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制度に守られない外国人と、守られる企業

2018年12月。たまたま、裁判の傍聴に行ったときのことだった。

自分が傍聴しようと思っていた裁判の前に、外国人の不法滞在に関する裁判が開かれていたので、傍聴することにした。強い関心があったというわけではなく、たまたま時間があったから入ってみたというだけだった。

被告人席に座ったのは、中国から来た24歳の青年だった。

彼の実家はレストランを営んでいたが廃業し、両親を助けるためにお金が必要になった。自身も料理人になるという目標を持っていた彼は、斡旋を受けるためにおよそ100万円を用立てて来日したそうだ。

日本に着いた後、彼は関東圏内のとある印刷会社に派遣された。

そこで彼は、自分が抱いていたであろう想像からは遥か遠い現実に直面した。

24時間稼働している印刷工場を2交代制で回し、昼休憩は立ったまま数分で昼食を済ませるのみ。休みは週1回で月給は18万円程度だったという。1日の勤務時間は約12時間で週6日出勤、労働時間は月間で約288時間となる。時給にすると約625円で、これは当該自治体の最低賃金を大幅に下回っている。

そして彼は収入から生活に必要な資金を除いてほとんどを実家に仕送りしており、その額は100万円を超えていたという。

過酷な環境を耐え抜いて、彼は実習期間を終えた。当初聞いていた話と違う労働環境に不満を覚え、より稼げる仕事を探して都内に身を移し、仲間を通じて偽造の滞在許可証を購入、仕事を探していたところ職質されて捕まった。

裁判は、日本語を話せない彼を置き去りにするかのように淡々と進んだ。つど通訳が彼に伝えるが、そのたびに彼は力なく頷くだけだった。

判決は、入管法違反により執行猶予3年(刑罰の内容は記録し忘れてました)。釈放後すぐに入管引き渡しとなり強制送還されるため、執行猶予を気にする必要はないのだという。裁判長は「まあ、ないとは思いますが、再度日本に入国した場合には執行猶予の対象となります」と加えた。裁判長の声は、事務的でありながらも、彼の状況に同情しているような感じがあった。

この裁判では、当然ながら印刷会社は何も咎められることはない。制度を悪用して最低賃金以下の給料で過酷な労働に従事させていたにも関わらず、被告人である中国人の彼がそれを訴えることもできない。

制度は彼には味方せず、印刷会社を守った。

印刷会社は実習生が逃げ出したことで「迷惑を被った」ような立場となることはあっても、処罰されることはない。今後もまた違う技能実習生を迎えては、過酷な労働に従事させるのだろう。

少しずつ、こうした技能実習生制度の問題が明るみには出てきており、諸外国でも認知は上がってきているとは耳にする。しかし、この裁判で詳らかにされたような現実を、これから日本に渡ろうとしている人たちが知るにはまだまだ発信が足りないのだろうと思う。

たとえばAmazonのレビューのように「出稼ぎ先:日本 ☆★★★★」「聞いてた話と違う環境で、非常に安い賃金で長時間労働をさせられました」とかの形で他の実習生が参考にできるような形では公開されれば、ずいぶん役に立つのではないかという気もするけれど。

今年の7月までニューヨークにいた間、Black Lives Matterを叫ぶ抗議活動が全米で巻き起こった。そのとき広く知られることになった言葉に「システミック・レイシズム(制度的差別)」がある。

たとえば黒人がアメリカで起業する場合、白人が同じビジネスを立ち上げるよりもリスクが高いため融資が受けられないなど、感情や思考ではなく制度によって「合理的」に差別されてしまう状況のことをいう。

日本にいると、システミック・レイシズムにはピンとこない人も多い、という話を聞いた。だけど今まさにこの国にも、それが地続きの問題として横たわっている。

先日、このニュースが大きく報じられた。

この記事は有料会員しか読めなくなっているけれど、こうしたマスメディアによる報道や個人の発信がもっと活発化して、まずはみんなで問題意識を共有していくところから始めていかなければならないように思う。

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