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朗読芝居の戯曲 「司馬さんは、夢の中」

歴史小説家、司馬遼太郎さんの妻・みどりさんによる同名エッセイを戯曲にしたものです。諸事情があり舞台化には至りませんでしたが、内容は好評だったため、noteに掲載します。司馬氏の有名小説の再現上演(燃えよ剣、竜馬がゆくetc…)や、みどりさんの手記からの朗読もあり。司馬氏のファン、幕末ファンには喜んでいただける内容だと思っております。

※ 司馬氏、およびみどりさんの本の出版社、本作の舞台となっている司馬遼太郎記念館様には、現状舞台化などの許可を全く得ておりません。二次創作の位置付けで読んでいただけると幸いです。もし、本番用の戯曲として使用したいなどのご希望がございましたら、必ず江川本人にご連絡ください。


●あらすじ

作家・司馬遼太郎に先立たれたみどり夫人は、夫と分かり合えないまま死に別れた失意 に苦しんでいた。ある日、みどりは白昼夢のような夫の幻影を見るようになり......過去の 著作や思い出を辿り、主人公が愛と生きる意味を取り戻す物語。

●舞台について

各場面の背景は、基本としてプロジェクターを使用。
手に持ったり、座ったりする必要のあるもの以外は、すべてを実物として用意する必要はない。空間表現において、可能な範囲で証明・背景のプロジェクションで表現することが望ましい。
全2部構成、上演時間は80分程度となる予定

●劇中で使用した著作について

「司馬さんは夢の中」・・・福田みどり著
「司馬遼太郎の世界」・・・文藝春秋編
「燃えよ剣」・・・司馬遼太郎著
「竜馬がゆく」・・・司馬遼太郎著
「坂の上の雲」・・・司馬遼太郎著

●登場人物

福田みどり(若年、晩年のWキャスト)・・・主人公。司馬遼太郎の妻
司馬遼太郎(若年、晩年のWキャスト)・・・歴史小説家
神木淑子・・・みどりの親友
お雪・・・「燃えよ剣」の登場人物。土方歳三の恋人
土方歳三・・・「燃えよ剣」の登場人物。新撰組副長
坂本竜馬・・・「竜馬がゆく」の登場人物。維新志士
おりょう・・・「竜馬がゆく」の登場人物。竜馬の妻
お登勢・・・「竜馬がゆく」の登場人物。宿屋女将
寝待の藤兵衛・・・「竜馬がゆく」の登場人物。竜馬の子分
正岡子規・・・「坂の上の雲」の登場人物。歌人
お律・・・「坂の上の雲」の登場人物。子規の妹
リーディングメンバー・・・朗読者。男女2人ずつ
沖田総司・・・「燃えよ剣」の登場人物。新撰組隊士
近藤勇・・・「燃えよ剣」の登場人物。新撰組局長
原田左之助・・・「燃えよ剣」の登場人物。新撰組隊士
井上源三郎・・・「燃えよ剣」の登場人物。新撰組隊士
芹沢鴨・・・「燃えよ剣」の登場人物。新撰組局長
お梅・吉栄・・・「燃えよ剣」の登場人物。芸妓
見習い隊士・・・「燃えよ剣」の登場人物。新撰組隊士
アンサンブル・・・踊り手、エキストラ出演


★本文

●一場→タイトルロール→二場

<一場> 語り之原
   
   (開演前のプレショーとして)
 
    幕前の舞台袖、さまざまな野花で飾られた下草のセットと、野晒しにさ
    れ、古ぼけた木製の椅子の周り。
    リーディングプレイヤーの四人(以下RPのA、B、C、Dと表記)がい
    る。
    上から下まですべて純白、和風の着流しや振袖、袴やらを着た、さま
    ざまな年齢の男女。頭に花冠や、首飾りなど、野の花やススキなどでこし
    らえたような飾り物を思い思いにつけている。上手、下手二人ずつに分か
    れて手遊びをしたり、手持ちの真っ白な表紙の本を読み耽ったり、たわい
    のない会話をして笑いあったり。 
    時折、思いついたように、弦楽器(アコギやチェロ、二胡など、必要に応
    じ)の切ない即興演奏が流れる。

   (開演時間と同時に)

    シャン!と鈴の音。
    <暗転>。

    もう一度、「シャン!!」とさらに大きく。
    客席後方の観客用通路より、音もなく入場してくる、お雪。 
    その手には真っ白な、表紙のない本を抱えている。
    リーディングプレイヤーの四人、お雪に気がつく。

RPA「きたよ、きたよ」
RPB「きたぞ、きたぞ」
RPC「また、この語り乃原に、違う物語がやってきた」
RPD「やってきた、やってきた」

    舞台に上がってくるお雪を、子供のようにはしゃいで出迎える四人。

RPA「名前はなんていう?」
RPB「そうだ、何というのだ名前は?」
お雪「…雪と申します」
RPC「それはときどき物語に出てくる、空から降るという、冷たい氷の花の名前
 のことだね」
RPD「この野原には降らないの。一度、見てみたいものだなあ」

   うんうん、とうなづきあう四人。
   くすり、と淡い微笑を浮かべるお雪、四人に持っていた本を手渡す。
   新しい本だ、本だ、と小躍りして喜ぶ四人。

RPA「もちろん、読んでもよろしいでしょう」
RPB「よろしかろうね、美しい名前のお嬢さん」
RPC「そしてこれはどんな話でありますか」
RPD「どんな話でありますか? どんな話でしょう?」
お雪「私の生みの親・・・、お父様と、お母様のお話です」

   へえ~!、とうなづきあう四人。
   開いて、早速読み始める。
   福田みどり著「司馬さんは夢の中2」の冒頭を朗読し始める。

RPA「夢から醒めてのちも、その残像が目に鮮やかに残っていて、夢が現実なの
 か、現実が夢なのか、時にわからなくなることがあるほどだった」
RPB「気まぐれに、辞書を引いてみたら、『愚人、愚か者、ばか』とあった。や
 っぱり私は、おろか者なのだ。ばかナノダ」
RPC「でも、いいの、いいでしょう。司馬さん。話させてくださいね」
RPD「(止めて)・・・ところで、司馬さんとは、お父さんのことかい?」

   笑ってうなづくお雪。

RPA「司馬さんが去ったののことを、今思い出している。大抵は忘れてしまって
 いるが、それでも妙に、鮮明に記憶している場面がいくつかある

   RPAの読む声に被せるように、福田みどり(晩年)が同じ箇所を朗読する
   声が重なってくる。
   舞台裾より登場するみどり。

お雪「・・・お母様」
みどり・RPA「・・・それにしても不思議なのよね・・・・」

   リーディングプレイヤーとお雪たちに当たっていた照明が消え、静かになり
   動かなくなる。

みどり「夢の中で司馬さんと逢って話しているのに。コノヒトハ、モウイナイノ
 ヨ、コレハ夢ナノヨ、と、いつも思っているの。ほんとうにいつもそう思いなが
 ら、笑ったり、怒ったりしているの。だから目覚めた時に、ああ、やっぱり夢だ
 った、と。よけいに胸の中が、うるうるしてしまうんです」

    背景のプロジェクション、タイトルの文字が、一文字ずつゆっくりと浮か
    び上がり始める。

みどり「そんな夢の中で、ここのところ、私の頭の中から消えることなく、つね
 に、目の前で点滅している情景がある。」

   タイトルイン「司馬さんは、夢のなか」

みどり「愚か者の、愚かな繰言に、付き合っていただけますか・・・」

   (一際大きな、「シャン!」という音ともに、暗転)

<タイトルロール>
    
   プロジェクターによるメイン製作陣・メインキャストの投影。
   それを背景にして、和楽器や弦楽器によるメインテーマの生演奏。
   アンサンブル登壇し、群舞。
   RP と同じような、純白の揃いの浴衣に草花の冠をつけ、菜の花の切花を扇
   代わりに舞う。
   アンサンブルのひとり、菜の花の一本を、舞台裾にいたお雪に手渡す。
   群舞に加わるお雪。
   タイトルロール終わり、ひとり舞台に取り残されるお雪、菜の花を愛おしそ
   うに抱きしめる。

   (暗転)

<二場> 旧司馬邸・書斎・昼 
   
   (明転)

   RP四人、それぞれ舞台上下に各二人ずつ控えている。
   弦楽器ソロの、シンプルな演奏と共にプロジェクター投影。
  『「夜明けの会話-夫との四十年」より 司馬遼太郎の世界 文藝春秋』

RPB「こうやって司馬さんと二人、四十年近い長い長い道のりを振り返ろうとして
 も、やっぱりなんだか、また司馬さんがすぐ隣にいるような気がします。お客様
 が来ればつい司馬さんを呼びに行ってしまいますし、人と何か話していても、あ
 あ、これは司馬さんに伝えなきゃと思ってしまう。司馬さんお気に入りのこの居
 間にいても、ソファに寝そべっていつものようにテレビのリモコンをかちゃかち
 ゃやっている司馬さんの姿が目にくっきり浮かんでくるのです」

    みどり登場し、書斎の中をうろうろ。何かを探している様子。

RP C「ところで、連れ合いのことを女房が『司馬さん』だなんて、これを読む方
 はきっと変に思うでしょうね。でも私はいままでずっと『司馬さん、司馬さん』
 でした。昭和三十四年のお正月にわたしたちは一緒になりましたが、そもそも産
 経新聞という同じ職場の同僚でしたし、私はどうしても『主人』ということがで
 きなくて、最初は「おっさん」とか」、「おじさん」、「あちら」・・・それが
 いつ頃からか「司馬さん」になってしまったんです。だから今日も、『司馬さ
 ん』で通すことにします」
みどり「おっさ~ん?おじさん? 帰って来たの? いるんでしょ、司馬さ~
 ん?」
司馬の声「オッサンだけは、やめなさいと言っただろう!」

   司馬遼太郎、ソファの陰からのっそりと突然登場する。
   みどり、最初はぎくっとするが、安堵したようにソファに腰を下ろす。

みどり「ほうら出てきた。あなたを呼び出すには、おっさん!って呼ぶのが一番効
 果的なんですよ」
司馬「みどりさんね。前から聞きたかったんだけども、あんたは僕のことをなんだ
 と思ってるんだい? 一応、君の夫だぜ」
みどり「へ~い、左様でございますね」
司馬「近頃、家も散らかしっぱなしで・・・一体なんだね、このホコリは」
みどり「いやあねえ、その仕草。ドラマに出てくる小姑じゃないんですから(不貞
 腐れてソファに寝転がる)」
司馬「(テーブルの上の、カップラーメンの容器を見て)ちゃんと、飯を食べてい
 るのか」
みどり「・・・食べるの、面倒臭くて・・・」

   司馬、みどりの隣にどかっと座って、ため息をつく。
   みどり、ソファの端で丸まって不貞腐れている

司馬「なあ・・・君、このままだとダメになってしまうよ」
みどり「ダメになりたいんですよ。もう、嫌なんです、何もかも」
司馬「なあ・・・君、このままだとダメになってしまうよ」
みどり「ダメになりたいんですよ。もう、嫌なんです、何もかも」
司馬「なんでも、食べられるもの食べたらいいんだよ、ほら、君の好きなバナナと
 かさ」

   みどり、起き上がって、そのまま司馬の膝の上に頭を預ける。膝枕の状態で
   司馬を見上げる。
   司馬、みどりの顔を、泣き笑いのような顔で見下ろしている。
   (照明少し暗くなり)プロジェクターに若き日の司馬とみどりの再現ドラマ
   が映る。
   若き日のみどり、家路についているときに、八百屋の店頭のバナナを見つけ
   る。
   RP Dが朗読を始める。

RP D「結婚、結婚と周囲を騒がせたけれど、私自身にはその意識がほとんどなか
 った。たまたま気のあう友達と暮らすことになったくらいにしか考えていなかっ
 た。差し当たっての生活の設計図もなければ、未来図もない。もちろん夕食の献
 立など、頭を掠めたことさえなかった。だってそんなことどうでもいいと言った
 んだもの」
RP A「ただ一度、社から帰る途中で美味しそうなバナナがあったので、一房買っ
 て帰って、『ハイ!これを今日の夕食にしましょう』と食卓に置いたことがある
 の・・・」

   プロジェクター映像、食卓の上にドカンと置かれたバナナ。
   動かなくなる若き日の司馬と、得意げなみどりの俯瞰。
   (映像終わり、照明元に戻る)。
   舞台上の司馬、遠い目の表情。

司馬「あの時ばかりは『しまった、エライ奴を嫁にしてしまった』と、心の底から
 後悔したよ」
   
   思い出し笑いしている司馬を、不貞腐れた顔で見上げているみどり。むくり
   と起き上がる。

みどり「そうよ、その通りよ。司馬さんは、私なんか嫁にしちゃいけなかったの
 よ」
司馬「何をいうんだ、こんな今更になって」

みどり「あの頃は、新聞記者の仕事が楽しくてしょうがなかったんですよ。いい
 奥さんと言われるより、いい記者だと言われたかったの」
司馬「覚えているとも。会社やめろ、辞めないで随分喧嘩したなあ。記者を辞めて
 からしばらく、君はまるでケダモノか野獣のようだった」
みどり「結婚なんか全然考えてなかったんです。それに、私は料理なんかできない
 って言ったのに、司馬さんが『そんな事どうでもいい』っていうもんだから」
司馬「(すっとぼけた顔で)そんなこと言いましたっけねえ?」
みどり「(司馬の膝をぴしゃっと叩いて)言いましたとも。ああ憎ったらしいです
 ねえ、その顔」
司馬「この顔を四十年、毎日見続けてきたのは誰だい。よくそんなこと言えたもん
 だ」
みどり「そうよ、そんな顔をもう四十年見てるこっちの身にもなってくださいよ」

   みどりと司馬、憎らしげに「ふん!」とそっぽを向き合う。

みどり「・・・四十年ですよ。司馬さん、私あなたに四十年連れ添ったじゃありま
 せんか」
司馬「ああ、その通りだよ」
みどり「そんな妻に対して、失礼なんじゃありませんか? こんなに具合が悪いの
 に、病院に行くのも手術も嫌がるって」
司馬「・・・」
みどり「たった一人の連れ合いが、こんなに頼んでいるんですよ。お願いだから病
 院に行きましょう、お医者様にかかりましょうって。あなたは何を言っても、受
 け入れなかったんです。おかしいじゃありませんか」
司馬「・・・みどりさん」
みどり「あなたは本当に、私のことを奥さんだと思ってたんですか? これからも
 長く連れ添いたいと思ってくれていなかったのですか? ただの友達程度に思っ
 ていた女を、飯炊きさせるために家に呼び込んだんじゃなくて?」
司馬「(怒って)君ねえ!」

    玄関のチャイムの音。軽く戸をノックする音も聞こえる。

神木淑子の声「みどりさ~ん?いないの??」
司馬「天の助けとはこういうことだなあ。持つべきものは、親友だ」
みどり「淑子さんだわ。はーい(出ていく)」

    司馬、その背中を見送って、静かに反対側へ退場。
    重箱を抱えた神木淑子が入ってくる。卓上に置かれたカップラーメンの残
    りをみてため息。
    みどり、司馬がいなくなったことに気づき、キョロキョロ。

淑子「またこんなもので済ませて・・・。今に倒れますよ。ほら、煮物とお稲荷さ
 ん」
みどり「あら~助かる、いつもありがとう! ねえところで、淑子さん、司馬さん
 をみなかった?」
淑子「・・・」
みどり「さっきまでここにいたのに。本当に忙しない人よねえ」

   淑子、無言で、卓上にあったポットからお茶を注ぎみどりに渡す。
   みどり、飲みながらソファに座ってリモコンをかちゃかちゃ。
   淑子、縁側の古い土管をプランターがわりにしたものに、つゆ草が咲き誇っ
   ているのを見る(舞台セットで作られていたもの)

淑子「まあ、司馬さんが大好きなつゆ草が綺麗に咲いて・・・」
みどり「そうなのよ。せっかく教えてあげようと思って呼んだのに、またどこかに
 いっちゃったのよ」
淑子「・・・(俯くが、気を取り直して)ねえ、それより・・・またうちに催促の
 電話があったのよ。司馬さんの編集の、ほら福島さん。あなた、あの方からの留
 守電に返事してないらしいじゃないの。あなたのエッセイ執筆の件、少しでも進
 んでいますかって」
みどり「・・・(リモコンをガチャガチャ)」
淑子「あとは、設計の安藤忠雄先生からも、建て替えの件でご連絡ありましたよ。
 どうかしてるわよ、あの方からの留守電まで無視するなんて」
みどり「・・・(弁当箱の蓋を開けて、お稲荷を頬張る)」
淑子「ねえ、みどりさん」
みどり「うんまい!淑子さんのお料理、やっぱり格別ねえ。私なんかとても敵わな
 いわ」

   淑子、深い深いため息。途方に暮れた目。みどりの隣に腰掛けて、頭を肩に
   もたれかけさせる。
   みどり、モグモグ食べ続ける。

淑子「あなたの家の隣に住んで、もう二十年・・・あなたはいつも困った人だけ
 ど、本当に今回ばかりは、私は参っています。なんて私は無力なのかしら」
みどり「(食べるのをやめる)」
淑子「とにかく電話にだけは出てちょうだい。大人がすることじゃないわ」
みどり「ん~・・・」
淑子「・・・(ため息) ねえ、司馬さんの書かれた小説なんだけど、続きを借り
 ていっていいかしら」
みどり「・・・もちろん。家中にあるからお好きなだけ」

   みどりと淑子の背後、プロジェクターに、壁一面にびっしりと詰まった著書
   の本棚の映像。

淑子「いつ見ても、壮観ね。たった一人の方がこれだけ書かれたんだと思うと」
みどり「今読んでるのってこれだったっけ?『竜馬がゆく』」
淑子「それと、『燃えよ剣』も貸してくださいな。また読みたくなったの、久しぶりに」
 
   みどり、プロジェクター下方に据えられた、本棚のセット(少量の書籍)か
   ら数冊手渡す。

みどり「・・・お弁当ありがとう」
淑子「また、明日来るから。しっかりしてくださいね」

   淑子退場。
   取り残されたみどり、背中が急に丸まって、がっくりと。土管の露草に独り
   言を言うように

みどり「この家を、取り壊す?・・・できるわけない。できるわけないじゃない
 の。この家がなくなったら司馬さんは、どこに帰って来ればいいというの? み
 んな、私に責任がある、義務があるって責めてくるばかりなの。もうイヤよ、何
 も考えたくない・・・」 
   
   本棚から本が落ちている(竜馬がゆく)のに気づいて拾い上げ、ソファに座
   り込む。
   さらに、重箱を膝に抱えて、中を覗き込む。
   煮物を指で摘んで、口に放り込む。つまみ食いしながら

みどり「きれいでおいしい、お煮物だこと。私じゃこうは行かないわ・・・ねえ、
 司馬さん。どうして私を選んだの? 他にもっと、いい人、いたんじゃないかし
 ら? お料理が上手で、物静かで、黙ってついてきてくれるような人」

   みどり、本を広げて読み始める、
   弦楽器(できれば月琴)のソロ。
   RPたちの「竜馬がゆく」朗読が始まると同時に、月琴を抱えたおりょうが
   音もなく入場し、みどりのすぐ横に腰掛ける。

RP A「『坂本さまとおっしゃる土佐侍従様御家来がこちらにいらっしゃるでしょ
 うか』。明保野亭の男衆も、あとで応接に出た女将も、この娘の美しさに目を見
 張った。竜馬の生涯を彩った楢崎おりょうの登場は、このときからである」
RP B「竜馬自身が姉の乙女に出した手紙では、『まことにおもしろき女にて、月琴
 をひき申し候』と言っている。まことにおもしろき、というほか、当時。才女と
 いうものを表現する言葉がなかったのであろう。しかも、月琴を弾き申し候とい
 うほか、彼女の才能を表すことばがない」
RP C「さらに竜馬は、手紙でいう。『年は二十三。もと十分大家にて、花いけ、
 香を聞き、茶の湯などは致し候ヘども、一向かしぎ奉公(炊事仕事)などするこ
 とはできず」

   みどりとおりょう、炊事などすることできず、という朗読のくだりで、おも
   わずお互いに顔を見合わせる。

   <ソロの演奏が続いたまま、暗転>

※三場以降、近々に更新していきます


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