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アルムナイ(卒業生)採用を考える

1月24日の日経新聞で「人手不足 元従業員と解決 ペイメントテクノロジー 離職バイト、店とつなぐ ハッカズーク 交流サイト運営を支援」というタイトルの記事が掲載されました。元従業員と元勤務先だった会社をつなぐという考え方、手法が広がっていることを取り上げたものです。

同記事の一部を抜粋してみます。

離職者を対象とする「アルムナイ(卒業生)採用」と呼ばれる手法が広がってきた。Payment Technology(ペイメントテクノロジー、東京・文京)は2月、アルバイト探しを効率化するアプリを投入する。過去に働いた離職者に1日単位で求人を送り、給与の支払いまで完結できるようにする。人手不足に悩む企業をスタートアップが支える。

ペイメントテクノロジーのアプリは、まず利用企業が離職したアルバイトにダウンロードを呼び掛ける。同意した相手とやり取りする仕組みだ。
日雇いのアルバイトを必要とする店舗が出た際は、登録者に求人を送ることができる。働き手側は経験のある業務をアプリに登録しておく。初めて出勤する店舗でも仕事のミスマッチを防ぎ、マニュアルを覚える手間などを省く。

ペイメントテクノロジーは2016年設立。給与のデジタル払いに使うシステムなどを手掛けてきた。相乗効果を発揮できる事業として、アルバイトの短期雇用の効率化に着目した。独自に聞き取り調査したところ、大手のスーパーや引っ越し会社などで経験者を再雇用する需要を確認できたという。

アルムナイ採用は海外企業では一般的な手法だ。離職者とのつながりを重視しない傾向が強かった日本でも20年ごろから広がり始めた。スキルと経験を持つ即戦力人材を獲得できるとして、アルムナイ採用を導入する企業が増えている。社外の新しい知識や価値観を取り入れられるといった利点もある。

アルムナイとのつながりが効果をあげている企業も多い。リクルートが人事担当約2700人から集計した23年調査によると、ネットワークを構築している企業では人員の採用が「十分できている」「ある程度できている」とする回答は計43%に上った。構築していない企業を13ポイント近く上回る。

需要の高まりを受け、関連サービスを手掛けるスタートアップが存在感を高めている。代表格がアルムナイとの交流サイトの開設・運営を支援するハッカズーク(東京・新宿)だ。23年にはトヨタ自動車や日清食品グループ、三菱UFJ銀行などのサイト立ち上げを支えた。

離職者の要望などを聞き取るほか、サイトへの投稿内容の作成を支援する。採用だけでなく、アルムナイとの情報交換や取引を希望する企業も多い。このため、ハッカズークの鈴木仁志最高経営責任者(CEO)は「企業ごとにコミュニティーを細かくカスタマイズすることが重要だ」と強調する。

同日付の記事「コスメ人材、復職しやすく」では、出産などで退職した社員の復職制度を導入するコーセーの取り組みなども紹介されていました。

ずいぶん前になりますが、ある企業の常務役員からお聞きした話が印象に残っていて、覚えています。同社に4~5年勤めた元社員で、優秀なパフォーマンスで貢献した後、別の企業に転職した人材が、その数年後に元の会社の採用試験に臨みました。いろいろ経験もして考えて、「元の会社もよかった。今なら当時できなかったことでも貢献できると思う」と考えて、元の会社への出戻りキャリアチェンジを望んだようです。

最終面接まで進み、社長を含めた他の役員は全員歓迎の中、同常務が「自ら退職した人間は、組織として採るべきではない」と強く反対して、破談になったという話です。

当時私は、一度退出した人材を裏切り者のように拒否する話に違和感を覚えましたが、それが社会で主流の価値観なのかな、と思っていました。同記事も参照すると、環境変化もあって離職に対する考え方もずいぶん変わってきたのだろうと感じます。

同記事を参考に、アルムナイ採用について、3つのことを考えました。ひとつは、生産性向上につながる有力な人材調達手段だということです。

働いたことのある会社でまた働きたい・働いてよい意思があるということは、その会社のことを内情を理解した上で好意的にとらえているということです。よって、再度離反するというリスクは一般的には低いと考えられます。採用側としては、離職リスクの低い人材を採ることができます

また、以前在籍していたことで、その会社で必要な知識や仕事のやり方にもある程度通じています。採用側としては、初期の教育コストを減らすことができます

一口に例えば「営業」といっても、いろいろです。同業種で同じような商品・サービスを扱う営業であっても、会社によって営業に対する価値観・考え方、社風もいろいろで、営業のやり方も違います。同じ能力スペックの人材が、同業種の営業であっても、ある会社ではスタープレイヤーの業績を残し、別の会社ではまったく成果を出せず行き詰まる、ということはあるものです。

内情を知っている人が意欲高く就業を希望するならば、生産性の観点からもたいへんよいマッチングの可能性がある候補と言えます。これからの労働市場の環境を考えても、アルムナイ採用はより積極的に活用していく余地があると考えます。

2つ目は、離職者に対して会社・残る従業員側の適切な対応が求められるということです。

当然ながら、不遇な扱いを受けた会社に対して、再度就業の申し入れをしたいとは思いません。退職の申し入れをしたとたん、裏切り者のような扱いをしたり冷遇したりするようなことなく、長期的な視点に立って、いい印象をもって去っていただく必要があります。

また、退職の申し入れをしてくるまでに不当な扱いをしてしまっていたら、そもそもアルムナイ採用も何もありません。これまで以上に、一人ひとりの人材を貴重な存在だと捉えた対応が求められます

3つ目は、離職者の側も、会社・残る従業員に適切な対応をするべきということです。

長いキャリアの中では、どんなことが起こるか、何がどのように変わるかはわかりません。元いた会社で再度就業したいと望むことになったとして、前回の離職時の去り際や、離職までの働きぶりによい印象のない人材は、そもそも声がかかりづらくなります

また、元いた会社の就業でなくても、別の会社や個人で仕事をするうえでも、よい印象とならないような事象はネックになりかねません。

近年、リファレンスチェックという言葉も少しずつ聞くようになりました。リファレンスチェックとは、前職の様子を知る人に、本人の様子を確認することです。

中途採用の選考にあたって、前職や現職で採用候補者と一緒に働いた第三者を探してお願いし、話を聞くなどして、書類や面接ではわからない勤務実態の情報を得ることを指します。候補者の能力、実績、在籍期間、人となりなどの情報を第三者から得ることで、採用の確度を高めることが主な目的です。

米国企業などでは、中途採用時には相当なリファレンスチェックをやっていると聞いたことがあります。日本企業ではまだそこまで一般的ではないですが、日本でも外資系企業ではある程度行われていると聞きます。退職時に、その会社での不満や、自分の権利ばかり主張して適切な対応を欠いた去り方をしてしまうと、長いキャリアの中ではマイナスとなりかねません。

企業側も個人の側も、改めて相互協力の視点のもとで、良い関係づくりに努めていくことが大切なのだと思います。

<まとめ>
アルムナイ採用を広げるには、労使双方の一層の行動変容が必要。


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