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おばちゃんCのたわごと

2月5日

女の子は、涙を流さずに泣いていた。

仕事から帰宅する途中だった。

向こうから小5くらいの女の子が歩いてくるのが見えた。

おばちゃんA「あら、可愛そうに。学校でいじめられたのね」

おばちゃんB「あの女の子、気が強そうだからケンカでもしたのかもね」

もう少しのところで私は、そんな感じで女の子を見ていただろう。

自分に嫌気がさす。

私は、おばちゃんたちの会話が聞こえてくるたびに、

「けんか」とか「いじめ」」といったような世間にはびこる

単純ワードに反吐が出る思いになるというのに……。

女の子はピンクと黒のハートマークがたくさんついたジャンパーを羽織っていた。

ズボンの柄も派手目で、全体的に「気が強そう」という雰囲気がある。

きっとけんかでもしたのだ――。

そう、おばちゃんBみたくなりかけていた。

私と女の子の距離が少しずつ縮まっていく。

顔のパーツひとつひとつがくっきりと見えるようになった。

目には涙はなかった。

しかし泣いているとわかったのは、

目より口元の印象が強かったからかもしれない。

口を開くまいとする意志が強く唇に現れ、見事な一文字。


すれちがう。

私はふりかえり、女の子を見た。

女の子は、眉間にしわを寄せながら、悲しそうに目をたるませ、

駐車場に敷かれた砂利を運動靴の底で蹴とばしていた。

ジャッ――と、音がする。

自分の世界に蹴りを入れているようだった。

今日はいい天気。

すこし寒いけど、比較的過ごしやすかった。

私は足を進めて、肺に空気を送りこむ。

おばさんBになりそうだったの、私。ごめんね――。

私は家へと帰っていった。


頭がぼうっとする。

体調からくるものなのか、自分では気づいていない不安があるのか、

はたまた希望からくるものなのか。

結局、そんなことはどうでもよくて、今、私の心の柔らかい部分に

チクりと針が一本刺さっていて、その正体は、

ふと目にしたSNSの言葉であるとこに違いなかった。

「泣くことは深呼吸することと一緒」

私、深呼吸したいのかもしれない。

あの子も、きもちのいい深呼吸ができるといいな。

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