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読書記録:ユア・フォルマV 電索官エチカと閉ざされた研究都市 (電撃文庫) 著菊石 まれほ

【対話を避けて、心は読み解けず、閉ざされた冬が始まる】


【あらすじ】
いつか私の「秘密」が公になったとしても、どうかかばわないで下さい。

敬愛規律の「秘密」を頑なに守るエチカと、彼女を共犯にしたくないハロルド。対話を避ける二人の溝は深まっていた。

そんな中、解読が続けられていた謎のAI「トスティ」が、ドバイの技術研究都市「ファラージャ・アイランド」で開発された可能性が浮上する。所有者の人格を反映した分身アミクス「ego」が浸透する都市への潜入捜査は、その環境の特殊さから困難を極める。研究都市に住む天才少年・ユーヌスの協力もあり、徐々に真相に近づくエチカたちだが、同行していたビガの身に異変がおこって――。

エチカとハロルドが出会ってから一年、彼らの長い冬が、また始まる。

登場人物紹介

蝶の島に潜入する物語。


相手を想うからこそ、敢えて離れなければならない場面がある。
哀しい別離はお互いがそれぞれの道を歩み始めた証でもある。
冬の時代に到来してしまったエチカとハロルドを余所に、人格を反映したアミクスを創り出す都市に潜入する事で、巨大な蠢く闇に触れる。
複雑な計画を暴く中で、目まぐるしい異変が彼らを襲う。
亀裂の走った関係の中、頑なに守り続けた秘密を知った時、もう後戻りは出来ない。

エチカとハロルドは技術研究都市「ファラージャ・アイランド」へ調査に向かう。
そこではペアリングアミクスと呼ばれる所有者の人格を反映させたアミクスが予想以上に浸透していた。
エチカたちが謎のAI「トスティ」について調べていく中で、同僚のビガやフォーキンたちに異変が起きていく。
この原因を調査していく中で、ペアリングアミクスやファラージャ・アイランドの真実が少しずつ明らかになってくる。

恩師であるソゾンを殺した相手への復讐に燃える我らが友人、ハロルド。
彼は忘れてはいけない、アミクスと呼ばれるロボットである。
だが、その思いと心のあり方は、もはや「人間」といっても差し支えの無いものかもしれない。
ならば彼は人間か、と聞かれると勿論そんな事もない。
ではそんな彼の相棒である電索官、エチカは彼を止められるのか、と言うと。
やはりそう簡単には行かぬ。
彼女が未熟だから、と言い換えてもいい。

秘密を守りたいエチカ、そんな彼女を共犯者として巻き込みたくないハロルド。
人と機械の間で友情を育んでいた二人の間には、気が付けば深い溝が形成され。
周囲も疑惑を抱く程に、どこか絆は拗れ始めていた。

RFモデルの秘密を抱えた事で罪を犯す事になったエチカに制御できない複雑な気持ちで態度を決めかねるハロルドと、今まで通りに接して欲しいのにそれが叶わず悪化していくエチカ。

分からなくていいと相手を突き放して、自分を守った気でいるこの世で一番薄汚い、孤独な妄想。
そんな断絶した二人を試すように、孤絶した島で巻き起こる危機が、二人の心の糸を手繰り寄せる。
感情のすれ違いの中で何度も心をぶつけ合って。
それでも、相互理解からは遠い距離にいる二人。

やはり、ヒトとアミクスは理解し合えないのか?
無理解の境界線を幾度となくまたぎあって。

様々な未知の技術が支配するそこへ乗り込んでみても、得られた手掛かりはあまりにも少なく。
トスティのプログラムコードが、アイランド運営開始当時、創設チームの一員であったロイドという男により創られお蔵入りになった物とは分かるも。
ロイドは既に死んでおり。
糸の如き手掛かりは途切れる中、突如起きたユア・フォルマの異常動作事件に巻き込まれ、ビガが負傷してしまう。
急遽、そちらの事件も追う事となり、手掛かりとして再起動されたスティーブも加わり。
いつもとは違うメンバーで事件に挑む中、エチカはハロルドと共にこの都市の闇を目撃する事となる。「ego」に隠された真実、何かを隠蔽した研究者達、秘密裡に行われている計画、そこに絡み合う意外な所に潜む黒幕の狙い。


情報が増えるほど熟考する時間が減って感情で判断するようになる、情報化社会の問題が浮き彫りとなる。
ペアリングアミクスがその人の知識や記憶、性格や仕草まで取り込むことができても、その人とは別であるように。
限りなく人間に近いRFモデルもやはり人間ではない。


お互いを思いやるが故に、お互いを苦しめる秘密を共有した選択。
エチカとハロルドは互いの距離の取り方を間違え続け、都市を侵す思考操作という恐るべき事態だけが進行していく。
環境の特殊さから困難を極める分身アミクス「ego」が浸透する都市への潜入捜査。
一方で敬愛規律の秘密の共犯にしたくないハロルドと、対話を避ける事ですれ違ってゆく頑迷なエチカ。
お互い相手を大切に思っているのに、それがちゃんと伝わってないのが不器用でもどかしい。
本当は正直な気持ちを吐露したいのに、仕組まれたシステムと取り巻く環境がそれを邪魔する。

高度に発達した機械人間との境界線はどこにあるのか?
人間に人格を与えられたロボットは生きていく中で自我を持つようになるのか?
ロボットは感情を理解するようになるのか?
そして、人間は何をもってそれが人間だと判断するのか?

そこの考えに至るまでに、何度もハロルドとぶつかり合い。
結果的にそのたびに選択肢を少しずつ間違えてしまい。
少しずつ輪は繋がり始めるも、大切な証拠は掌をすり抜けていく。
間違い続ける事を理解しながらも、止められなくなって。
エチカとハロルドの間の絆は、決定的に拗れて壊れてしまう。

しかし、蛹が蝶に変態する過程の様に。
蝶が蛹の時に幼虫は一度ぐちゃぐちゃに溶けてしまう様に。

関係を再生していく為には、一度築いてきた関係を徹底的に壊す必要があるのだろう。




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