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【いつメロSpecial No.16】暗がりとひまわり

※前書き※
・「Mr.Children×ぼっち・ざ・ろっく!」
・時系列は、アニメ第8話と第9話の間
・原作によると、どうやら作中は2017年のようなので、それに合わせました
・主人公ぼっち視点で展開
・今作は挑戦作なので、多少の詰めの甘さはご容赦ください…
それでは、本編どうぞ


今日、私たち結束バンドの4人は日産スタジアムに来ています。
目的はライブ見学。今日この日に行われるライブを観て勉強することです。

時は遡り…。
いつものようにスタ練(スタジオ練習)を終え、少しだけSTARRYに残って、みんなでお話をしていました。話題は、最近流行っているバンドについて。私は全く分からないけど、3人の口からは色んな名前が出ました。最近テレビで注目されているバンド、渋谷のライブハウスで話題になっているバンド、聴いたこともない名前のバンド etc…たくさんの名前があがり、その人たちの演奏を動画で見ていました。その時、店長さんがふらっとやってきて、

「おまえら、同年代の若いバンドもいいけど、たまにはプロのバンドも見てみたらどうだ?」

と唐突の提案が出てきました。店長さん曰く「プロの演奏を見に行くのも勉強」とのことだそうで、その直後に4人分のチケットが配られました。そのライブは、あの国民的ロックバンドMr.Childrenの25周年ライブ。弾き語り動画でもよく演奏されているのを見ていたから知っていたけど、私以外のみんなもこのバンドは知っているようでした。店長さん、こんな人気バンドのチケットを4枚どうやって入手したんだろう…?

「たまたま知り合いがそのライブに行けなくなったって言うから、譲ってもらったんだ。ドームやスタジアムで演奏出来るバンドもそういないから、たまには見に行ってみたらどうだって思ってな」

確かに、私たちは今まで他のライブハウスで演奏してるバンドのことを調べてばかりだった。よくよく考えたら、あの空前のバンドブームの中でも存在感を放ち、25年も活動しているバンドは多くない。そんなバンドから学ぶことは必ず、いや絶対ある。虹夏ちゃん、喜多さん、りょうさんも同じ考えのようで、全員で観に行くことになりました。でも、私も含めてじっくりと曲を聴いたことがなかったので、当日までの間に、バイト終わりやスタ練終わりにみんなで集まって演奏を見たり、時々ロインで共有して予習をしました。

そして、ライブ当日。
日産スタジアムの収容人数は約7万人で、ライブハウスでは見たことのない人波がスタジアム前に広がっていました。これがレジェンドバンドの力…!
この人込みに加えて、8月の陽気。ザ・陰キャの私には、苦行を通り越して地獄でした。何度も溶けかけてはみんなに修理してもらい、「はい、とても良いライブで勉強になりました。お疲れ様でした~…。」と言って帰ろうとしては、何度も喜多さんや虹夏ちゃんに引き止められました。すみません…。

いよいよ、会場入の時間。
STARRYや他のライブハウスでももちろんあり得ないけど、入るのに待ち時間と長蛇の列が出来ることにみんな驚いてました。この人たち全員がたった一組のロックバンドの演奏を観に、聴きに来ていると思うと足が震えそうでした。私なら完熟マンゴー段ボールにいても爆散しているだろう。そして、私たちも会場入りして、さらに驚きました。普段はサッカーコートであろうアリーナが人で埋め尽くされているのです。自分がいざ、この光景をステージから目の当たりにしたら、承認欲求と緊張をエネルギーに大気圏まで飛んでしまいそうです。そんな独り言を言っていると、「いやいや、ぼっちちゃんが演奏するわけでもないでしょ」と虹夏ちゃんのツッコミが入りました。お客さんの状態でこれなら、私のスタジアムライブ実現は果てしない道のりになりそうです…。
私たちの席は、スタンドのステージから見て左側。ちょっとだけステージとは距離がある席でした。初のスタジアムライブ参加なのでちょっと不安もありましたが、周りの人たちは楽しそうに開演を今か今かと待っていて、少し安心出来ました。

ライブ開始時間になり、オープニングが始まりました。これまでの曲が一部だけ流れて、歴史を振り返っているようでした。ちなみに、予習バッチリなので、全部分かりましたよ!そこで、喜多さんが横で「えっ、すごい」と漏らして、

「バンドメンバー以外でも演奏する人たちがいるんだ…。しかも、バイオリンにアコーディオンまで…!」

そう言われてやっと、私と虹夏ちゃんも気づきました。この演奏は生演奏で、すでにステージ上にいた人たちによるものだったのです。この時、私のロックの概念にヒビが入る音がしました。その演奏に驚いている時、周りのお客さんが盛り上がり始め、何が起きたのかとステージを見ると、ドラムのJENさんが出てきていました(メンバーの予習もバッチリ)。続いて、ギターの田原さんが出てきて、ベースの中川さんが出ると同時に、JENさんのドラムがライブの始まりを予感させました。徐々に演奏が始まると同時に、ボーカルの桜井さんが登場して、いよいよライブの始まりです。



全曲が終わり、会場が明転した時には、
私のロックの概念は土台だけを残し、あとは粉々になっていました。
喜多さんたちも放心していたようで、数分ほど誰も口を開けずにいました。

正直、バンドのライブでここまで「楽しい」と思うとは予想外でした。
今までのライブはバンドの技術や表現に注目しているばかりでしたが、今回は純粋に楽しんでいました。それは、喜多さんたちも同じようで、手を振ってコール&レスポンスを楽しんでいました。私には高すぎる壁でしたが。
曲自体も最初は陽キャしか楽しめないのではと怯えていましたが、陰キャの私でもノってしまえる曲も多くありました。それでいて、胸にグッとくるような曲も多く、作詞担当としても脳天に電気が何度も走りました。

『恋なんて いわばエゴとエゴのシーソーゲーム』
『365日の 言葉を持たぬラブレター』
『掌に刻まれたいびつな曲線』
『何度でも何度でも君は生まれ変わっていける
そしていつか 捨ててきた夢の続きを』

ライブの最中でありながら、念のために持ってきていたメモ帳に、衝撃が走った歌詞を書き殴っていました。傍から見たら、異常なくらいに書いていたかもしれません。ごめんなさい、喜多さん。隣にこんな気持ちの悪いのがいて。

同時に、やはりギター担当としても、つい田原さんのプレーを見てしまうのですが、すごく大人しそうな人で静かなプレーだったので、とてもロックバンドのギターを担っているようには思えませんでした。(それは自分もそうか。偉そうなこと言ってすみません…。)
それでも、響いてくるギターの音色には確かにロックのギターでした。

特に、ライブが中盤に入った頃。
MCが入り、「今一番聴いてほしい、見てほしい曲をやります」と言った後、「この曲でみんなをコテンパンにしてやりたいと思います」
この時の笑顔と、コテンパンという可愛らしい言葉の裏に、私は確かなロックを感じました。
暗転した後のギターによるイントロ。それは、ゆったりとして優雅なものでした。予習で聴いたどの曲とも違っていて、さっきまで激しいロックナンバーが続いたから中休みなのかなと思いました。さっきのロックは気のせいだったんだと。
その数秒後、確かに感じたそのロックが突如として、私に襲い掛かってきました。さっきまでの優雅なギターが荒く鋭く、それでいて高貴さをまとっていて、それに合わせてドラムとベースが一気にスタートを切る。その中心でボーカルが踊っている。まさに、バンド全体で全身でロックを体現していました。「見てほしい」とはこういうことなんだ。気づけば、私は前のめりに見入っていました。こんなことは演奏を観てきた中で初めてのことでした。
歌詞も秀逸そのもので、メロディは荒いロックにもかかわらず、歌詞の世界観はバラードという綺麗なアンバランスでした。
それを目の当たりにし、私の書く歌詞がいかに稚拙かを思い知らされました。灰になる余裕すらなくすほどに。


会場を出た後、このまま帰るには少しもったいないと、みんなで近くのファミレスに寄ることになりました。そこで感想を話していると、みんなもやはり自分のパートを中心に見ていたようでした。

「いやぁ、あんなに楽しそうに叩くドラマー初めて見たよ!しかも、コーラスもやって、リーゼントまで!」
ポテトをつまみながら熱く語っている虹夏ちゃん、あんなにドラムを語るのも珍しいかも。でも、リーゼントまではいいと思うな、虹夏ちゃん。

「ベースもすごい。音自体は大きくないのに、しっかり存在感があったし、徹底的にバンドサウンドを支えている感じだった。それに、曲のメロディもすごく良かった…。」
「確かに!私も自然と体がリズム刻んでいましたし!」

リョウさんはベースとメロディに執心のようです。確かに、アリーナはもちろん、スタンドの端までもノリノリで、あの会場に居た7万人の誰一人も置いてきぼりにしていないのはすごいと思う。

「27曲も歌っているのに、ずっと声を出して走って。どんな練習してるんだろ…?アスリートみたいなトレーニングしているのかな?」

喜多さんは、やはりボーカルとしての目線で見ていたようだ。私ならスタジアムに響く声量すら持ち合わせていないのに、3時間も歌って走って叫んでいる桜井さんが同じ人間には見えなかった。歌詞やメロディのレベルもそうだし。あぁ、何だか急に怖くなってきた…。

「って、後藤さん!?急に溶けてるけど、どうしたの!?」

気づかぬうちに、また自分の世界に入っていたようで、喜多さんのおかげで何とか形が崩れずに済んだ。

「い、いや、ごめんなさい。何だかバンドマンとして見ると、わ、私たちの進む道の先にあ、あんなすごい人たちがいると思うと、きゅ、急に怖くなってしまって…。って、そもそも私ごときが目指していいわけないですよね…。ちょっとあそこのミキサーで細胞からやり直してきます…」
「いやいや!そこまでしなくていいし、しちゃだめよ!」
「戻っておいで!ぼっちちゃん!」

ドリンクバー横にあったフルーツジュース用のミキサーに行こうとした私を、喜多さんが止めた。虹夏ちゃんも慌てて、裾にしがみついた。おかげで我に返ったけど、何事かと私たちを見ている周りの視線が痛い…。

「ぼっちの言いたいこと分かるよ。私たちもバンドをやっている以上、あの人たちと同じフィールドに立っていることは間違いない。だから、怖くなるってことは、それだけあの人たちのプレーをバンドマンとして見ることが出来て、見たうえで自分自身と本気で向き合っているってことだよ」

リョウさんの一言で、私たちは静まりかえった。そう、Mr.Childrenは私たちと同じロックバンド。私たちにとってはずっっと先を行く大先輩であり、怖気づいてしまうような高い壁のような存在なんだ。だから、それを前にするとよほどの自信がない限りは、やはり足がすくんだり絶望してしまう。それは、二人も感じていたようだ。

「それに、ここまでみんなが話していたのは、ライブの感想じゃなくて、『バンドとしての感想』だったでしょ。だったら、私たちはちゃんと自分たちと向き合えてるってことだと思う。それに、結束バンドはまだ始まったばかりだから、あとは今日見たこと感じたことをどう生かすかじゃないかな?」

自覚はなかったけど、誰一人としてライブの感想で終わっていなかった。自然と各パートの分析をして、取り入れようとしていた。それだけ本気でやっているってことなんだ。

「それ、本来はリーダーの私が言わなきゃなのに、取られちゃったな~」

してやられたとでもいうように、虹夏ちゃんが頭をかきながらはにかんでいた。

「よしっ!そうと決まれば、冷めないうちに早速今日感じたことあげていこう!!ぼっちちゃん、メモとペン借りていい?」
「そうですね!でも、今日はもう遅いですから、次のバイトかスタ練の時に詳しくまとめましょう!」

その後は、各々が感じたことを思い思いに共有し合い、メモにまとめていきました。最初はバンドとしての視点での感想が多かったですが、次第にお客さんとしての「ステージの迫力がすごかった!」「あの曲好きになった!」といった感想も増えてきました。私もそれには賛成で、ロックに憧れを抱いたあの頃のように、また新鮮な憧れを抱いていました。


ライブから数日後。
その日はSTARRYで集まり、バンド練習ではなく、この前のライブで感じたことをより詳しくまとめて、どう生かせるかを話し合いました。一番始めに発言した喜多さんの「みんなで皇居周辺を走り込む」という超ストイックな提案は3人で全力で止めにかかりました。
さらに、店長さんやPAさんからのこれまでの結束バンドのライブに対するアドバイスをもらうことで、協力していただきました。二人とも的確に教えてくれるので、ずっと首を振りっぱなしでした。
その話し合いの結果、まずは「演奏の時に出る感情は素直に顔に出してみよう」ということになりました。楽しい時は笑顔になる。そのほうが観ている方も楽しくなるから、感情はどんどん出していくということになりました。演奏に夢中になってしまう私には出来そうにないですが…。
この話し合いの時、いつになくみんなが真剣で、結束バンドとしての一歩を踏み出したような感じがしました。踏み出せていたらいいな。

その日の帰り道。
STARRYを出る頃には、もうすぐ時計は6時。
喜多さんと駅まで歩いて帰り、道中ではさっきの話し合いから話題が移り、Mr.Childrenを聴き始めたという話になりました。ちなみに、私も弾き語りで出来そうなものを探すために聴き始めたけど、今では通学中にも聴くほどにハマりました。

「私、あのライブで披露した新曲にハマってるの!メロディとか歌声もすごく好きなんだけど、やっぱりあの歌詞がとてもよくて!」

その言葉を聞いて思わず、さっきまで振り過ぎて少し痛めた首をまた振りながら、

「分かります!私もあの歌詞が好きで、あの独特でいて、伝わりやすい表現が何ともいえなくて…!いててっ」
「大丈夫、後藤さん!?」

また思い切り振ったから、痛みが走った。

「す、すみません!喜多さんが話していたのに遮ってしまって…。この口ふさぐために、そこのコンビニでガムテ買ってくるので、全身に巻いてください!」
「なんで全身なの!?後藤さんミイラになっちゃうわよ!?そんなこと気にしてないから落ち着いて!」

コンビニに走ろうとする私の肩に、喜多さんが飛びついて止めてくれたので、ミイラにならずに済みました。

「むしろ、後藤さんがそんなに共感してくれて嬉しいわ!」

そう言って、喜多さんが笑いかけてくれました。ま、眩しい…。

「それで私ね、あの曲を聴いてて思ったんだけど、
『暗がりに咲いている ひまわり』ってまさしく、後藤さんのことのように思えるの」

え?喜多さん突然何言ってるの??
私がひまわりだなんて…。いや、そうか。暗がりのほうだ。私みたいな陰キャは暗いオーラを出しているから、暗がりそのものだ。なるほど~。
と、自分の世界に入り込んだところで、また喜多さんが「戻ってきて~」と肩を揺らした。このまま首が飛んでいきそう。

「後藤さんって、普段は押し入れとかゴミ箱の中とか暗いところにいたがるけど、実はすごい輝きを放つことが出来ちゃうでしょ?だから、暗がりの中で咲いているひまわりっていうのは、まさに後藤さんのことだなって思ったの」

喜多さんの捉え方はまさに、作詞の視点だった。
でも、結束バンドの作詞担当としての私は少し違う捉え方をしている。

「わ、私は、私みたいな陰キャの影が、ひまわりのような喜多さんを引き立たせているんだと思っています。ステージの上で光を浴びる喜多さんがさらにか、輝けるように、私はギターを弾いているんだなって…」
「そうなの…。私はそんなこと考えたことないけど…。でも、そうよね。ボーカルはどうしても注目されてしまうものね。」

喜多さんは何だか申し訳なさそうな表情でそうつぶやいた。
おそらく、これまでのライブのこと、前に観たあのライブのことを思い出したんだろう。ギターやベースやドラムがどれだけ激しいプレーをしても、やはりボーカルには強いスポットライトが向けられる。それを実感したんだろう。不安になっているのかもしれない。
けど、喜多さんはその予想に反して、

「だったら、それに応えられるようにならないとね!私が輝くことで、後藤さんと伊地知先輩とリョウ先輩も輝けるようにしないと!」

キターンとどこかともなく音がして、喜多さんが陽キャオーラを発動した。あぁ、ダメだ、私には強すぎる…。耐えられなかった私は、粉となりました。
でも、喜多さんが重荷に感じてなくてよかった。私も喜多さんのためにももっと頑張らないと。


喜多さんと別れ、最寄り駅に着いた頃には、もうすぐ時計は8時。
夜空には満点の星がまき散らされていた。あの星々の輝きは、喜多さんや虹夏ちゃんやリョウさんが放つものと同じだなと思いつつ、私はその星の間に佇む宇宙の闇だな、なんて自虐的になりながら帰った。

そして家に帰って、一通りやることは終わった。
今日は歌詞ではなく、ギターヒーローとしての動画撮影をしよう。
弾き語り動画どうしようかな。
そうだ、あの曲弾いてみよう。あのライブから練習しててやっと弾けるようになったから、ちょうどいいタイミングかもしれない。喜多さんと虹夏ちゃんとリョウさんのために。そして、いつかはあの高い壁と立ち向かえるように頑張ろうと、そう決意できたこのタイミングで。

一通り弾き終えて編集を施し、動画のタイトル欄に今日の曲名とアーティスト名を打ち込んだ。

                                                                                     

                                                                                     Mr.Children「himawari」


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