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長期経営計画のすすめ Ⅱ.企業戦略_2.事業構成を分析する



①事業ポートフォリオ分析とは何か?

事業構成の分析といえばプロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM)をイメージする方が多いと思います。中でもよく知られているのはボストンコンサルティンググループ (BCG)が開発したBCGマトリクスです。相対的な市場シェアと業界の成長率を使用したフレームワークであり、各プロダクトをプロットし、「花形」「金のなる木」「問題児」「負け犬」の4象限に分類することで全体像を把握し、経営資源の分配に役立てることができます。(とてもわかりやすいwebサイトを紹介します)

BCGマトリクスは「市場TOP企業との相対的市場シェア」と「業界の成長率」の2軸ですが、この軸を変更することで多様な分析ができます。長期経営計画策定においては事業を対象として分析する必要があり、次の2つのパターンでの分析をお勧めします。

1つ目のパターンは「事業の売上成長率」 × 「事業の利益率」です。「事業の売上成長率」は過去3年間の年平均成長率(CAGR)が望ましいですが、事業特性に合わせて5年に伸ばしたり昨年対比でもいいでしょう。「事業の利益率」は事業ごとに営業利益まで算出していれば営業利益率が望ましいですが、算出が困難であれば限界利益率や粗利率でもいいでしょう。バブルチャートを用いて、大きさを売上額バージョンと利益額バージョンを作成することで全社における各事業の成長性や収益性、金額による貢献度合いを俯瞰して把握することができます。

ただし、この分析には大きく2つの欠けている点があります。1つ目は市場成長がわからないことです。確かに自社の事業は伸びているが、市場自体は伸びてないので、近いうちに競争が激化し成長が止まるのではないかという懸念です。2つ目は競合との関係性がわからないことです。市場における競合の市場占有率(シェア)が高く、競合のシェアがより高まると自社の成長性や収益性が低下するのではないかという懸念です。これらの懸念を解消するために2つ目のパターンを作成します。

2つ目のパターンは「市場成長率」 × 「市場占有率(シェア)」です。市場データは事業ごとに政府統計や業界団体から入手したり、調査会社からレポートを購入することになります。昨年度の市場規模とこれまでのCAGR、また長期経営計画の観点から5〜10年後の市場規模およびCAGRを入手するようにします。その上で「市場成長率」は5〜10年後のCAGR、「市場占有率」は昨年の市場規模と昨年の自社の売上額からシェアを算出します。ここでのシェアは前述のTOP企業との相対的シェアではなく、市場規模全体から見た絶対的シェアになります。バブルチャートを用いて、大きさを自社の売上額バージョンと利益額バージョンを作成します。2つ目のパターンで作成することにより、1つ目のパターンの懸念点を解消していきます。

この2パターンを用いて事業構成を分析することができます。(ただし、この2パターンを用いても投資回収の観点が欠けているという懸念が残ることを補足しておきます。)


②『実現したい未来』に近づく事業構成とは?

私は『長期経営計画とは、わが社が長期的に実現したい未来、およびその時の事業構成を明らかにし、それを実現するための計画である』と定義しています。前述した事業ポートフォリオでの分析は行いますが、それだけでは長期経営計画としては不足しており、『長期的に実現したい未来を叶える事業構成に現段階ではどこまでたどり着いているか?』を確認する必要があります。

既存事業については、それぞれの事業がこのまま成長していくことにより自社の「実現したい未来」により近づいていくのかを確認し、そうであれば前述した事業ポートフォリオ分析で求める成長性や収益性が見込める場合は、経営資源を継続投下していくことになります。しかしながら、「既存事業の延長線上での成長だけでは、まだまだ実現した未来には近づかない!」と考える経営者がほとんどだと思います。これは企業経営においてゴールのないテーマかもしれません。そうなると既存事業に新たな価値を加えていくことや、新たな事業を創造していくことになります。実現したい未来に向かって、自社の強みと外部の機会を捉えて事業進化・創造する必要があります。この内容は、次回の「3.自社の強みを再認識する」、時々回の「4.メガトレンドを調査する」で詳細を記述していきます。


③『実現したい未来』に沿わない事業への対応は?

複数の既存事業ある中で、その事業がこのまま成長したとしても「実現したい未来」に近づいていかないと思われる事業があることを再認識するケースがあります。再認識と表現したのは、経営者には「なぜこの事業をやっているのか?」というモヤモヤした感覚が既にあるケースがほとんどだからです。その事業は「実現したい未来」を意識する前から長く在る事業であったり、得意先の要請を受けて立ち上げた事業であったりすることが多いです。その事業の対応方針を決めることはとても難しいですが、長期経営計画を策定する今こそ、意志決定しなければいけません。

その事業に対する長期経営計画としての方針は事業ポートフォリオ分析(成長性・収益性)と掛け合わせて判断していきます。

「実現したい未来との整合性が低い」×「成長性・収益性が高い」
この場合はまず事業を構成する製品やサービスの提供価値を見直していくことにより、実現したい未来との整合性を高めることができないか検討していきます。特に自社の主力事業である場合は長期的な時間軸での取り組みを検討していきます。

しかしながら見直しの難易度が高く、見直すことで事業の成長性や収益性が低下する懸念が大きい場合は、分社して実現したい未来を新たに作る、もしくは売却の方針になります。自社の「実現したい未来」自体を見直す選択肢もありますが、経営者の意志である「実現したい未来」を既存事業を残したいから無理に変えるという選択は健全とは考えにくく、その後もモヤモヤした感覚は経営者に残り続け、企業経営の推進力が低下する原因になるでしょう。

「実現したい未来との整合性が低い」×「成長性・収益性が低い」
この場合は売却もしくは撤退の方針となります。

社会がより豊かになるために自社としてどんな貢献ができるのか、それを実現したい未来で明示し、それを成し遂げる事業構成に長期的に変化させていく。また、それと同時にそれぞれの事業の収益性や成長性を維持・向上させ続け、企業を永続的に存続させていく。この高難度の取り組みの設計図が長期経営計画になります。この事業構成の分析において、現状を正しく把握することはとても大切なプロセスになります。

今回は以上となります。次回は「3.自社の強みを再認識する」について書くつもりです。

【目次(案)】
Ⅰ 方針
1. 目的を決める
2. 期間・更新を決める
3. アウトラインを決める
4. スケジュールを決める
5. 体制を決める 
Column 事例を調査する

Ⅱ 企業戦略
1. MVVを振り返る         
2. 事業構成を分析する  ←今回
3.自社の強みを再認識する  ←次回

4. メガトレンドを調査する
5.全社業績を分析する
6. 今後のMVVを決める
7. 企業ドメインを決める
8. 目指す事業ポートフォリオを決める
9. 成長戦略を決める
10. 新規事業・M&A戦略を決める
11. 一次業績計画を策定する
12. 一次投資枠を設定する
13. 全社一次要員計画を策定する
14. TOPマネジメントを決定する
15. 企業戦略を事業戦略に展開する
Column 事業承継に向けた長期経営計画

Ⅲ 事業戦略
1. 過去の事業業績を分析する
2. 現在の製品ポートフォリオを可視化する
3. 外部環境を分析する
4. 企業戦略を理解する
5. ミッション・バリューの見直しを検討する
6. 事業ドメインを決める
7. 目指す製品ポートフォリオを決める
8. 成長戦略を決める
9. 売上計画を精緻化する
10. 要員計画を精緻化する
11. 投資計画を精緻化する
12. 損益計画を精緻化する
13. ロードマップ・KPIを決める
14. 事業戦略を企業戦略へフィードバックする
Column 経営計画の先行研究

Ⅳ 計画完成
1. 売上計画を確定させる
2. 投資計画を確定させる
3. 要員計画を確定させる
4. 採用計画を確定させる
5. 組織計画を確定させる
6. 人材育成計画を決める
7. 新規事業・M&A計画を決める
8. リスク管理計画を決める
9. IT投資計画を決める
10. 財務三表計画を決める
11. ロードマップ・KPIを決める
12. モニタリング計画を決める
13. コミュニケーションを開始する
Column 社員がワクワクする長期経営計画

最後に私の著書と副業で経営している会社の紹介をさせてください。


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