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「男の料理、女の料理」 ~樋口直哉さん(料理研究家)×有賀薫さん(スープ作家)対談イベントレポート~

3/31「男の料理、女の料理」と題したトークイベントがHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGEで行われた。「スープ・レッスン」のレシピをよく参考にさせていただいている有賀薫さんと先日、田村浩二さんとのトークイベントで知った樋口直哉さんの対談イベントということで興味があった。日曜日の夕方ということもあり、私はだんなを誘って夫婦で参加してきた。

理系の料理、文系の料理

当初、「最高の定番を作る」というタイトル案が、ピースオブケイクスの加藤さんによって「新しい料理の教科書」と名付けられた、定番の当たり前を見直す樋口さんの料理本。その発売記念トークイベントだ。

「俺のレシピ」という独自性、作家性を排し、オリジナルレシピではなく「名前のある料理」の新しい作り方を解説している、という樋口さん。開いてみると確かに、文字が多い。レシピにたどり着く前にまず、調理の新常識が解説される、というまさに「教科書」の体裁だ。

「料理は、レシピ本通り作らなくていい、原理原則を知ってほしい、なぜそうするのか?考え方がわかれば、料理は作れるようになる」という樋口さん。

イベント前に、本を買わせていただき、イベント後サインをいただいておいてなんだが、正直、まだ読んでない!(笑)これは、後日ツイートしたが、私は「理屈はいいからレシピがわかればいい」という発想で、なんでそうなるのかとかは正直どうでもいい所があった。

イベント後、だんなが「男の料理、女の料理」というより、「理系の料理、文系の料理」じゃない?と言っていたのだが、それが、樋口さんの「最高のおにぎりの作り方」という記事を読んで、腑に落ちた。適切な塩分量を測りながら比較検討し、結論付けるという論文的考察が、理系だな、と思ったのだ。

ロジカルな料理、フィジカルな料理

そんなロジカルな作り方を好む樋口さんに対し、有賀さんは「感覚で作る」というフィジカルな料理。作りながら、これを合せてみよう、これが余ってるから使おうと手で考えながら作り、後でレシピに当てはめる、という。

田村さんも、前に行ったイベントで、「基本的には自分で作る料理は計量しない。シェフをしていた時も、後輩に教えることがない料理は計量していなかった」と言っていたが、実際「人生最高!の肉じゃが」に出てくるレシピは、撮影の時に全て計量したといっていた。レシピ本と言えば分量が書かれているので、プロの方は量りながら作っているのだと思っていたので、新鮮な話だった。

料理の世界は「宝塚」 ~あこがれと共感の狭間で~

これまで料理の世界は、女性の世界で、それを「宝塚」に例えて、大きく分けると料理家にも「男役」「娘役」がいる、と説明されていたのは面白かった。

「揚げ物はエクストラバージンオリーブオイルで!」といった男性的で、インテリが好むスタイリッシュな有元葉子さんはいわば男役。

一方、日々の暮らしの中にある親しみやすい料理を紹介している、栗原はるみさん、山本ゆりさん、小林カツ代さんなどは娘役。

仕事と家庭の両立に追われている女性たちは、男役に対するあこがれと、娘役に対する共感、その狭間で揺れ動いている。

しかし、昨今男性も家庭の台所に入るようになり「考え方」から入る本が増えてきた、という。

何事も決断の種類が増えると大変になる。料理は、味つけ、素材選び、組み合わせ、買物、管理(捨てるか否か)と、とにかく決断すべきことが多い。人間の決断の量にはキャパがある。原理原則を知っていると決断の回数を減らせることから、「考え方」を伝える本が多くなってきているのかもしれない、とのこと。

味覚は、必要性によって作られる?

また、男女の味覚の違いについての話も興味深かった。女性に比べ、男性はしょっぱめが好きな生き物。なぜかケチャップが好きで、ナポリタンに目がない。これは、男性はわからないことに腹が立つため。わかりやすい味を好むということかもしれない、と樋口さん。

一方、女性は五味を感じとりやすい生き物。実際、炊飯器メーカーのテイスティングは女性がやっていることが多いそう。昔から子供を育てるため、食べ物の危険性を判断する毒見的役割が女性に課されており、そのため女性の味覚の方が優れているのではないか、とのこと。

また、生き物は、生きるために必要な栄養素をとるため、感じる味が違うという。猫は甘みを感じないが、犬は甘みを感じる。それは、犬は走るために炭水化物が必要で、だから甘みを欲するようにできているという。当たり前かもしれないが、目から鱗だった。

実際、炭水化物を食べないと力が出ない。だから、食べたくなるよう、甘い物を欲するようにできているのだとしたら、結果的に、人工的に作られた甘味に味をしめ、無限に広がるカロリー地獄と付き合うことになってしまったのは、人間の幸か不幸か、などと考えてしまった。

男性はパティシエ、料理人に向いている?

また、料理のプロは男性の方が多いという。細かい、繊細な仕事には男性の方が向いているのでは?と樋口さんは言っていた。そして、現状では、家庭料理をするのは女性が圧倒的に多い。

イベント後、だんなと話したり、考えたりする中で、料理という作業に性別による向き不向きがあるのではなく「誰に向けて作るのか」という料理の目的の違いに性別による好みの違いがあるのではないか、と考えた。

有賀さんも、普段家庭向けに料理を作っているため、イベント用にたくさん作るのは難しいと言っていた。10人前、20人前、50人前、100人前の壁がある、と。

それを受けて樋口さんは、たくさん作るためのプロのキッチンのノウハウがある、と言っていた。

家庭で家族のために作る料理と、プロとして不特定多数のために作る料理とでは、必要なスキルが違う。身近な人を喜ばせるため、家族の健康を支えるための料理に女性の方が喜びを感じやすく、より多くの人においしい料理を届けることに男性の方が喜びを感じやすい、ということなのではないか、と思った。

小さな料理、大きな料理

けれど、女性が社会進出し、料理を仕事にする女性も増え、また反対に、男性も仕事と家庭の両立をしなくてはならない時代に突入し、男女の役割分担が過渡期にある今、料理の向き不向きはもはや男女差ではなく、個体差になっていくのではないかと思う。

家族に対して「小さな料理」を作り、生活の基盤を作ること、社会に対して「大きな料理」を作り、新しい価値を作ること、自分はどちらに喜びを感じるのか。

後日、樋口さんはツイートで「僕は作り方を共有したいのかも知れません」と言っていた。私は、料理で家族の健康と笑顔を作りたい。

家庭料理をアップデートする

私が最近行った料理のトークイベントでは、どの方にも「家庭料理をアップデートしたい」という想いがあったように思う。

こうしてSNSや本やイベントで、料理のプロの方々が、いろんな知見をシェアしてくれるから、私の料理ライフも改善されてきた。

この一億総SNS社会で、私も少しは誰かの家庭料理のアップデートにつながるような発信ができればいいなあ、と少し考え方が変わった。そんな風にみんなで知見をシェアし合えれば、家庭の料理は、ひいては日々の暮らしはもっと進化していけるのかもしれない。

そして、それは仕事のアップデートよりも、長い人生に置いて、価値があることかもしれない。

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