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『キッチン』(本のこと)

吉本ばななの『キッチン』
これも私の好きな本のひとつ。

天涯孤独になってしまった2人が
どう生きるかという話。

死と孤独と向き合うこと。
食べることは生きること。
家族とは何か。
そんなことを考えさせられる。


冒頭がいい

私がこの世でいちばん好きな場所は
台所だと思う。

吉本ばなな著『キッチン』より

何がいいかはよくわからない。

考えたこともなかったけど
「私も台所好きかも」と思った。
料理が好きかと言われれば
すぐに答えは出ない。
この冒頭が好きなのは、私自身が
何より食べることが好きだからだと思う。



死と孤独

主人公のみかげはずっと2人で暮らしてきた
祖母を亡くし、その後慕っていた雄一の母、
えり子さんまで亡くしてしまう。

死や孤独をテーマにしている割に読みやすく、
重たすぎず、あたたかい本だと思う。

私は、元気がないし、日夜台所で寝ていたら体のふしぶしが痛くて、このどうでもよいと思える頭をしゃんとさせて、家を見にいくなんて!荷物を運ぶなんて!電話を引くなんて!

吉本ばなな著『キッチン』より

祖母の葬儀が終わった後、主人公の人柄を
表したどこか明るい砕けた文体。

そして大切な祖母が亡くなっても生活は
続くことが表現されている感じがする。

誰かが死んでも悲しんでばかりはいられない。周りに連絡して、葬式の準備をして、
学校や仕事を休んで、遺影の写真を選んで‥
などなどやる事はたくさんある。

葬式は遺された人のためにやるものだと
聞いたことがある。何もしないでいるよりも
故人のためだと思って、みんなで
なんかやかんやしていた方がきが紛れるし、
日常生活に戻りやすいんだろうなとは思う。

誰かが死んでも遺された人々の人生は続く。

誰かの死と向き合うたび
この本が読みたくなる。



食べることは生きること

この本には食べるシーンが多くある。
大量の料理を作って2人で食べるシーン、
夢の中でお茶を飲むシーン、
旅先でカツ丼を食べるシーン。

どんなに辛く苦しいことがあっても
食べて生きていかなくてはいけない
そう思わせてくれる。

なぜ、人はこんなにも選べないのか。
虫ケラのように負けまくっても、
ご飯を作って食べて眠る。
愛する人はみんな死んでいく。
それでも、生きてゆかなくてはいけない。

吉本ばなな著『キッチン』より

食べることは生きること、日常も非日常も
生活するということだなあと思う。

体型のわりにというか、
運動量のわりにというか、
私は元々たくさん食べる方だった。
食べるのが好きだし、風邪をひいても
歯が痛くても食べられなくなるという経験は
ほとんどなかった。

そんな私がまともにご飯を食べられなくなったは実習中と失恋した時くらい。

失恋してご飯が喉を通らないなんて
自分でも笑ってしまう。
体験するまでありえないと思っていた。
当時は心と体って本当に繋がってるんだなと
他人事のように思った気がする。

この本は、そんな時でも食べなくては!
と思わせてくれる。

泣きながらご飯を食べたことがある人は生きていけます。

ドラマ『カルテット』3話より

このセリフも私の好きなセリフだ。
そして偶然にもこのシーンで2人が食べているのもカツ丼なのだ。

元気がない時はカツ丼を食べるに限る。


家族とは

この本を読むと元気があってもなくても
カツ丼が食べたくなるし、美味しいも、
悲しいも、苦しいも、共有したいと思える人がいることは幸せなことだと思う。

「みかげがぼくの人生にとってなんなのか。ぼく自身これからどう変わっていくのか。今までと、なにがどう違うのか。そういうことのすべてがさっぱりわからない」

吉本ばなな著『キッチン』より

いくつもの昼と夜、私たちは共に食事をした。「どうして君のものを食うと、こんなにおいしいのかな。」私は笑って、「食欲と性欲が同時に満たされるからじゃない?」と言った。「違う、違う、違う。」大笑いしながら雄一が言った。「きっと、家族だからだよ」

吉本ばなな著『キッチン』より

この2人の関係はなんだろう。
やはり家族だろうか。
三角関係のような描写はあるけれど
いわゆる恋愛関係のような描写はない。
これは恋愛小説なのだろうか?

私は2人のような関係に憧れる気持ちがある。

血の繋がりはなくとも、お互いを信頼し、
尊敬し、愛情をもって、それぞれを個として
尊重することができる関係。必要があれば深夜にタクシーを飛ばし、屋根によじ登ってカツ丼を届ける関係。

そんな相手がいるならば本当に
羨ましいなと思う。



おわりに

この本にはあとがきには
こんなことが書いてある。

『感受性の強さからくる苦悩と孤独にはほとんど耐えがたいくらいにきつい側面がらある。それでも生きてさえいれば人生はよどみなくすすんでいき、きっとそれはさほど悪いことではないに違いない。もしも感じやすくても、それをうまく生かしておもしろおかしく生きていくのは不可能ではない。多少の工夫で人は自分の思うように生きることができるに違いない。』

吉本ばなな著『キッチン』そののちのこと より

別に自分のことを感受性が
強いとは思っていない。
それでも苦しい時でもしっかり食べて、
それほど悪くないと思える生き方が
できればいいなと思う。

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