在来線グリーン車を考える
10月19日の日経新聞で、「中央線グリーン車 披露 JR東、来年度末以降に導入」というタイトルの記事が掲載されました。私も在来線のグリーン車は、よい環境でいろいろな作業ができるため、重宝してよく利用します。グリーン車のある列車で30分以上連続して乗車する時には、ほぼグリーン車を使っている気がします。
同記事の一部を抜粋してみます。
中央線も時々乗る機会がありますが、乗車時間が長い人が多く、グリーン車のニーズは高いのではないかと思われます。
中央線で1日にどれぐらいの本数の列車がグリーン車付きになるのか興味を持って調べてみたのですが、それらしい情報にはヒットしませんでした。1日に運行本数がどれぐらいあるのかの情報もぱっと出てこなかったので、生成AIに聞いてみました。以下が生成AIの回答です。
これらの列車のうち、どれぐらいの割合がグリーン車設置の対象なのかは分かりませんが、仮に東京~大月間の239本の列車で設置され、グリーン券のうち最低料金の780円で定員180席の半数90席が埋まるとすると、収益は次の通りとなります。
780円×90席×239本=16,777,800円/1日
新型車両にするための初期投資は必要となるはずですが、車両は一定年数経つと使えなくなるものです(電車の減価償却期間は13年)。世代交代を迎えている車両なら新型に入れ替える必要がありますので、どっちみち必要な投資であれば初期投資はほとんどないと言ってもよいかもしれません。
また、グリーン車ができることで、その日に中央線を利用しようとしていた行動計画を変える人もいないでしょう。これらのことを勘案すると、上記の1日あたり約1,680万円はそのまま新たな利益となります。
1年間だと16,777,800円×365日=6,123,897,000円、約61億2,400万円の利益上乗せです。こんなにうまくいかないかもしれませんが、グリーン車によってそれなりの利益が上乗せ可能ではないかと想像できます。
JR東日本の2023年3月決算(2022年4月~2023年3月が対象)の連結営業利益は140,628百万円です。この利益を生み出すセグメント別の内訳は、以下のようになっています。以下に調整額を加味して140,628百万円です。運輸事業だけだと約241億万円の赤字というわけです。
・運輸事業△24,097百万円
・流通・サービス事業35,281百万円
・不動産・ホテル事業111,577百万円
・クレジットカード事業等のその他事業17,222百万円
2018年3月末決算(2017年4月~2018年3月)では、運輸事業のセグメント利益は約3,400億円の黒字となっていました。その後コロナ禍に突入し、コロナ禍の影響を受けていた2022年3月末決算(2021年4月~2022年3月)では、運輸事業のセグメント利益は約2,853億円の赤字となっています。そこから回復し、コロナ禍の影響もだいぶん収束してきているものの、まだ赤字を脱しきれていないというのが現状のようです。
今後インバウンド需要などもさらに増えることを考慮すると、運輸事業単独でも黒字回復は見えてきていると言えますが、コロナ禍をきっかけに「移動」の概念も変わったこれからで、コロナ禍前のような利益水準にまで戻るのかは不明です。
グリーン車は中央線に限らず、東海道線などでも既に導入されています。それらも加味したグリーン車の利用料をすべて合算すると、上記から想像すると結構な金額になりそうです。もしかしたら、「運輸事業がなんとか黒字になっているのは、グリーン車が利益を上乗せしてくれているから」という状況も今後あり得るかもしれません。
人口減少という大きな環境変化を抱える中で運輸事業をどうしていくか。この大きな課題に対して、グリーン車の導入というのはあまりに小さい、目の前の戦術レベルの話に過ぎません。これをもって抜本的な事業の改革に位置付けるのは無理です。そのうえで、できる戦術を探して横展開することの大切さも、同記事からは感じます。
質の高い空間で安定した移動ができることに対して、利用者は喜んで780円を払います。そのお金を払いたくない人は使わないだけですので、お客さまに対しては害のないプラスの付加価値を生む取り組みです。会社側としても、年間数十億円もの利益を生むことはプラスです。
売り手・買い手の双方にプラスとなること、それもすぐできること、そうした戦術は積極的に行うべきだと思います。そうした利益の蓄積で地力を高めながら、戦略レベルの大きな課題解決に臨む。そのような取り組みが大切だということを、考えた次第です。
<まとめ>
大きな戦略もさることながら、すぐできる戦術、売り手・買い手の双方にプラスとなることも大切にする。
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