見出し画像

年齢を直接聞くという慣習

各社を訪問したりやりとりをしたりしている中で、外国人従業員の話題になることが増えている印象です。外国人雇用のテーマについては、これまでにも投稿で時々取り上げてきました。外国と比較しても全体に占める割合はまだ限定的とはいえ、着実に増え続けています。

目立つのが、ベトナムです。財務省がまとめた国際収支関連統計によると、2019年と2023年の比較で、日本企業による投資が最も増えたアジアの国・地域は、トップはシンガポールの3.3倍。2位がベトナムの2.1倍、3位がインド91%増となっています。減少は、インドネシア、韓国、中国、香港など。

国内の人口・経済規模も相応の大きさで、サプライチェーン見直しの動きなども加わって、投資の対象としてのベトナムの存在感は、当面大きい状態が続いていきそうです。外国人労働者の中でも、ベトナムからの来日が最大勢力となっています。

旅コラムを掲載する「TRIP EDITOR」のサイトの2月24日記事「なぜ日本人は年齢を聞かないのか?ベトナム人が不安に思う日本への印象」が目にとまりました。

同記事の一部を抜粋してみます。

ベトナム取材中に出会ったベトナム人に、「日本と日本人をどのように思うか」を会う人会う人に片っ端から聞いてみました。とはいえ、サンプル数の少ない、偏った意見になっている可能性もあるので、その辺を頭に入れながら話半分で読んでみてくださいね。

どうして初対面なのに年齢を隠すの?

日本人は初対面の人と話す時、お互いの年齢を直球では絶対に聞きません(よね?)。 

欧米諸国のように、年齢を気にしないから聞かないのではなく、年齢を気にしすぎているからかえって聞けないみたいな状況でしょうか。特に、異性(女性)に対して年齢を質問する行為はなかなかハードルが高いはずです。

一方で、ベトナム人は、年齢に関する質問を早々に直球でします。日本では、考えられないと思いますが、年齢を聞かないと逆に失礼にあたるのだとか。

その理由は、年齢の上下によって相手の呼び方が変わるからです。「〇〇さん」のような便利な言葉がベトナム語にはなく、人称代名詞が年齢の上下・性別で毎回変わるため、相手の年齢を知らないと相手を呼べなくなってしまうそう。

明らかに見た目で、年齢の違いがはっきり分かる場合は別ですが、微妙な感じの時は必ず聞くみたいです。現に筆者もベトナム取材中に、同年齢ぐらいの女性にインタビューしていて、ほどなく年齢を聞かれました。

それまでは、なんだかビジネスライクだった応対も、私の方が何歳か上だと分かると急にリラックスして「私のお兄さん」と親し気な雰囲気に切り替わりました。年齢が分からずに、困っていたのかもしれませんね。

私も限られたサンプル数ではありますが、これまでベトナム人と関わってきた経験からは、上記のことが当てはまります。初対面で年齢をすぐに聞かれます

例えば、自分と年齢の離れた年上の男性の人と、1対1で話す場面があるとします。日本人同士の場合、面と向かって話すのであれば「○○さんは~」と相手の名字+さん付け呼びで会話を進めていくのが一般的です。一方で、ベトナム人の会話では人称代名詞を状況・相手に応じて使い分けるのが一般的です。それも、例えば自分の父親の年齢を起点にして人称代名詞を使い分けるという複雑さです。

自分が30歳の男性で自分の父親が60歳の場合、目の前にいる男性が61才ならbác○○(相手の名前)、60歳や59歳ならchú○○、といった具合に変わります。相手が自分の父親より年上か年下かで、呼び方が変わるわけです。相手が女性の場合は、61才ならbác、60歳や59歳ならcôです。相手が31歳の男性(自分よりやや年上)ならanh、29歳の男性(自分よりやや年下)ならemとなります。

日本の学校で、性別による呼び分けをしない動きが広がっています。うちの子供が通う小学校でも、教師は生徒に対して性別に関係なく「さん付け呼び」しています。日本の職場で、目下のメンバーや部下を呼ぶときに、相手が男性なら「君付け」で、女性が相手なら「さん付け」で呼ぶ上司やベテラン社員がいますが、何十年後かにはその使い分けは絶滅してすべて「さん付け呼び」で統一されているかもしれません。しかし、ベトナム語ではそうはいかず、年齢を絡めて呼び方を使い分ける必要があるわけです。

その代わり、ベトナム語には相手によって動詞を使い分けて敬意の程度を変えるという仕組みがありません。「だ・である」「です」「ございます」といった使い分けがない代わりに、人称代名詞の使い分けで敬意の程度の大部分を表現することになります。よって、年齢を尋ねることが会話成立に欠かせないため、同記事のように初対面でも相手の年齢を尋ねる必要があります。

社会の価値観や成り立ちが言語をつくるのか、言語が社会をつくるのかは、鶏と卵の側面がありますが、いずれにしても両者は連動しています。ベトナムでは、年長者を敬う価値観が社会全体で浸透しています。このことは、企業内においても同じです。

知人のベトナム人に、典型的なベトナム企業での人に関する営みについて聞いてみたところ、次の通りでした。(もちろん、各社で事情が様々です。サンプル数1による下記が絶対ではなく、ありがちな景色だよねというイメージの前提です)

・年下の従業員は、自分や相手の立場に関係なく、年上の従業員を敬う姿勢を言動で示さなければならない。

・しかしながら、年功序列という考え方はない。あくまでも実績・能力による是々非々で役職や社内的地位、処遇は決まる。年齢は直接処遇にひきずらない。年下の上司は年上の部下に対して配慮はしながらも、上司の権限で毅然と指示命令はできる。年下の部下は職位が異なる以上、それに従わなければならない。

・労働者保護の価値観が強いため、解雇という概念・やり方はあまり一般的ではない。実績・能力を伸ばせない者でも、そのまま職場にとどまることはできる。ただし、その場合は給与も上がらず、実績・能力を伸ばす者と処遇がどんどん逆転していく。よって、成果を出せない場合は転職することが多い。

・定年制がある(パーソル総合研究所サイトを参照:旧労働法における定年年齢は、男性60歳、女性55歳であったが、改正労働法においては、定年年齢は段階的に引き上げられていき、男性62歳(2028年まで毎年3カ月ずつ上昇させる)、女性60歳(2035年まで毎年4カ月ずつ上昇させる)。そのうえで、実績・能力・意欲のある者は、定年の年齢を過ぎても就業を続けることもある。

上記からは、年上の人に対するリスペクトと、マネジメントライン上の統制、実績・能力見合いの処遇を共存させようとしている印象を受けます。

欧米のように「年齢は仕事と無関係、だから定年制という発想も仕組みない」という社会と比べると、年齢への一定の配慮や終身雇用的な慣習など、日本と共通項が多いのではないかと感じられます。そのうえで、是々非々の人事や指揮命令系統の整理など、合理的な側面を持ち合わせていることが伺えます。参考になる点がありそうな気配がします。

以前からある年功序列に基づいた処遇を変えたいと考えている日本企業は多くあります。とはいえ、いきなり年功的な要素の完全撤廃や、定年制の廃止などをするのが難しい環境も多いでしょう。私自身ベトナムや外資の専門家でもなく、まだまだ勉強が必要ですが、ベトナムを含めたアジアの企業統治について理解を深めることで、現状打開のヒントが見えやすくなるかもしれません。

また、日本企業で就業中のベトナム人の中には、お互いが年齢をはっきり知らないこと、自分に年齢を尋ねてこないことに違和感をもっている人もいるかもしれません。相手の年齢を直接的に尋ねる慣習がないということを、就業初期の段階で伝えておくと便利かもしれないと思います。

<まとめ>
年上の人に対するリスペクトと、毅然とした指示命令とは、矛盾しない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?