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ショートショート集『希望抽象』<15作収録>

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全15作のショートショート集。一定期間が経った無料作品を有料に設定し直し、最初から有料の作品5作をこのマガジンに追加しました。
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2016年3月の記事一覧

短編小説『希望抽象』

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短編小説『1mm法師』前編

 僕は自殺している。  先ほど飲み込んだ毒薬のカプセルが胃の中で溶け始めるのを待っているのだ。  1Kのボロアパートの湿っぽいベッドの上で仰向けになり、僕はこれまでの人生にゆっくりと想いを馳せる。  27年という短めの人生だった。特に悲しいことも嬉しいこともなかった。……と、思い出す思い出もなかったと気づくのは早すぎた。  こんな感じで死んでしまうのか。それ、なんか怖いぞ。油に近いべっとりとした汗が額に浮かび始める。 「やっべ。やっちゃったよ」  と言ってももう遅い。

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短編小説『1mm法師』後編

 電子レンジを見つめながら、気まずい。1Kの部屋の中、僕の右耳には小さな人間がいる。  疑っていたが、確かに耳の入り口辺りで何かが動いている感じがする。 「すいません。このうどんってどうするんですか?」 「これを鼻から入れていただきます」 「僕死にそうなんですけど、大丈夫ですか?」 「うどんを鼻からすすっていただいて、私はそのうどんを伝って胃の中に入ります。そこでカプセルを取り出します」 「ふーん、なるほどね」  腹が立ってきたのでリアクションを抑えた。

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短編小説『地獄が地獄でなければ地獄』

 改めて振り返ってみます。  突然ですが、私は今地獄にいます。もう、2年くらい経つでしょうか。  自分でも信じられないのですが、地獄は実在しています。実在、と書くと誤解を招きそうですが、死後の世界には実在していたという意味です。わかりづらくてすいません。  私は大罪を現世で犯してしまいました。殺人です。人間のやることではありません。  しかし私の罪は法に裁かれることから回避してしまいました。自慢かよ、と感じられたら本当に申し訳ないですが、こんなことを書くと反省していないと

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短編小説『言葉の樹』

 天国で、天使がせかせか働いている。背中の小さな羽根を細かくはためかせてすばしっこく飛び回る。  天使の仕事は、地球の生き物を数えたり、増やしたり減らしたりもするし、幸不幸の量もコントロールする。  天国には「言葉の樹」という大樹が生えている。その樹を観察するのも天使の仕事である。言葉の樹は、地球にある国ごとに生えていて、その国で交わされる言葉によって育ち方が異なる。  言葉の樹の最大の特徴は、葉が言葉になっていることだ。葉が文字になっていて、風に揺れているのだ。

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短編小説『おいしい』

 地球から遠い遠い宇宙のどこかに、地球に似た惑星があった。  その星の住人たちは地球人と見た目はほとんど同じだが、明らかにちがうところがあった。  味覚である。視覚や聴覚からも味を感じてしまうのだ。

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短編小説『改めまして、初恋』

 わたしに孫ができたことにさえ、感慨深いものがあったけれど、孫と恋愛の話をするなんて想像もしませんでした。  社会人になった孫が、東京からわざわざ来ています。何歳になっても孫はかわいいもので、何歳であろうと、女性が2人集まれば恋愛の話が始まります。 「おばあちゃんきれいになった? もしかして、恋してるの?」  と、年寄りをからかう孫に恥じらいを覚えつつ、思い出している恋がありました。  わたしが初めて恋をしたときのことです。  といってもそれはまだ一昨日の話。

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短編小説『あおむけのロボゾー』

 私はロボットである。名前はロボゾーだ。  この文章は、私のエネルギーが切れる1時間前に始まる記録だ。  私は、田中家で22年82日間ロボットをしている。私は長年使われているので、6年9日前に初めて「ボロゾー」と呼ばれ、今までだと4488回呼ばれた。  ミサチャンが生まれるときに、オカアサンの補助的な役割を担うため、私は買われた。  役割とは、家事と、ミサチャンの相手をすることだ。  ミサチャンとは、田中家の一人娘だ。  ミサチャンは、とても活発な女の子だったので、よ

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