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厄咲く箱庭 ― 花巫女と災いの神(1) 壱.両極の能
序.尊巫女
――これは現世の何処か、裏に存在すると伝えられてきた、古の理が息づく世の噺。
そこに生きる人族の者は、八百万の神々を崇め、妖を畏れる暮らしと共に在った。
その中でも、彼らを祀り、鎮める社を司る一族に生まれ、特異な能を持つ人族の女は『尊巫女』と呼ばれる。
彼女達は、十八になると神々の住む神界に向かうという慣わしが、遥か昔からあった。雨喚ぶ巫女は龍神界、陽をもたらす巫女は稲荷界
厄咲く箱庭 ― 花巫女と災いの神(6) 参. 天上天花
参. 天上天花天罰
その夜の夕餉時。いつものように、部屋でカグヤと食事を摂りながら、ずっと気になっていた事をアマリは相談した。反物の礼に何か出来ないか聞いた時の荊祟の返答が腑に落ちなかったのだ。
「……確かに大したお役には立てないでしょうけど…… 女中の皆様の負担を少しでも軽く出来ると思うのです…… 気を遣って下さったのでしょうか……」
「だと、思いますよ。そもそも、貴女様は、長年の疲労が
厄咲く箱庭 ― 花巫女と災いの神(5) 参.天上天花
参.天上天花其々の選択
身体のどこにたまっていたのか、幾年分の涙を流し続け、ひとしきり泣いた暫し後――アマリは宙を飛んでいた。粉雪に変わった真夜中の宵空を、規則的にゆらり、ふわり、と瑞風――もしくは鳥の背に乗ったように。
「……長様、あ、の」
「喋るな。舌噛むぞ」
心身共にがちがちに固まっているアマリは、すぐ傍……眼前の荊祟を顔を見やる。冷え切った身体は彼が着ていた漆黒の羽織に包まれ、
厄咲く箱庭 ― 花巫女と災いの神(4) 弐.二律背反
弐.唯我独尊居場所
それは理解していた事実だったが、先程の会話の中で感じ取った、逆に彼の何かが自身と共鳴し、救いを求めているような……そんな自惚れと勘違いしそうな予感があった。
それが、どうしようもなくアマリを駆り立てていたのだ。それが何という感情なのか、動力なのかも……わからないまま。
「貴女様のその心持ちは美徳ではございますが、場合によっては、ご自身を窮地に陥れる要因にもなり兼ねませ
厄咲く箱庭 ― 花巫女と災いの神(3) 弐.二律背反
弐.唯我独尊保護
――…………
……遠い、遠い彼方から、何か……聞こえる。
キャン、キャン、と叫ぶ、悲鳴のような子犬の鳴き声。
『かえして。おねがい。しんじゃうわ』と必死に乞う自分の弱々しい叫び声。その場に座り込んで、ひっく、ひっく……としゃくりあげる。
涙と鼻水で濡れた顔がみっともなくなり、慌てて拭おうとした瞬間――自分と変わらない大きさの柔らかな手が、その手を包んだ。
続い
厄咲く箱庭 ― 花巫女と災いの神(2) 壱.両極の能
壱. 両極の能八百万の河
どのくらいの時が過ぎたろうか。暗がりの狭い駕籠の中、アマリの意識は寝不足と空腹で朦朧としていた。昨夜から今日一日、社の地下水しか口にしていない。人族の世界――俗世の気を少しでも身体から失せさせる為と聞いた。
窓どころか隙間も無い駕籠の中からは、外の様子は全くわからない。何処を通っていて、どの方角に向かっているのかも、弱った頭や身体では感じ取れずにいる。万が一、尊巫