夏は始まるけど終わりだよ

猛暑がヒドイので夏は終わりにしませんか? あるお昼休み明け、世界の重鎮たちが集まった公式会議にて、ある国の大臣が発言した。環境保護大臣だった。

「確かに」
「たしかに」

くちぐちに、他国も賛同した。
ここ数年、十年、十数年で世界中の夏は変わってしまった。酷暑。猛暑。磔にされたら日照りで1日で死ぬという、旧世界の拷問とてこうは予想しなかっただろう、暑さ。

各国の死者ももう交通事故などより多い。飛行機事故に比べたら蟻の一脚と人間のサイズほどに違いがあった。

会議は進み、では来年から、夏は『なし』にしよう。
そうした結論があがり、そして実行された。
各国で夏のおしまりのお知らせが報道される。夏は終わります。これから、季節のひとつから、夏はなくなります。春と冬と秋の世界が、ニューワールドがはじまります!

各国、夏の1日目に空中散布がはじまった。夏を雲を消すのである。物理。夏の原因となる暑さに、薬剤も散布して中和して、暑さを科学的に殺すのである。

夏は快適になった。
春が、伸びた。
秋は、近づいた。

泡になって溶けて消えるよう、やがて夏の入道雲は伝説みたいになってゆく。それを目にしたことの無い子どもが増えて、永遠に増え続けて、世界中のひとたちは不老不死みたいになって人魚姫もかくやの美しさを手に入れていった。科学がそうできたから。

やがて、

「おばあちゃん、アレッて入道雲って……、ニュウドウグモってやつ!? すごい、はじめて見たよ」

「……そうね。……少し、似てるね」

キノコ雲を見上げながら、赤茶けたソラに広がる閃光のなか、キノコ雲がいくつもできていくのを、特殊強化ガラスのシェルター越しに見上げながら、親子は、世界の終わりを見ていた。

奇しくも8月1日であった。
夏の終わり。


END.

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