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【書評】人工知能が俳句を詠む ―AI一茶くんの挑戦―

本書は、北海道大学の教授陣が、俳句を生成する人工知能である「AI一茶くん」を研究・開発し、現在の人工知能がどこまで達成し、なにができていないのかを紐解いた書である。

本書では、人工知能における俳句の意義について、次の通り述べられている。

人工知能の研究にとって俳句を扱う意義はどこにあるのでしょうか。私たちは、単に俳句を生成する人工知能をつくることを目的としているのではなく、最終的には人に交じって人と対等に句会に参加できる人工知能を開発することがゴールと考えています。人と対等に句会に参加するには表面的にうまく振る舞っているように見える「弱い人工知能」ではだめで、本質的に人と対等の知能、つまり「強い人工知能」が必要になると考えています。

この「弱い人工知能」「強い人工知能」というのが、本書のキーワードです。「弱い人工知能」「強い人工知能」の説明について、wikipediaより抜粋する。

コンピュータが強いAIと呼ばれるのは、人間の知能に迫るようになるか、人間の仕事をこなせるようになるか、幅広い知識と何らかの自意識を持つようになったときである。
強いAIとは対照的に、弱いAIは人間がその全認知能力を必要としない程度の問題解決や推論を行うソフトウェアの実装や研究を指す。弱いAIに分類されるソフトウェアの例として、ディープ・ブルーのようなチェスプログラムがある。強いAIとは異なり、弱いAIが自意識を示したり、人間並みの幅広い認知能力を示すことはなく、最先端とされるものでも知能を感じさせることのない単なる特定問題解決器でしかない。

現在広く応用され始めている人工知能の技術はまだ「弱い人工知能」のレベルであり、人のようにものを考え、考え、状況を判断し、意思決定をしているわけではない。

「AI一茶くん」の技術は、まだ「弱い人工知能」のレベルであり、次のメカニズムで俳句を生成している。

一茶くんで俳句を生成する過程は、大きく二つに分けることができます。まず、俳句を構成する単語を一つひとつ選んで順に繋げ、俳句になりそうな単語の並びを生成します。次に、このように生成された単語の並びに対して、有季定型句の条件を満たしているか、意味を成しているかを推定し、条件を満たすものだけを選別します。こうしたことを行うために、一茶くんは言語モデルと呼ばれる人工知能技術を用いています。
一茶くんで俳句を生成する仕組みは、人間が俳句を詠む過程とは大きく異なっています。人間が俳句を詠むときには、何か伝えたい情景などがあり、その情景を限られた言葉の中でうまく伝えられるように選んでいくことが多いのではないでしょうか。一茶くんの言語生成モデルはサイコロを振って単語を選んでいくことを繰り返しており、俳句の中に現れる単語の繋がりを模倣することで、それらしい単語の並びが生成されているに過ぎません。一茶くんで俳句を生成する仕組みのなかには伝えたい情景にあたる情報は存在せず、俳句の題材はサイコロを振ったときにどのような単語が選ばれるのかによって決まるのです。
ひとたび仕組みを知ると、一茶くんが知能を持って俳句をつくりだしていると言うより、アルゴリズムに従って動作することで俳句が生成されていると感じるのではないでしょうか。

上述の通り、人工知能はまだまだ人間と同じレベルで思考したり、創作したりするには至っていない。しかし、本書の結びにもある通り、著者の次のメッセージに、人工知能研究の未来の方向性が示されている。

俳句を通した人と人工知能の相互作用によって、「強い人工知能」の実現の糸口を掴むだけでなく、人の知能そのものへの理解も深めることができると私たちは信じています。

俳句を切り口として人口知能研究の最前線を知ることができる有用な書である。

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