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【読書】ポピュリストとは?

世界各地で重要な選挙を控える2024年、今まで以上にポピュリストという言葉をニュース記事で見かける。しかしそもそもポピュリストとは何か?ということを問い直した一冊。なお本書はあくまで左派ポピュリストの分析に焦点を当てている。

要約

  • 元々、労働者階級という確固とした基盤に支えられた左派だが、時代が進むにつれ、労働者階級のみならずその他の人々にもReach outする必要が出てきた。それにともないイデオロギーの再考も求められる。

  • 人々は政党政治という土俵からインターネットという空間に不満や怒りの吐き出し先を見つけるようになり(demobilised societies)、ここにどう取り込むかがという流れで出てきたアプローチがポピュリズム。ポピュリズムという用語自体は時代や地域によって違う意味で使われてきた。

  • まず、ポピュリストというワードをしっかりと歴史遡って分析整理したことは評価したいが、大衆書としては微妙と思った。




1.本の紹介

本のタイトルは「The Populist Moment - the left after the great recession」(2023年刊行)で、邦訳は現時点でなし。

著者はベルギー・ナミュール大学政治学教授のアーサー・ボリエッロ/Arthur Borrielloとベルギー・KUルーバン大学政治学研究者のアントン・イェーガー/Anton Jäger

Arthur Borriello
アーサー・ボリエッロ
Anton Jäger
アントン・イェーガー

動画は散見されず、唯一見つけたのが下記動画。Ted talkみたいだが、らしくないクオリティ。1920年代と2020年代のポピュリスト権威主義の台頭を比較検討している。

2.本の概要

この本の焦点は主に、2008~2022年にかけて左派勢力がポピュリスト政治アプローチを使っていかに新たな支持基盤を広げていくかを、社会経済状況の変化も踏まえながら分析。

従来の左派勢力は、organased labourとも言う確固たる労働階級から構成、国際的なネットワークでつながり、確固たるイデオロギーに支えられた。1970年代以降、徐々に既存政党がカルテルを形成し政治の舵取りをするようになると、80年代から世界を席巻する新自由主義の台頭もあり、人々が既存政党らに対する不満を抱えるようになる。

さらに時代が進むと、それら人々は政党政治という土俵からインターネットという空間に不満や怒りの吐き出し先を見つけるようになる。筆者らはこれを、demobilised societiesと呼び、これをどう取り込むかが左翼政党の喫緊の課題となっていく。

そんな中左翼グループはレトリックを変え、労働階級のみならず、階級超え不満を抱える人々全体(例: 特に若者を中心とした失業者、苦しむ中産階級)と向かい合うことを求められていくというストーリー。

興味深いのは、ポピュリストの歴史的考察。昨今の時事ネタで乱用されるポピュリストという言葉、使う人によって意味が違うことも多々。一般的に口先だけで人々の心に訴えかけ取り入ろうとするデマゴーグ的な解釈もあれば、本当の意味で人々全員のためを思って行動に移す者こそ真のポピュリストというバラク・オバマ。

そんなポピュリストという言葉、実はそのルーツは、19世紀末米国ネブラスカ州の農民による政治的な抗議運動に遡る。その抗議活動家らはそのまま選挙に臨み議会進出を果たすわけだが、その際にポピュリストと呼ばれた。

その後政治学でも極右運動研究で、ファシズムのプロトタイプとしてポピュリストがひも付けられ(Richard Hofstadter)、フランス政治の文脈では国家前線/Frontal Nationalを国家ポピュリストと呼ぶように。そう呼ばれた政党自身、ファシストと呼ばれるよりはよかったため、ポピュリストという言葉を使うようになる。

その後、ポピュリストと言い言葉は独り歩きし始め、英国サッチャーやブレア、イタリアのベルルスコーニもポピュリストと呼ぶようになった。そして最近の一例ではトランプ。

残り割愛。

3.コメント

本書はどうやら研究プロジェクトを大衆向けに出版したものと理解。なので、同じ政治学の研究者という視点から私のコメントを残しておく。

まず、ポピュリストというワードをしっかりと歴史遡って分析整理したことは評価したい。また、ギリシャのシリザ党など2008年前後の左派ポピュリスト政党をしっかりと掘り下げて分析したのも、学問的には評価されるのだろう。

しかし大衆書としては微妙な気がする。理由は以下の三点。

第一に語彙や言い回しがやけに遠回しだったりする嫌いがある。二人ともNon nativeだからそうなるのか、研究者としての若さゆえか。一応研究者目線で言わせてもらえば、もっと簡略に書けよ、と思ってしまったが、これはあくまで私見。

第二に、方法論が見えない。大衆書とはいえ、もう少し分析アプローチというものを説明してほしかった。本を読んでて説明が過去や国を超えていったり来たりしたり、引用語を多用したりしているが、その意図があまり見えなかったのも、方法論の説明があれば少しは変わったかも。

第三点に、このご時世なので、極右ポピュリストにもガッツリ分析してほしかった。一応、ルペンやトランプにも触れてるけど、ガッツリ分析してるのは左派。ポピュリスト全体を扱ってほしかったというのは贅沢なのだろうか。

最後に1920年代と2020年代のポピュリスト権威主義の台頭を比較検討した動画を視聴。ファシズムは1920年代の状況やそれによる組織的な大量動員/mass organisationがあったからこそで、今日では同様に事は起こり得ない。むしろ当時とは違った形の新たな脅威があるとのこと。その主張自体は反対しないが、もうちょっとその新たな脅威がなんなのかを示してほしかった。

最後に一言

結局私は途中で挫折したので、おすすめともそうでないとも言えない。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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