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米国の弱体化を覗わせた、今年の米州首脳会議

2022年6月6日∼10日、第9回目の米州首脳会議(Summit of Americas、略:SOA)が米ロスアンゼルスで開催された。SOAとは元々、米州機構(Organization of American States、略:OAS)加盟国の首脳が集う場ではあるが、これの主役を務めるのはやはり米で、他の国はそれに倣う構図だ。しかし今年、米が主催国を務めた第9回目の会議は一筋縄ではいかなかった。今回は、題名の如く、この状況が何を意味するかについて考えてみたい。

出席率

SOAに普段、米からの圧力の下出席出来たり出来なかったりするキューバを除くOAS加盟国35ヵ国と、非加盟の23地域(デンマーク、仏、蘭、英、米領土)の首脳が出席する(国連等、国際組織、機関もその都度招待される)が、今回の主催国である米は、過去も基本的に除外されるキューバに加え、ベネズエラとニカラグアの首脳も招待しなかった。これを受け、OAS加盟国のメキシコのオブラドール大統領、エルサルバドルのブケレ大統領、ウルグアイのラカジェ・ポー大統領、ホンジュラスのカストロ大統領そしてグアテマラのジャマテイ大統領は今回の会議を欠席した
世間はメキシコのオブラドール大統領が欠席には着目している様だが、それよりも面白いのはエルサルバドルのブケレ大統領の対応だ。同氏はブリンケン国務長官の度重なる電話会談の打診すら断った。一方、ウルグアイのラカジェ・ポーは体調不良を訴えて欠席した。
ところで、今回誘われなかった三か国の内キューバについては説明不要だが、ベネズエラとニカラグアについては少々補足すと、ベネズエラのマドゥロ大統領とニカラグアのオルテガもやはり米から「独裁者」と認定されている。そして偶然にも、この二か国は南米の小国の中でも最も露の関係が深い。ニカラグアに至っては最近、露の軍事基地の配備について合意までしており、共同軍事演習まで実施している程、仲良しだ。
調べれば調べる程面白くなっていくが、簡単に纏めると、OAS加盟35ヵ国の内今回の会議に27ヵ国だけが出席した。

露のプーチン大統領(左)とニカラグアのオルテガ大統領(右)

出席者

出席した国の中では最も注目されていたのは当然ながらブラジルで、「熱帯のトランプ」とも呼ばれる同国のボルソナロ大統領と米バイデン大統領の対面を様々な意味で楽しみにしていた人が多かったであろう。しかし予期せぬところで、迫力満載のパフォーマンスを示す出席者もいた。以下いくつか掻い摘んで紹介したい:
<アルゼンチン>
8分間程度の比較的フレンドリーなスピーチを挙げたアルゼンチンのフェルナンデス大統領だが、実はこれは、視聴者をハラハラさせる内容があらゆる所に地雷の如く埋められていた。例えば❝キューバは冷戦時代に課された封鎖に60年間以上耐えている一方で、今度はベネズエラが、人類を荒廃させるパンデミックが何百万もの命を引きずっている時に、封鎖を強いられている。この様な手段は政府を狙っている筈だが実際には一般国民を苦しめているだけだ❞といった発言は明らかに米の政策批判だ。また❝OASに今後も尊重され、そして設立当初の狙いだった地域政治プラットフォームの地位を保ち続け意思があるなら、速やかに再編され特にリーダー層を入れ替える必要がある❞という発言や❝地域発展銀行の経営はラテンアメリカおよびカリブ海域に速やかに戻さなければならない(注:現在は米のマウリシオ・クラベル・カローネが同行のトップを務める)❞という発言も言うまでもなく、今の秩序の見直しを求める内容だった。
<ベリーズ>
人口が40万人にも至らない、ユカタン半島の付け根の部分に位置するこの小さな国のブリセーニョ首相も、やはり米に歯向かう場面があった。例えば❝(前略)アメリカの全ての国が出席していないことによりこの会議の本来持つべき力が失われたのは許しがたいことだ。現代の重要課題を解決する上で、半球に多いに貢献し、多大なリーダーシップを発揮してきたアメリカの国々を封鎖させることは理解不能だ❞というのは、どう見ても米が三か国を招待しなかったことに対する異議申し立てに外ならない。
<ブラジル>
やはりボルソナロ大統領は裏切らなかった。米バイデン大統領との初対面を目前にして、インタビューに答える際にバイデン氏が本当に米大統領選挙で勝ったことを疑っていると主張:❝アメリカ国民は、選挙不正について話している人々だ。他国の内部事情に触れたくないが、トランプ氏は本当に上手くやっていたと思う❞。

ベリーズのブリセーニョ首相

転換点

では。中南米の大・中・小国は声高々に米を批判したり、招待を拒否したり、電話に出なかったりしていることは何を意味するのか。答えは明白で、題名にもある様に、それは米の弱体化だ。ソ連崩壊からつい最近まで米の裏庭で、ペットの様に使われていたあの中南米が、明らかに米と距離を置き始めている。生き残るために、そしてあわよくば発展するためには世界の中心地となりうるプレイヤーをいち早く察知し、そのプレイヤーに寄ることが必然だと考えているからではないだろうか。つまり、世界の秩序が変わり始め、変わった後は米が今までの影響力を持てないと確信しているからではないだろうか。もっと厄介なのは、秩序が変わってからの世界の中心地となるのは、現在米と敵対関係にある国家だったらどうか。そうすると、今すぐにでも振る舞いを見直す必要があるだろう。この故の米批判のラッシュなのではないだろうか。
 
今日はここまで。

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