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文月 煉
2018年7月14日 23:38
雨が音もなく降る夜は、誰だってセンチメンタルな気分になる。私にとってもそれは例外じゃない。いつだって暗く沈みこんでいる私に、センチメンタルなんていう感情は似つかわしくないかもしれないけれど。 私は部屋のガラス窓を小さく開けて、暗闇に閉ざされた外の世界をのぞき見る。古ぼけた街灯が照らす小さな空間に、雨粒が線を描いていた。目をこらさないと見えない音のない雨は、確かに、この町をじっとりと包んでいた。
2018年7月7日 12:45
夏の日の、金曜日の夜。午後六時といってもまだ闇夜にはならず、空は絵具を溶かしたような鮮やかな紺色だ。 いささか空調の利きすぎた上り電車。帰宅ラッシュとは逆方向だが、鼠色のビジネスマンとは別の客で、車内はごった返していた。 狭い室内に、とりどりの和風な色彩が並ぶ。色の正体は、浴衣の生地だ。競うように着飾った若い女の子(一部の男の子も)が、思い思いの浴衣を身にまとい、慣れない下駄や足袋に歩きにく