夜景
僕が働いていた会社は、非常階段が喫煙所だった。
タバコを吸いながらよく、夜景を見ていたのだけれど、灯りの一つ一つが、残業の集合体のような気がして、綺麗というより、不思議な感情で見ていた。
『あの窓の一つ一つに、帰りたいのに帰れない人がいるのかもしれない。』
そう思うと、そんな状態の自分が救われるような感覚にもなっていたのだ。
『僕だけじゃない、仲間がいる』
という謎の仲間意識を持たせてくれる夜景が、綺麗とは思わなかったが好きだった。
『どうせ、サービス残業なんだから、何時まで居ても同じだろう』
と、少しふて腐れながら、2本3本とタバコに火をつけ、変わらない夜景を見続ける。
『六本木ヒルズ辺りから見知らぬ男女が見ている夜景に、一役買っているかもしれない。』
そう思うと、少し悔しかったりするが、朝までに仕事を終わらせなければいけないのだから、まあ仕方がない。
でも、出来れば代わって欲しいものだ。
そんな事を考えている間に、一つ、また一つと窓の灯りが消えていく。
『さあ、ここからが夜の始まりだ』
一つ伸びをして、誰もいないオフィスに戻る。
そうやって、僕はまた夜景になるのだ。
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