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70年代映画にみるベトナム戦争とアメリカ

ベトナム。
すでにいくつかの記事で触れたが、しばらくベトナムにいた時期がある。定住と呼ぶには短く、旅と呼ぶにはやや長い6か月の滞在で、ベトナムについて多くを学び、ベトナムを通して日本という国を新たな視点で見るようになったと思う。ついでに世界のつながりについても大いに興味を持った。
ベトナムを語るうえで、ベトナム戦争は欠かせない。またアメリカを語る場合にも、やっぱりベトナム戦争は欠かせない。何なら、反戦運動も、ヒッピー文化も、世界の多極化も、フェミニズムも、エコも公民権活動もすべてこの時代、ベトナム戦争がキーとなっているというのだから、もはや世界のあらゆることがベトナム戦争を語ることなくしては語りつくせないのである。

ベトナムを題材とした映画は星の数ほど存在する。
そのうちの多くはベトナム戦争に関連する映画だ。当事国であるアメリカで多く制作されているのはもちろん、無理やり関連付けたと思しきものまで多岐にわたっているからすごい。Wikpediaにその関連作品のリストがあったので載せておく。これでも全作品は網羅していないだろうと思うと、ベトナム戦争がいかに広く関心を集めているかがわかる。

この中から超のつく有名な作品、おすすめ作品をいくつか抜粋する。

異色のベトナム映画(60年代)

グリーンベレー(1968年)

ジョン・ウェイン主演・監督・製作総指揮。
反戦思想のもと制作された多くのベトナム戦争映画とは異なり、南ベトナム軍を肯定的に捉えたプロパガンダ映画である。
1968年は、後にベトナム戦争最大の戦いと言われるテト攻勢があった年。ベトナムの旧正月・テトに北ベトナム軍が南軍、アメリカ軍に対して奇襲攻撃を仕掛けた年である。当時アメリカの戦争介入は最大規模に達し、同時にアメリカ国内では反戦、戦争への忌避感が高まっていた。それを収めるために制作された映画だったらしい。
この映画を観ると、ジョン・ウェインという人は良くも悪くもアメリカを背負っていたのだなぁ、と複雑な心境になる。ある意味、当時のアメリカという国の考え方を知るにはとても参考になる作品。

70年代制作の映画

70年代は名作揃いだ。数多いベトナム戦争映画の中でも特に反戦色の強い映画が多いと思う。以下3作は、どれも見終わった後に体の奥がどんよりと重くなった感覚になる。体力と気力がある時でないと見終わった後にしばらく引きずられてしまうので、観るタイミングに気を遣う作品群だ。

ディア・ハンター (1978年)

マイケル・チミノ監督、ロバート・デ・ニーロ主演

ベトナム戦争に巻き込まれた3人の若者の悲劇を描く映画。デ・ニーロ、ウォーケンの熱演に引き込まれる。現在もファンの多い不朽の名作だ。
実際にこんな生活をすることになったなら、果たして正気を保っていられるだろうか。自分はマイケルの側か、それともニックになってしまうのか。いろいろと考えさせられる映画である。

おすすめのイメトレ方法
まずは意思に反して戦争に向かう若者の気持ちになってみる。そうしてベトナムの街を歩いてみると、にぎやかで明るいベトナムの街並みが違って見えてくることだろう。また現在の発展ぶりに、当時の面影を重ね、平和のありがたみをかみしめられるはずだ。

地獄の黙示録 (1979年) (原題:Appocalypse Now)

フランシス・フォード・コッポラ監督
マーロン・ブランド主演

もはや語る必要すらない叙事詩的映画。監督の大出世作である。
実は原作「闇の奥」の舞台は19世紀のコンゴ。それをベトナム戦争を舞台に書き換えたのだそうだ。時代を代表する名優が名を連ね、名曲「ワルキューレの騎行」も高らかに、名だたる賞を総ナメにした作品。
この映画に関しては、おすすめポイントが多すぎて書ききれない。
ぜひ、その目で確かめて頂きたい。

おすすめのイメトレ方法
映画の音楽、映像を思いっきり脳内に取り込んで、ベトナムの広大な土地や気候、風土を見て、感じてほしい。汗でシャツが張り付く感覚や、熱帯雨林にベトナムの生活環境を知ることができる。この映画をみたあとにクチトンネルに行くと、臨場感がケタ違いだ。

ヘアー (1979年)

ミロス・フォアマン監督
ジョン・サヴェージ主演
こちらはベトナム戦争時のアメリカが舞台の映画。原作は1968年にブロードウェイで上演され、演劇の最高峰トニー賞も受賞した同名のミュージカルである。2013年に行われた日本公演を観に行きこの作品を知ったのだが、大げさでなく人生のターニングポイントと呼べるほどの衝撃を受けた。以来この作品が大好きになり、映画を観るに至った。
アメリカでは数年おきに、ブロードウェイから学校の演劇に至るまであらゆるレベルのシアターで上映されるクラシックな演目であるこの作品は、複数の演出やサウンドトラックが存在し、また映画とミュージカルの演出が異なる。特にラストシーンは全く異なるのだが、本筋はおおよそ一緒なので映画版で予習をし、機会があればぜひミュージカルを見ていただきたいと思う。

お話はベトナム戦争へと徴兵された田舎の若者が、出征前に都会を見たいと思い立ってニューヨークに来るところから始まる。ニューヨークで出会ったヒッピーのバーガーとその仲間たちとの交流を通して、愛と平和、そして自由とは何か、人間とは何かを問う反戦ミュージカルだ。

ミュージカル来日時の紹介文を下記に引用する。

ロングヘアーが自由のシンボルとなっていた1960年代、ヒッピー達の交流を題材に愛、平和、自由を探し求める若者たちの群像劇として1968年に初演(オリジナル版)。
アメリカ史の一部を語れるほど社会に影響を与えただけでなく、出演者が客席を練り歩き、踊り、観客を巻き込み、会場がひとつになる斬新な演出で話題になりブロードウェイに革命を起こした、まさにフリーダムなミュージカル!
新たな演出で進化を遂げ、トニー賞を受賞した海外版が初演から45年を経て、初来日公演!

シアターオーブHPより

この映画を見ると、心の底から戦争への憤りや人生のはかなさを感じる。最もお勧めしたいのはサウンドトラックだ。ぜひリバイバルバージョンを聴いてほしい。映画全編で流れる曲はどれも秀逸で、歌詞のひとつひとつがストーリーとリンクした深い意味を含んでいるので、歌詞の意味をよく確認しながら聴いていただきたい。
いつか曲ごとの歌詞の背景についての記事をかけたらいいなと思う…いつか。

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