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ポーランドがなぜウクライナを分断させたいのか?

ポーランドとウクライナ

ポーランドとウクライナ間関係の歴史は長く酸いも甘いもある。例えば、近代史を見ると、1943年∼1944年のヴォルィーニ大虐殺4万から6万人(たまに10万という数字を出す人もいる)のポーランド人(主に高齢者、女性、子供)を殺害したのは、ステパン・バンデラが率いるウクライナ蜂起軍の組織(OUN-B=Організація українських націоналістів (бандерівський рух 和:ウクライナ・ナショナリスト・組織(バンデラ主義者))だったと、ポーランド人は忘れていないはず。

では、今はどうかと言うと、経済面では、ポーランドはEUから多額の経済支援を受けている。例えば東ポーランドの比較的貧しい地域の復興を目的とした支援だけでも2021年∼2027年の間25億ユーロ享受。しかしこの貧しいと言われているポーランドの東側もウクライナのたいていの地域と比べてまだ生活水準が高い。故にウクライナがEUに加盟すると、この辺の経済支援を少なくともウクライナと分け合わないといけない。場合によっては全部ウクライナにもっていかれてしまう。この辺もポーランド人は良く理解しているはず。ウクライナがEUに加盟すると、より投資しやすい環境ができ、更にポーランドよりも低賃金のウクライナに企業も進出し始める。ポーランドにとって、面白くない話しだ。低賃金と言えば、EU加盟していない今でも、ウクライナからポーランドに出稼ぎに来ている低賃金労働者数は50万から100万人程いる。それに農作物もある。ポーランドはEU域内最大級の農作物供給国なので、もしもウクライナがEUに入ると、望んでもいない強力な競争相手が出来る。これもやはり面白くない話しだ。

現代のポーランド

国防の観点からも、もしもウクライナがNATOに加盟するとなると、今の様な『いざという時』は、ポーランド領から米ミサイルを露に向けて発射することになるし、当然露からのお返しも、外ならぬポーランドに向かって飛んでくる。よって、普通に考えれば、ポーランドはウクライナのNATO加盟を望まないはず。

露特別軍事作戦

しかし、露のウクライナでの特別軍事作戦を開始以来、NATO加盟国の中で軍事関与への意欲を最も強く示しているのはポーランドではないだろうか。核兵器の配備(もちろん米のもの)の妥当性は極め付きだが、それ以外にも、いち早く露の外交官数十名を追放する等、率直に言うと露に喧嘩売っている様にしか見えない。

 先に云っておくおくと、ポーランドはウクライナの仲間となり、『可哀想な』ウクライナ人を助けようとしている様に見えるが、はっきりいうと、ウクライナ人に全く興味が無い。ウクライナの何に興味を持っているかというと、例えば経済面ではウクライナからの低賃金労働者や消費者市場でなく、ソ連時代から残されている工場、航空瓜生分野での知的財産、そして何よりもポーランドがまだ持っていないけど喉から手が出る程欲しい原子力発電の技術。このような事情もあり、ポーランドがウクライナに多大な投資を費やし、ウクライナ人留学生や出稼ぎ労働者を受け入れていることもあり、当然ながら回収を狙っている。

ポーランドがいくら頑張って軍事力を上げても露に敵わないと分かっているので、NATOを巻き込もうとしてるのは一目瞭然。その意味では、特別軍事作戦開始前のウクライナの思惑にも似ている、即ち、NATO(と書いて『米』と読む)がバックにつけば、露と正面衝突しないで済むという目論見だったのだろう。そんな簡単な話しではない様だ。

ポーランドが大国だった時代

ポーランドが欧州規模でそれなりの国力を持っていた時代、現在のウクライナの大部分がポーランド領の一部だった。キエフがポーランドの大都市だった時代があったのだ。歴史とは不思議なもので、先例法の如く、過去出来たことを再びやっていいという印象を持たせてしまう様だ。3度にわたる分割、第1次そして第2次世界大戦の結果によるものなどで、ポーランドは今、フィンランドとイタリアの間ぐらいの国土を持つ『中』規模の国家だ。繰返しになるが、やはり歴史的に持っていた国土を再び戻したい。ましてやそれは鉄鋼も採掘でき、農業にも向くそこそこ広い西ウクライナ(ガリチア地方)なのだから。

露の特別軍事作戦が始まってから、どさくさに紛れて自国が狙うことを成し遂げようとしているに過ぎないが、実はウクライナの西側を再びポーランド領にするために虎視眈々と数年前から動いており、それなりの情報戦も繰り広げている。

『奇妙な』法律

ポーランドの動きが細かくてダイナミックなのでここでは詳細を割愛するとして、今日はここで、一つだけ、数年前に可決されて世間(特に周辺諸国)をざわつかせた法律に触れたい。その名も返還法。平たく言うと、共産主義(ソ連)の政策により国有化された資産を共産主義(ソ連)が入ってくる前の所有者(の子孫・相続者)に返還するという内容の法律。これは元々第2次世界大戦収束直後(1945年∼1948年)に、避難を余儀なくした人の資産をその人(資産の所有者)の子孫・親戚等への相続の簡素化を目的としたもので、放置不動産の返還法から始まっており、ソ連崩壊後は上述の通り、共産党により国営化等された資産の返還という(当初のものと違った)形で再浮上。そして2021年これは刷新され、法人の返還申請期限を30年と設ける旨での文言が加えられた。つまり、共産主義時代に資産をとられている法人や団体はその資産の返還をこれ以降期待できないという意味だ。ま、ユダヤ人が持っていた資産が多く、イスラエルと米からの批判もあったが、それも置いておいて、ここではウクライナにどう関係するかについて少し触れたい。

すごく簡単に言うと、ウクライナの西側(ガリチア地方を中心)に、ポーランド系の人が沢山暮らしている。東側の露系の人たちとは言葉も文化も世界観も違う。今の露の特別軍事作戦の結果、ウクライナという国が存続できなくなると、ポーランドからガリチア等の複数の地方に対し、上述の返還法を盾にしてポーランド併合を提案できる環境ができる可能性があるわけだ。少なくともポーランドはこれに期待を寄せている

ポーランド国営テレビが映した東欧地図。
ウクライナの西側がポーランド、東側が露のものになっている。

露がこれを呑まないだろうと普通に考えられるが、いくらなんでもウクライナの現行政権からしても面白くない話しなのではないか。この動きの結末にも注目したい。

 今日はここまで。


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