マガジンのカバー画像

創作小説

10
創作した小説たち。フィクションも、ノンフィクションも。
運営しているクリエイター

#創作小説

急行を見送って、恋が終わる。

急行を見送って、恋が終わる。

何もない街の、何もないところを愛していた。

きみと私の共通点はそう多くはなくて、ただひとつ挙げるとすればそれは「各駅停車しか止まらない駅に住んでいる」ということだった。最寄り駅に止まる電車の速さはそのひとの生きるスピードを表しているとどこかで聞いたが、本当だろうか。止まらない電車を見送るように、羽ばたいていく友人たちを何度も見送ってきた。

きみの住む街は都内なのになんにもなくて、駅からの道がと

もっとみる
ライターで打ち上げ花火に火をつけた たぶんなんにも怖くなかった

ライターで打ち上げ花火に火をつけた たぶんなんにも怖くなかった

3年前、学生として過ごす最後の夏。真夜中の電話で呼び出された僕は、居酒屋にいた。ビールが安いと噂のその店では既に友人2人が出来上がっていて、僕は軽くため息を吐いた。だけどこんな夏も今年が最後かと思うと途端に愛おしく思え、適当なサワーで彼らに付き合うことにした。

「2次会どこ行く?」
「もうお店開いてないよ、コンビニで買おう」
「俺ラーメン食いたい」
「え、花火あるじゃん!したい」

1次会で程

もっとみる
大人になりきれなかった私へ

大人になりきれなかった私へ

大人が嫌いだった。

子どもより頭が良くて何でも知ってる癖に、ビールが入ったグラスで乾杯した瞬間全てを忘れたように笑う姿が嫌いだった。

それはまるで、体育祭の後にそれまで喧嘩していた男子がキラキラした笑顔でハイタッチする光景を見ているようで、私には到底理解できないと思った。

あんな嘘つきな大人にはなりなくなかった。

・・・

大学2年の初夏。4月生まれの私はとっくに20歳になったけど

もっとみる