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長期経営計画のすすめ Ⅰ.方針_2.期間・更新を決める


①長期とは何年なのか?

はじめに多くの企業が策定している中期経営計画の期間を確認してみます。2021年に発表された論文「中期経営計画の特性と目標達成」において下記の記載がありました。

日経225企業において、中期経営計画の公表企業は182社(80.9%)であり、先行研究とおおむね同様の公表率であった。また、中期経営計画の対象期間は、「3年」が139社と最も多く、「4年」が16社、「5年」が23社、「6年以上」が4社であった。

吉田栄介, 藤田志保, and 岩澤佳太. "中期経営計画の特性と目標達成." 三田商学研究 64.4 (2021).

やはり中期経営計画は一般的なイメージの3年間が最も多く、公表企業の約 76%にあたります。

では長期経営計画はどうでしょうか。いくつかの論文を確認しましたが、上記の中期経営計画ような調査結果は見つけられませんでした。長期経営計画の策定自体が少ないことが影響していると思われます。中期経営計画の多くが3年間ということならば、下限は4年ということになり、上限は私の経験では10年が目処になると考えます。

そこで実務的に策定期間を決める判断基準はどうなるのでしょうか。私は3つあると考えます。

一つ目は事業特性です。私は『長期経営計画とは、わが社が長期的に実現したい未来、およびその時の事業構成を明らかにし、それを実現するための計画である』と定義しました。よって事業構成を変化させることが長期経営計画において重要になります。既存事業でのさらなる成長、既存事業の周辺での新規事業の立ち上げ、新たな市場での新規事業の立ち上げ、また想定しづらいですがM&Aの実行を含め、自社の事業領域において事業構成を変化させていくにはどれくらいの年月が必要になるのか、それをイメージして決定します。

二つ目は西暦の区切りです。2020年に入ってから公表されている長期経営計画は2030年まで策定している企業が多く見られます。●●(会社名)2030と銘打って策定プロジェクトを立ち上げ発表しています。根拠に乏しい感じもしますが「2030年にはこんな企業になっているぞ!」というのはわかりやすい旗印になります。

三つ目は社長の任期です。長期的に実現したい未来を描いた責任者である社長は、自らの任期の中で達成したいと願うケースが多いでしょう。また今回策定した長期経営計画の終了時に社長交代することを想定し、その期間の中でどのように候補者を絞り、どのように後継者を育成していくのかという計画を長期経営計画に組み込むことを踏まえて期間を決めていきます。

これらの3つの判断基準を踏まえながら、総合的に策定期間を決定することをおすすめします。


②中計との関連性は?

ここでは仮に、2024.4-2031.3の間の7年間の計画を策定すると想定します。2024.4-2027.3の3年間を中期経営計画、2027.4-2031.3の4年間を長期経営計画と位置付けます。中期と長期は一体として策定していき、まずは長期経営計画から検討するバックキャスティングで進めていきます。長期経営計画で長期での企業戦略を策定し、その上で中期での事業戦略を策定し統合していくイメージなります。計画策定のイメージが掴みやすいように、策定項目を羅列し記述します。

主な長期経営計画としての策定項目は以下となります。

  • ビジョン・ミッション・バリュー

  • ビジョンを実現する事業ポートフォリオ

  • 事業ポートフォリオを実現する成長戦略

  • 長期財務・投資・要員計画

  • ロードマップ

主な中期経営計画としての策定項目は以下となります。

  • 全社 中期財務・投資・要員計画

  • 各事業 事業戦略
    L 事業別ミッション・バリュー
    L 事業領域、製品ポートフォリオ
    L 製品ポートフォリオを実現する成長戦略
    L 中期損益・投資・要員計画
    L ロードマップ


③更新方法は?

計画の更新方法には、固定方式、修正方式、ローリング方式の3つがあります。固定方式は一度策定したら更新しない方法、修正方式は必要に応じて修正する方法、ローリング方式は毎年修正する方法です。

上場企業が外部に公開している長期経営計画では、特に財務計画が株価に与える影響があることもあり、順調に推移している場合は期間中更新せずに、計画を下回ることが予測される際に修正することがあります。私は外部公開の目的を除いては、特に未公開企業においてはローリング方式をお勧めします

長期の外部環境を予測し長期的な計画を立てれば、1年で見直す必要はあるのか?という疑問に思うかもしれません。私の実務経験からも大きな方向性が毎年毎年変わることはありません。しかしながら1年間という期間の中で新たな情報の入手や気づきがあり、今の長期計画をもっとこうした方が良い計画になると考えることは当然あります。また考えが及んでなかった部分があることに気づき、追加しようと思うこともあります。

長期経営計画および中期経営計画は毎年毎年ローリング方式で更新していき、計画が実現した時のイメージをどんどん明確化することで、計画実現に近づいていくでしょう。

最後に毎年のローリングの際に最終年度も1年ずつ伸ばしていくかどうかです。私のこれまでの経験では毎年1年ずつ伸ばしていくことはありませんでした。先ほど記述した策定期間を決める3つの判断基準を踏まえて、既存の長期経営計画が5年間を切りそうなタイミングで最終年度をあらためて設定するのが良いと思います。


今回は以上となります。次回は長期経営計画を策定する体制について書くつもりです。


【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める ←今回
3. 体制を決める    ←次回

4. スケジュールを決める
5. アウトラインを決める
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略
1. 現状のビジョン・ミッション・バリューを確認する
2. 過去の全社業績を分析する
3. 現在の事業ポートフォリオを可視化する
4. 経営資源を可視化する
5. メガトレンドを調査する
6. 今後のビジョン・ミッション・バリューを決める
7. 企業ドメインを決める
8. 目指す事業ポートフォリオを決める
9. 成長戦略を決める
10. 新規事業・M&A戦略を決める
11. 一次業績計画を策定する
12. 一次投資枠を設定する
13. 全社一次要員計画を策定する
14. TOPマネジメントを決定する
15. 企業戦略を事業戦略に展開する
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅲ 事業戦略
1. 過去の事業業績を分析する
2. 現在の製品ポートフォリオを可視化する
3. 外部環境を分析する
4. 企業戦略を理解する
5. ミッション・バリューの見直しを検討する
6. 事業ドメインを決める
7. 目指す製品ポートフォリオを決める
8. 成長戦略を決める
9. 売上計画を精緻化する
10. 要員計画を精緻化する
11. 投資計画を精緻化する
12. 損益計画を精緻化する
13. ロードマップ・KPIを決める
14. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 計画完成
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
Column 社員がワクワクする長期経営計画

最後に私の著書と副業で経営している会社の紹介をさせてください。



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