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欧州:自動車と環境規制

今年は、フォン・デア・ライエン欧州委員会最後の年。同委員会が打ち立てた欧州気候変動・環境対策の要であるEUグリーン・ディールを、今年採択されたEU自動車CO2排ガス規制の改訂法から読み解きたい。




欧州における自動車CO2規制の後退

EU、英国、ドイツ等にて自動車CO2規制/EV転換政策をめぐって、揺れ戻しの動きが見られた。以下その概要。

①EU/欧州連合

EUは 2035 年までに域内で内燃エンジン(ICE: internal combustion engine)車の新車販売を禁止するEU自動車CO2排出基準規制を今年初めに制定。新型車から排出される二酸化炭素(CO2)排出量平均値を、2035 年までに対 21 年比で 100%削減する内容(詳細下記)。

欧州自動車CO2排出基準規制と目標値
出典:ICCT

しかし合成燃料/eフュエルで走るICE車の販売を特例として認める旨も決定した。現行の欧州委員会が打ち出した欧州グリーン・ディール政策からの後退である。

EUの規制緩和の裏には、自動車産業を抱えるドイツの意向がある。自国産業保護のためeフューエル車の販売を認めるべきと主張。イタリアやポーランド、ハンガリー、チェコ、ルーマニア、スロベニアといった南欧&東欧諸国が同調し、今年3月にまとまった自動車CO2排出規制の最終案に、eフューエル式のICE車の例外措置が盛り込まれた。

無論、環境団体から手厳しい反論ありーeフューエルの商業規模生産が行われていない中、その使用を促すEUの政策は高コストかつ非効率的で、EVへの転換を阻害するとのこと。

②英国

さらにEUを脱退した英国もガソリン・ディーゼル車の新車販売禁止法を打ち出していたが、緩和に踏み切った。禁止期限を30 年から 35 年に延長したのである。英国のEV転換後退の理由も、国民の経済的負担に配慮した形である。EV価格が下がるまで買い替えを猶予すると説明。

③ドイツ

今年 12 月にはドイツがEV補助の早期終了に踏み切った。ドイツEV補助金撤廃は、連邦憲法裁判所の判決により、政府がEV補助の財源となる気候変動基金の支出削減を余儀なくされたため。

④業界の反応

  • ハイブリッド車(HV)推進派のトヨタは、英国の動きを歓迎。

  • フォードやボルボなどは、すでにEV一本化に踏み切ってるとし、EUや英国の方針転換を政策一貫性がないとして批判的。

  • 日産はあくまで淡々と、30 年までに欧州向け新車をすべてEVにする方針。

今後の動きは来年の欧州選挙次第

現実的かつ積み上げ方式の日本政治に対して理念専攻型のEU政治。EVシフトを含むEUグリーン・ディールも欧州エリート層の理想がぎゅうぎゅう詰めされた政策パッケージ。聞こえはいいし、打ち出すのも簡単だが、問題はそれをどう実現するか。

そんなグリーンディールを掲げて突っ走ってきたフォン・デア・ライエン委員会にとって今回のEV転換揺れ戻しは、現実を見ろと言わんばかりのプッシュバックに写っているだろう。

そもそも欧州委員会は、法案を立案し、加盟各国の大臣級から構成される閣僚理事会と欧州議会から修正案と共に承認を得て可決させてしまえば、仕事は終わり。可決された施策の実施責任は加盟国側にある。大国が賛同すれば法案が通ってしまう。苦労するのは東欧等の経済が弱い国。

ただ今回は、大国ドイツですら待ったをかけるという状況ということだろう。グリーンは大事だけど、自国産業も大事、国民は物価高で苦しんでいる上、選挙も控えてるし、極右政権も表を伸ばしている。EVに全振りすると国内ICE産業が死ぬ&中国勢にやられるので困るということだ。

しかしこれをもってEUのradicalな環境政策にブレーキがかかるかといわれるとNo。それが分かるのは来年に控える欧州選挙の結果次第というところ(詳細は下記リンク参照)だが、これまでのEUグリーン政策がひっくり返る可能性は極めて低い、と私の経験からくる直感。

ただ、業界からすると、どうするのかはっきりしてほしいところ。こうも政策がぶれると、業界としては、トヨタのようにEVもハイブリッドもICEもやる全面包囲方式ベストな選択肢ということになる(そもそもここまで環境に突っ走っているのは欧州だけ)。


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