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色なき風と月の雲 5



半年振りに推しているグループがカムバックした。

CDを数枚買えば握手会やサイン会に参加できる。


有名グループの場合は3桁ほど積まなければならないらしいが、私の推しはマイナーグループなので安上がりで助かる。


そうはいっても、何度も参加するために2桁は買ってしまう。このために食費などを削って推し貯金なるものをしているのだ。


「まじで良すぎた。今回も推しのビジュ大優勝!」

オタク友達である羽那(はな)ちゃんとリリイベ後に推しのコラボカフェに来た。

テーブルには色とりどりのドリンクや推し考案のスイーツが並ぶ。

「ミンくんの銀髪かっこよすぎたね。リアルに王子様みたいだった!なのに私の推しのソンくんったら坊主に近い短髪で、貧相に見えて泣きそうだったよ」

推し色のドリンクを飲みながらため息をつくと、

─これでも食べて落ち着きな、と口にパンケーキを詰め込まれた。

「おいひい」

甘党の推しが考案したパンケーキは分厚くてふわふわで、ブリュレされた甘いものだった。


推しのビジュはオタクにとって重要で、基本的に全肯定の私だが今回のビジュは大打撃だった。

推しを追いかけることが生きることや仕事のモチベーションなのに、それが失われると耐えられない。

高校時代に必死でバイトして買ったカメラを
ポチポチと操作しながら今日のフォトタイムで撮った推しを眺め、再びため息をつく。

「顔はいいのになぁ。誰があんな髪型にさせたんだよ」

─いくら顔がいいといっても、似合う似合わないがあるんだから

そんな時は、ビジュ大優勝の推しを拝む。カメラには過去の舞台で撮った推しの写真がたくさん入っている。

「アッシュでふわふわの時がビジュ大優勝だったのになー」

「それな。このときに戻ってほしいよねー」

文句言いつつも、推しのことは大好きだしどんな姿でも応援する。でもやっぱり、ビジュは重要だよ。



「紗楽ちゃん、さっき買ったグッズのトレカ開封しよ!」

コラボカフェでも様々なグッズがある。キャラクターとコラボしたものやイラスト化された推しのグッズ、グループ内の誰が出るか分からないランダムのトレカ、缶バッジ、生写真などがある。

収集癖があるオタクは、家の中がグッズまみれになる。私もできることならフルコンプリートしたいが、そうもいかないので基本的には推しの顔が写った商品しか買わない。

しかしそれはランダムなので、たくさん買うよりは推しが被っていない人と交換するほうが効率が良い。


それぞれ10枚ずつ買ったので、開けていく。

「いくよー、せーの」

同時にひっくり返してみる


「あー、違ったー」

「つぎつぎ!」

こうやって開封していく時間が楽しいのだ。


ドキドキしながら開けていく。

「ラスト!せーの」

同時にひっくり返すと…

「わー!ソンくん!!」

「私のはミンくん!」

それぞれ相手の推しを引き当てた。

「よーし、交換しよう」

「ありがとう!はい、ミンくん」

「ありがと、嬉しい!」


自引きできなくて残念だったけれど、お互いに交換できてよかった。何枚買っても引き当てられないこともあるので、自分で推しを引き当てたときの嬉しさはひとしお。


それぞれ出たトレカを並べてみる。同じ人物でも違うショットがあるので、できればそれも集めたい。

「お、1番レート高いドンくんいるじゃん!!」

「SNSで交換だそうよ」


交換のレートが高い人を引き当てられると自分の推しに交換しやすい。

「次の会場で交換してもらおっと」


こうやってどんどんオタクの輪は広がってゆく。





オリジナルのフィクション小説です。

題名を「初めて書いた物語」から「色なき風と月の雲」に変更しました。


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