ここ1か月ほど、息子について悩んでいることがある。1か月どころではないかもしれない。息子は今月で2歳になるが、彼が生まれて数か月経ったころにはその悩みは頭にあったから、1年以上は悩んでいることになる。

悩みは、長男に息子を見せに行くか否か、だ。半分以上、いや、9割くらい「どうでもいい」と思いつつ、どうも適当なところで割り切れないでいる。

兄には、息子が生まれる前から会っていない。兄の家は車で1時間ほどの距離だから、行こうと思えば行ける。しかし、息子はコロナ禍真っただ中に生まれたので、これまで用心して会わずにいた。

今となっては、用心というのは体のいい言い訳のようなものになっている。コロナ禍はもう終わった。何もかもが元通りとはいかないが、WHOが緊急事態の終了を宣言し、もうほとんど日常を取り戻した今ならば、さすがに会いに行っていいだろう。

外部環境だけでなく、我が家の状況も後押しする。先述の通り、息子はもうじき2歳になる。夜泣きも落ち着き、一人でできることも少しずつ増えてきた。育児がひと段落し始めて、先日は妻の友人を家に招く機会もあった。友人を招けるなら家族にも会えるだろう――比べるものではないが、そう思ったのが1か月ほど前。以来、事あるごとにその悩みが頭をよぎるのだ。

でもなあ、と、怠惰な自分が反抗する。別に兄に会いたくないわけではない。酒が入ると少々厄介な人だが、基本的にはいいやつである。息子を会わせてやりたいと、素直に思う。「でもなあ」の原因は別にある。

なにが嫌って、単に段取りがおっくうというのが大きい。どう連絡して、どういう日程で行くか。こっちから行くべきなのか、向こうに来てもらったほうが都合がいいのか。そもそも兄の家族はそんなイベント望んじゃいないかもしれないし、こんな年の瀬にわざわざ連絡してもかえって迷惑なだけかもしれない。そんな考えがぐるぐる巡って、もういよいよ面倒くさく思えてくる。考えるのが嫌になり、そのまま悩みをほっぽって、別のことに意識を向けてうやむやにしてしまう。そんなことを、この1か月、ひんぱんに繰り返しているのだ。

私は、大抵のことはすぐに判断する。悩みを抱えたままでいるというのは、自分にしては珍しい。今は悩んでも無駄だからまた今度でいいや、という心境にすらならないのは、自分でもどこか諦めきれない気持ちがあるのだと思う。何が諦めきれないのか。

まず、体面を気にしている。会いに行ける距離で行かないのは、ちょっと冷たすぎるだろうか、とか、考えている。「まあ機会があれば会わせればいいだろう」と開き直れないのは、これが原因だ。

一方で、すぐに行けないのは、余裕がないからだ。育児がひと段落し始めた、などと先ほどは書いたが、文字通り「し始めた」だけで、100だった負担がせいぜい90になったくらいのものだ。夫婦二人の育児に相変わらず余裕はない。そんな状況で、貴重な休日に予定を入れるのはなかなか度胸がいる。夫婦のどちらかが出かけるだけでも慎重になるのに、家族でのお出かけの予定となればなおさらだ。「悩むくらいなら行ってしまえ」と思いきれないのはそんなわけである。

他にも、悩む理由がいくつかある。ひとつは、長男のキャラクターだ。これは「行く」を後押しする理由。兄は、きっと私からの連絡がないことを少なからず気にしている。そんなの望んじゃいないかも、なんて言ったが、彼の性格からして、「俺、嫌われてるのかなー」とか悩んでいる可能性のほうが高い。酒の失敗を筆頭に、嫌われる心当たりがある彼にも責任はあるのだが、歳の離れた弟としては、悪しからず思っていることを伝えたい気持ちはある。

しかし、だ。もしも本当に気になっているなら、そっちから連絡してくれ、と思う自分もいる。これは「行かない」もしくは「連絡しない」を後押しする理由。なぜこちらが気をつかわなければいけないのか、と、末っ子根性なのかなんなのか、甘えたい気持ちがある。向こうだって子育てを経験しているのだ。育児中の大変さは想像がつくだろうに、なんの連絡もよこさないとは何事か、なんて憤るような気持ちすらある。

ここまで書いて気がついたが、ひょっとすると、兄はこちらの状況を気遣って連絡をよこさないのかもしれない。経験者だからこそ、いろいろと疲れている時期に、自分の都合で負担をかけるのも悪いなと気を遣っているのだろうか。お節介な兄が一切連絡をよこさない理由として、そちらのほうがよっぽど妥当なものに思えてきた。

そうだとすれば、私が今こうして思い悩んでいるのはまったく本末転倒というか、これこそが彼の配慮を無駄にする行為かもしれない。

それではあまり気負わず、連絡するのはまた気が向いたときにしよう。

ほんとに悩みをこねくり回すだけのつもりが、案外すっきりしてしまった。というわけで、今の気分は「ちょっとすっきりしてる感じ」です。

文　：市川円
編集：アカ ヨシロウ

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