに通称があったとは!って、割と自分の中じゃ大事件。

松本の城下町を散策を、楽しみはじめて5年ほど。
その間に、散策の手助けになると思い、始めた位置情報利用のスマホゲームingressでは、イベント用ミッション(平たく言えば街歩きのルート設定)やイベント告知文を書かせもらうなどする中で、この城下町を楽しみ、また楽しんでもらうために知識や魅力への理解を深めていった。
その際に頼りにしていたのは主に市の観光ポータルセンターに置いてあるマップやインターネット、市販の観光冊子など。

なので、その知識と散策経験から松本の城下町が「親町三町・枝町十町・二十四小路」で構成されている、という事は知っていた。
街には対応した旧町名碑が立っているし、その名称は住民の中で日常的に使われて今なお息衝いている。
ちなみに上記は江戸時代の旧町名であり、その他にも昭和の旧町名碑も立っている。

流石にその全てをソラで言える程記憶しているわけではないが、その中に「笹井小路」は無かったはずだ。

再び紙面に目を戻す。
記事の冒頭には
「これから紹介する小路の名前は、地図に記載されている様な認知度の高い名称もあれば、その名で呼んでいた人は、ひょっとしたらその人ただ1人かもしれないものもある。」
とあった。

(ひゃー!少なくとも城下町エリアの事については随分わかった気になっていたけれど、愛着があるこのエリアにまだまだ知らない事、楽しみ方の切り口がこれほど沢山あるのか!面白い!)

とまぁ、強いて語彙力の足りない言葉にするとこんな具合の言葉にならない嬉しい感動。
このページだけでも宝物を見つけたような気分になった。

そして、冊子の冒頭こそ松本の古本屋の特集であるが、(いやこれはこれで面白い)

特集2「”ワタクシ テキ マツモト”のススメ」と銘打ち掲載されている16本もの記事が尽くこの調子なのである。
そしてそれぞれの記事が担当されてる方の個性豊かな語り口で、変に気取らず好きなものを好きなように綴ってるのが気持ちよく面白い。

私的感覚で例えるなら、深度とノリは「ブラタモリ」より「タモリ倶楽部」に近い。

松本の一般的な観光冊子、情報の類では外せないだろう本町、中町や縄手通りなどほぼ話題にされていない。
強いていえばやや裏町、東町界隈に偏っている。城下町界隈でも少々ディープなエリア。

そして執筆者の面々もよくよく見たり聞いたりすれば、「あー!あの企画をされてた人なのか!流石よなぁ」みたいな感じで、自分からすれば、そう、流行りに乗じて例えるなら「松本散策のアベンジャーズ」みたいなそんな感じである。

ともかく、「これいい!面白い!」を唾飛ばす勢いで連呼し店を後にした。

例えば個人的に気になるホットな話題として、今年3月から始まった不動産屋さんが始めた街歩きツアー事業「ココブラ信州」。 その中で狛犬ツアーを担当されている方が正に松本の狛犬に関する記事を寄せていたりする。


そして翌日早朝、この記事で見知った場所のいくつかを早速訪れてみた。

初め訪れた某所の大天白稲荷社。割と近所な割に、ここに至るわずか十数メートルの道程が少々スリリング過ぎるが故に恐らく知る人ぞ知るスポットだろう。大っぴらにしにくい場所。因みに某位置ゲームのポータルもしくはポケストップでもないし、ならない方が無難と思える。

松本城の景観の秘密、下馬出し町の高低差、こんな場所にもあったか天白稲荷社…ミニベロに跨りサクサクと、暫し散策し、帰宅の途につこうと、たまたま「想雲堂」の前を通りがかると、「想雲堂」の店主さんが店から出てきた。
この「松本の本」の編集長である。

何度も通っているわけではないが、顔見知りではある。
普段なら会釈程度で通り過ぎてるところだけれど、今回は直にホットな感謝が言えるタイミング。

「あ、おはようございます。松本の本買いましたよー!メッチャオモロいんですけど、これ!今、丁度いくつか巡ってきてみたところでして。」

と相変わらず語彙力の足らない言葉で感動を伝える。

すると、
「あー、そうですか。来年書いてよ。原稿用紙5枚分くらいとテキトーに写真あればいいから!ほら、民話の話とか(笑)」

以前、ここで信州の民話に関する本を購入した折に、暫しカウンター越しにそんな話で盛り上がった事を店長さんは覚えてた。

一瞬うろたえたが、思わず
「え?あー……なんか考えときます。」

あー、言っちゃったよ。
それなりに実績があったり中にはモノ書きのプロまでいる今回の執筆者陣を見渡す中で地元がちょっと好きな程度のサラリーマンのおっさんが、混じっちゃうの大丈夫なのか?
と思う一方で、こういう自分が面白いと感じた企画に触れられる機会がこんな風にやってくる事もそうそう無いよな、よし!
っと、とりあえず今はその気に。

まぁ、そんな調子で面白い事はシェアしたいタチでTwitterで雑な関連ツイートを飛ばしてる最中。オビちゃんの「買いにいこうかな?」という趣旨のつぶやきを目撃。

オビちゃんは松本好きを公言し、松本に限らず中信エリアや関連する文化などの知識は元より、散策の行動力が生半可ではない大学生である。
いつからフォローさせてもらっているのか忘れてしまったが、しばらく自分と同年代かそれ以上の年代の方かと思っていたくらい、豊かな知識と見識を兼ね備えた末恐ろしい若者。
以前、蟻ヶ崎の饅頭塚で補足され面識を持つ事となったという経緯からして少々普通ではない。(ingressならまだしも)

この本の内容を見たときに、いの一番に読んでほしいと思ったのがオビちゃんであったのでDMでおススメしていた。
とりあえず興味を示してくれた様子を見かけて一仕事終えた気分に。

さて若き松本の生き字引の如きオビちゃんが、この冊子を見てどういう反応するのか?
なんだか、その瞬間を目撃したいという興味が湧いてしまいDMで連絡を取り都合を合わせて、再び開店直後の「Books電線の鳥」さんへ。

ちゃぶ台を囲み早速例の冊子を広げているところに間を置かず某ローカル新聞社の記者さんが来店。一緒にちゃぶ台を囲み歓談。

冊子の中に市街地の高低差を5m間隔で色分けした地図を見つけて、はにかんだように見えるオビちゃんの様子を見て一先ず妙な安堵感。
勧めといて詰まらなかったら申し訳ないものな。

記事の中の話から銭湯の話や、島々線に関する話、途中来店された別のお客さんも交えて話が盛り上がる。

新聞記者さん、そんな様子を記事にしたくなったようでお仕事モードに切り替わる。
まぁ、なんだか恥ずかしいので取材記事に氏名が載ることは丁重にお断りしてしまいましたけど、この時の様子が某紙で記事になる(かも)なのはちょっと楽しみである。

「松本の本」を入手してわずか十数時間の間に色々な出来事が、それも半ば偶然の積み重ねで起こるという自分好みの愉快な展開。

お陰様で令和の初めを面白可笑しい良いスタートで迎えられた事は、私的な節目として良い思い出になりそうである。

#松本の本 #松本 #本 #古本 #古本屋 #喫茶店 #街歩き

追記メモ。


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