見出し画像

山奥の白い悪魔

今日のテーマはどちらかというと“共生”になります。私が普段取り扱っている寄生虫は、宿主との関係が“寄生”となります。この関係は、寄生者側が一方的に利益を得て、宿主側が害を被る関係性です。一方、共生という関係は、双方が利益を得る関係です。例をあげると、サンゴとサンゴの体内に生息する褐虫藻があります。サンゴは褐虫藻を体内に住まわせていますが、褐虫藻が光合成で生産する養分を優先的にもらうことができます。一方、褐虫藻はサンゴに光合成で作った養分の一部を取られますが、住み家と光合成の材料である二酸化炭素と排泄物をもらいます。そんな関係の生物をこの度は紹介します。

身近にあってほしくない!

ここでは、不定期に身近な生物を取り扱った実験を紹介していますが、今回取り扱う生物は“シロアリ”です。「身近にいますよね?」と私が言ったら、ちょっとヤバいです。今回使用するシロアリは、自宅にいたものではなく、山奥の朽ちた木に生息していたものになります。ある製薬会社のサイトにある情報をもとに、少しだけシロアリについて説明します。
まず、シロアリは、アリという名前ですが姿がアリに似ているというだけで、生物学的にはゴキブリに近い生物です。また、アリは女王を中心とした社会性昆虫であるのに対し、シロアリは女王と王のペアを中心とした社会性昆虫です。シロアリと言えば害虫というイメージがあると思いますが、日本に生息している22種類のシロアリのうち、家屋に被害を及ぼすシロアリは5種類で、大半のシロアリは土壌改良に重要な役割を果たしている益虫です。
今回の実験で使用したシロアリの種類はわかりませんが、おそらくヤマトシロアリではないかと思います。日本のシロアリ被害の8~9割がヤマトシロアリによるものだそうです。

シロアリがいた朽木ですが、どこにいるか分かりますか?

逆転の発想?

シロアリが家屋に被害をもたらす原因は、シロアリが“木を食べてしまう”からです。特に木造家屋の多い日本では家の天敵でしょう。しかし、生物学的には、この“木”を食べることがとても重要です。
ところで、皆さんは植物にしても動物にしても死骸を放置したらどうなるかわかりますか?「腐ってなくなる」ことはご存知だと思いますが、これは細菌類をはじめ分解者と呼ばれる生物が生物の体を作る有機物を分解していったためです。しかし、木の幹や枝はすぐには分解されず長い間残っています。そもそも、木は分解されないからこそ建物の材料として使われています。これは、木(植物)をつくる細胞にセルロースという地球上のほとんどの生物が分解できない物質が含まれているからです。そんな生物が分解できない成分を分解して養分にしているからこそ、シロアリは注目されています。先述しましたが、シロアリと呼ばれる動物のうち大半が益虫であると言われているのはこのためです。

木の隙間をピンセットでつついたら、1匹出てきました。黄色の丸で囲んだところです。

腹を割って話をしよう

木を食べることができるという特殊能力をシロアリ自身も持っていますが、シロアリの腸内には同様の能力を持った原生生物や細菌を多数共生させています。この原生生物や細菌の種類や働きを調べるためには専用の試薬や器材が必要なので、ここでは中学や高校、また前回の記事で紹介した顕微鏡で、腸内生物の観察をすることだけを紹介します。
観察方法はとても簡単です。スライドガラスの上でシロアリの腹を切りはなして、水を1滴垂らしたのちに、カバーガラスを被せるだけです。400〜600倍で十分観察することができます。原生生物は毛のようなものが生えており、細菌類は小さいのが動いているのが見えると思います。一応、こちらにも写真と動画をのせているので、参考にしてください。(アマゾンで購入したのとは別の顕微鏡で撮影したものですが、同様のものが観察できます。)
ちなみに、原生生物と細菌類の違いですが、原生生物は真核細胞と呼ばれる核を持った細胞(私たちと同じ細胞)からなる単細胞生物で、細菌類は原核細胞という核を持たない細胞からなる単細胞生物です。今回の観察結果からわかることとしては、大きさでしょうか?動画の映像は、同じ倍率で撮影し、デジタル補正などしていないので、細菌類がいかに小さいかがわかると思います。

丸い細胞に毛のようなものが生えているのがわかりますか?これが原生生物です。たぶん

人類の未来?

最後に、シロアリがなぜ注目されているかを説明します。一時期、バイオエタノールが話題になったのを覚えているでしょうか?化石燃料である石油の代わりに植物由来のバイオエタノールを使用することで、地下に眠っている二酸化炭素を地表に放出しなくて済むということで注目されていました。しかし、このバイオエタノールを、ヒトもしくは家畜が食べることのできるトウモロコシなどから作り出したため、競合がおきて問題になりました。この時、ヒトや家畜が食べることのできない植物からバイオエタノールを作り出せば問題なかったのですが、そもそも“ヒトや家畜が利用できない(分解できない)=人工的にも分解できない”となっています。
ここで思い出して欲しいのですが、木は地球上のほとんどの生物が分解できないため、建築資材として利用されています。つまり、木を利用する分には食料との競合が起きないため、石油の代替品として適切です。そして、シロアリには木を分解することのできる共生生物がいることから研究が進められ、その仕組みが解明されています。

参考文献

寄生虫マラソンをやっています。よろしければ、みてください。


この記事が参加している募集

理科がすき

生物がすき

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?