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【いつメロ No.14】長い夜に散歩はいかが?

睡眠は大事。これはよく言われてきたことだ。でも、寝るということは、自分で1日を終わらせる行為であって、なんだかもったいなく思ってしまう。同時に、胸の中に何かがつっかえるような気持ちも湧いてくる。

「ダメだな…。」
横になって、そう考えてしまった夜は夜更かししてしまう。次の日はしっかりと起きなければ行けない日であっても映画を観たり、何か飲んだり。あてもなく夜の街を歩いたり。そうでもしないと眠れなくなってしまった。
今晩もそんな夜で、あてもなく近所を歩いていた。こうして歩くようになったのは、いつかどこかで耳にした歌をふと思い出したのがきっかけだ。歌詞はおぼろげだがその歌では、主人公もこうして夜の街を歩いていた。そして、朝焼けを目の当たりにして、少し前向きになっていた。自分もそうなれるかなと期待して歩いているが、そうはいかないようだ。いくら歩いても、ただ街は静かでどこか物憂げだった。

何をもったいなく思っているのか。何が胸につっかえているのか。それすら分かっていない。この歩いている時間は、掴むところのない宇宙をただよう感覚に近い。どこに答えがゴールがあるのか分からない。それでも、歩かずにはいられない。まるで、この時の自分が自分ではないようだった。

今晩は、通ったことのない道を選んでみる。進んでいくと、川があった。街灯の明かりが届いていないけど、月明かりでうっすらと周りが見えた。川のせせらぎと優しい息吹のようなそよ風の音。ここに流れる音はこの二つだけの、実にシンプルな世界だった。ちょうど座れるスペースがあったから、何とはなしに座って、目の前の景色を眺めた。ただこうして何も考えず、目の前の景色を見ているだけなんていつ以来だっけか。昔のいつかにこうしたことをしていたことを思い出し、ふと懐かしくなった。あの頃は、『今』だけを見て全力で生きていたような気もする。今となっては、先の未来も見なければいけないし、全力を使い果たして倒れてもいけないから加減も覚えないといけない。考えることが増えて、気が急いて、シンプルな生き方を忘れてしまった。いや、たとえ思い出しても、やろうという勇気が湧かない。もしかしたら、そんな思いは普段からあって、それがもったいなさやつっかえとなっていたのかもしれない。

そう考えて、ぼんやりと川を眺めていた時、そのおだやかな水面にキラッと光るものを見つけた。月の光にしては小さいそれが何なのか、空を見上げた時、見つけた。星だった。月があるから満天とまではいかないけど、それでも綺麗というには十分で、その星はひと際輝きを放っていた。ここの星もこんな綺麗だったんだと、今更気づかされた。

その星のきらめきが、この宇宙の出口を示す明かりとなった。
そうか、あの歌の主人公はこの夜長の散歩に何を見出したのか分かった。あの主人公は朝焼けと春の風に答えを見出したわけではない。『朝焼けと春の風がある世界そのもの』に答えを見出したんだ。答え合わせのつもりで、あの歌の覚えている歌詞を検索ボックスに投げて、歌詞全文を見た。その瞬間、出口を示す明かりが自分の身体を包み込み、心の中のもったいなさやつっかえが緩やかに解かれていった。それと同時に、空に朱色が滲み始めた。星たちが帰り、姿を隠したあとに、陽の光が顔に差し込んだ。その一連の光景が美しく、世界の素晴らしさを知った。

それから、夜更かし散歩は週一の密かな楽しみになった。
また、どこかにある『シンプルな世界』を求めて今晩もあてもなく歩いていく。


                          Mr.Children/ハル


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