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トヨタは最高益だが

11月5日の日経新聞で、「トヨタ生産、来月最高に 今期純利益11%増、2.4兆円に上方修正」という記事が掲載されました。トヨタという企業組織の依然とした強さと、日本を代表する企業の明るい見通しから景気の明るい展望が感じられるタイトルですが、少し注意して見るべき内容だと思いました。

関連記事と合わせて一部抜粋してみます。

~~トヨタ自動車は半導体不足などの影響で落ち込んだ自動車生産の挽回を急ぐ。11月から前年同月比でプラス水準に引き上げる。12月には月間で過去最高にまで高めて年間で前期比10%増の900万台の生産を計画する。4日、円安や急速な生産回復が寄与することで、2022年3月期の連結純利益(国際会計基準)見通しを前期比11%増の2兆4900億円(従来予想は2兆3000億円)に引き上げた。21年4~9月期の連結決算は、純利益が前年同期比2.4倍の1兆5244億円と過去最高だった。

2021年7~9月期(第2四半期)は純利益が前年同期比33%増の6266億円となり、同期間の最高を更新した。営業利益は48%増の7499億円で、独フォルクスワーゲン(VW)と米ゼネラル・モーターズ(GM)が営業減益となったのに比べると好対照だった。

7~9月期の生産台数は16%減となったが、トヨタの利益が最高益となるのは、円安や金融事業の効果に加え、利幅の大きいSUV比率が高まっていることがある。自動車業界全体で生産が落ち込み、車不足で販売店に支払う奨励金が下がっていることも利益を押し上げた。米オートデータによると、9月時点でトヨタは1台あたり1463ドル(約16万円)と1年前より33%下がり、過去最低の水準だ。トヨタは人気車種が多くホンダ(同1705ドル)や日産自動車(同2156ドル)と比べても少ない。

過去最高の18年3月期純利益(2兆4939億円)に迫る利益(2兆4900億円)を22年3月期に達成するには、計画している年間900万台の生産が前提になる。10月以降は平均すると月間80万台強と、過去最高の20年10~12月を超える水準で工場を半年動かす必要がある。

大手部品メーカーは挽回生産に備える。9月末の棚卸し資産をみると、デンソーは2年前に比べ4割増、アイシンも3割増と異例の高水準だ。「期待に応えることはできる」(デンソー幹部)と自信を示す。トヨタの近健太・最高財務責任者(CFO)は4日の記者会見で「半導体不足で12月、1月では減産するリスクはあるものの、相当高いレベルで生産が回復するのは間違いない」と語った。

ただ全ての供給網が増産に対応できるか、予断を許さない。人手不足が懸念材料だ。ある求人サイトではトヨタグループの期間従業員の求人広告が100件以上掲載されている。「人をすぐ集められるのは大企業。計画についていくのは難しい」(中小部品メーカー)。~~

同記事からは、4つのことを感じました。
ひとつは、7~9月期の増益が、その多くが実質的には、売上増ではなく費用減によってなされたものだという点です。

利益は売上-費用で決まります。さらに、売上は単価×販売数で決まります。「7~9月期の生産台数は16%減(単価は分からないが販売減と言える)となったが、利益が最高益」とあり、内容も「円安や金融事業の効果に加え、利幅の大きいSUV比率が高まっていること」「販売店に支払う奨励金が下がっていること」とあります。SUVの戦略的な売り出しは恒常的な売上押し上げ要因になりますが、他は自動車の売上を伸ばす再現性がありません。

2つ目は、業界全体の現状・先行きが、明るいわけではないということです。「VWとGMが営業減益となったのに比べると好対照」とあります。国内自動車業界市場のデータでは、2021年4~9月の自動車販売台数は約205万台で、1年前の2020年4~9月の約202.7万台を約2.3万台上回っています。トヨタは両期間の比較で約4.5万台のプラスです。ということは、トヨタ以外のメーカーの合計がマイナスということになります。

記事中にある人手不足も含め、供給制約が今後大きく影響してくる可能性があります。これらを手掛かりにすると、今業界で状態がよいのはトヨタだけかもしれません。

3つ目は、円安をどう評価するかです。トヨタは日本で作って輸出で稼ぐ旧来型の工程が残っていてその規模も大きいため、円安の恩恵を受けることができます。しかし、他の企業ではどうでしょうか。ソニーのように、部品などをドル建てで調達している企業は、円高のほうがむしろメリットがあると言われています。そして、生産物を輸出しない国内市場向けの事業で、仕入れを輸入に頼る企業では、円安は減益要因となります。

かつては学校で、「日本は加工貿易立国である。モノを輸入し製品を作って輸出で稼ぐ。」と教わりました。しかしそれは昔の話で、今日本は輸出規模より輸入規模のほうが大きな国です。経済活動トータルで見ると、円安のほうがダメージが大きいのではないかとざっくり考えることができます。

先日の投稿で取り上げたように、日本市場は企業のコスト増を価格転嫁できない風土があります。今後日本と外国の金利差が拡大しさらに円安が進むなどになれば、事業を圧迫される企業が増えてきます。

4つ目は、プロモーション費用に冷静になる必要性です。同記事からも、売上を求めていくうえで販売奨励金というプロモーション費用を積み上げることが、業界全体で常態化していることが伺えます。これらは販売店にとっては売上になるため、両者の共存関係を考えると別に悪いことではありません。そのうえで、売り手のメーカーにとってこれは実質的な値下げになる方法です。「窮地に陥ったら奨励金というカンフル剤の連発、カンフル剤の際限ない膨張」などはあるべき姿とは言えないでしょう。トヨタはこのあたりもマネジメントできていると言えそうです。

上記から自社に応用できることとしては、記事タイトルとは逆に当面の景気に慎重な見方をした事業活動を検討する、お客さまが求めている商品に絞り込む、経費のあり方について改めて検討する、などが挙げられると思います。また、例えば為替予約などで為替レートのリスクヘッジをかけておくことも、企業によっては有力な取り組みになるでしょう。

<まとめ>
1社の状態が業界全体の状態とは限らない。


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