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【いつメロ No.13】ユートピア

「世界を創造したい」
こんな大仰な願望は、浮かんだところですぐに振り払われるものだろう。でも、それをちょっとでも実現する方法をおれは見つけた。
箱庭だ。

ちょっとしたサイズの箱からジオラマレベルの大きさまで、野原や庭,海までも再現できる。自分の思うままの土地を、世界を創れる。それに気づき、その楽しみを知ってしまってから、おれは箱庭にハマった。現実では自分の力でどうにもならないことが多いけど、ここは違う。自分の力で全てを創れてしまう。それにちょっとした優越感を覚えながら、いくつもの作品を作りあげた。でも、その手の優越感はどうやら長続きしないらしい。

和風の庭を再現し終え、人形をセットした時だった。完成した満足感よりも何かの違和感が大きかった。こんなことは初めてだった。そして、自分は無意識に人形をずっと見ていることに気づいた。おれが置いた人形を。この手でそこに在るようにと置いた人形を。ふと、その人形はどう思うのかを考えた。いや、考えてしまった。そこからは、さぞ和風の素晴らしい光景が広がっていることだろう。でも、その光景はずっと変わらない。そこから腰をあげることも出来ない。たとえ、腰をあげられても箱庭からは出られない。そう思うと、この箱庭は現実から切り取った理想郷であって牢獄のようなものに見える。

「こういうことだったのかもな、『箱庭に生きてる』って」
前に箱庭セットを買った店で流れていた曲の歌詞を思い出した。
箱庭の中で、現実と切り離して生きたみたい。そう願って作っていたけど、それは美しく理想的でありながら残酷なことかもしれない。この現実も箱庭も、どっちも同じなのかもしれない。


                          Mr.Children/箱庭


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