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海外での日系企業を取り巻く労働市場を考える

1月30日の「NHKニュース おはよう日本」で、タイでの日系企業離れについて特集されていました。かつて日系企業で働くことがあこがれの的とされてきた東南アジアで、日系企業離れが進んでいる現状について、タイ事情を例に取り上げた内容でした。

同番組で紹介されていた主な内容を一部挙げてみます。

・タイでは、SNSで「日系企業で働いている」とはあげなくなった。日系企業で働いていることを自慢できないから。競合に引き抜かれるなどもあり、若い人が辞めている。

・80年代は、給料の高い日系企業はあこがれの就職先だったが、今はそうでもない。例えば、2019年の部長クラスの平均年収は、日本人1700万円、タイ人2000万円。日系企業の提示する条件は、タイ人の求める水準に未達のものも多い。

・3年前までタイの日系企業に勤めていた人への取材内容:チュラロンコン大学で日本語を学び、日本にも留学した。規律ある日本の文化にひかれて、日本大手自動車メーカーに就職。通訳として交渉の現場に立ち会い、日本語も磨き、キャリアアップを目指した。通訳以外の仕事を経験したいと何度言ってもチャンスが無く、経験年数を理由に昇進もできなかった。キャリアアップができる職場を求めて、米大手石油会社に転職した。

「競争する意欲が低下した。見返りもなく、なぜこんなに努力せねばならないのか自問した」
「どんなに努力しても昇進しないとわかった。日本企業は私の能力ではなく勤務年数を見ていた」
「タイも世界とともに変化していて、新しい世代の考え方も変わっている」
「1つの会社で働きゆっくりとキャリアを積むという考え方はない」

・東南アジアに詳しい人事コンサルタントへの取材内容:タイで日系企業は人材獲得競争に後れをとっている。10%賃上げは日本だとかなりいいが、タイでは周囲にそれ以上の条件のところがある。隣の企業から年収倍のオファーが来ることもある。日本企業は、給与はそこそこでやりがい・理念を大事にするのところが多く、それにフィットする人は残ってほしいが、そういう人も辞め始めているのが一番問題。

チュラロンコン大学は、タイきっての名門大学です。取材を受けていた方は、同大学で日本語も学んで、日本に留学経験もあります。日本企業にとって、これほど有益な人材はないと思います。人事制度のあり方が要因となって離職となるのは、とても残念なことです。

また、(憶測で勝手なことは言えず、全員に当てはまるわけでもありませんが、考え方として)チュラロンコン大学で日本語を学び、日本にも留学し、日本に精通している人材は、米系企業より日系企業のほうが人材としての希少性が高く、相対的に高い付加価値を提供できる環境のはずです。企業側だけでなく、本人にとっても損失ということもありえます。

仕事を通して得られるものはいろいろありますが、以下の4つに絞って考えてみます。

1.金銭的報酬(内部公平性)
2.金銭的報酬(外部公平性)
3.キャリア(自身が志向する)の充足・キャリアに関連した職務能力開発
4.職務満足感

内部公平性とは、成果貢献した人など、その企業内で賃金をもらうべき人が正当にもらえている状態に対して(逆の場合はそうでない)、公平感が感じられることです。外部公平性とは、同じような仕事をしている他の会社や業界の相場と比べて、納得できる賃金をもらえていることに公平感が感じられることです。

普段の仕事でいろいろな企業に関わっていると、外部公平性に対してあまり敏感でない企業を見ることもあります。業界他社同士が合わせる形で賃金相場がだいだい決まっていて、新卒採用後に一定の定期昇給をしていく構造が似ていることも、その要因だと考えられます。加えて、社会全体で長年ベースアップがほとんどない状態で固定されてきたことも関係していそうです。

しかし、外資系企業との競い合いが激しいタイを含めた外国では、企業側も個人の側も賃金の外部公平性に敏感です。日本でも、熊本にTSMCが進出してきて、日本企業で出していないような処遇で募集して話題になるなどのように、状況が変わってきました。ベースアップも日常的なものになり、ベースアップできる幅も企業によって差が出てきています。自社の賃金が外部公平性を保てているかどうか、振り返ってみる必要があると思います。

仕事はお金だけの問題ではないというのは、その通りです。今の会社での仕事が面白ければ、今の仕事より年収が1~2割高い程度で他社が人材を募集していようと、たいした問題にはならないかもしれません(このあたりは、個人差もあります)。

しかし、上記番組で紹介された「隣の企業から年収倍のオファーが来ることもある」のごとく、「同じ仕事をしてくれれば、2倍の給与を出します」とオファーを受けたらどうでしょうか。できれば今の会社で今の仕事を続けたいと思っていても、「2倍なら」ということでオファーに乗る人が多いのではないでしょうか。さらには「今の仕事より多少面白みが下がるとしても、2倍ならそのオファーを受けたい」という人もいると思います。(ここも個人差があると思いますが)

日系企業から他に移りたくなる要因のひとつとして、外部公平性からかけ離れた賃金での処遇になっているかもしれないということが、挙げられると思います。

続きは、次回考えてみます。

<まとめ>
自社で支給している賃金の外部公平性をメンテナンスする。

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