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近代建築の入門書─『ル・コルビュジエがめざしたもの ―近代建築の理論と展開―』

世界文化遺産登録のル・コルビュジエ作品群は、絢爛としてわれわれを挑発し続ける――。
合理性・機能性に富むデザインばかりか、広大な都市計画も射程に世界を震撼させた「近代建築の原則」の革新性。その大胆でダイナミックな展開を、建築史・建築批評の第一人者が果敢に現場踏査する。


最近,文章らしき物を書いてなかったので,読んだ本の紹介をしようかな,と.

どんな本?

本書は建築評論家として活動する著者・五十嵐太郎氏が各所に寄稿した文章の中から近代建築に関するテキストを集めたもの.
近代建築の代表的建築家であるル・コルビュジエを口語体で解説する2編から始まり,専門外の読者にも分かりやすく近代建築を紹介する構成となっている.
コルビュジエに限らず日本,海外の近代建築のプロジェクト,理論が紹介され,同時代の動向を概観できる.


特徴は?

「ル・コルビュジエがめざしたもの」の章から始まり,まずはコルビュジエが何に影響をもたらしたか,もたらされたかが語られる.
「メディア・アーキテクトの誕生」では,ビアトリス・コロミーナの『メディアとしての近代建築』を引き合いに出しながら,

コルビュジエが写真や映像といった近代に登場した視覚メディアを活用し,自身の建築論や作品を大いに宣伝したことが語られる.コルビュジエは建築家であると共に優秀な編集者であったと述べられている(余談だが,これほど膨大な史料を残した建築家はコルビュジエの他にはいない.一方,ロースは自身の史料を積極的に処分していた,).

このように作品や理論の紹介に留まらず,彼の活動や関係者,さまざまな視点からコルビュジエを紹介した上で,近代建築の解説に入っていく近代建築の入門書的な本だと言えるだろう.


面白いところは?

近代建築の紹介ひとつとっても,著者独自の視点が伺えるところが興味深い.

たとえば,「時代を超越するプレチニック」はコルビュジエと同時代に活動しながらモダニズムの潮流とはまったく異なった建築をつくり出したスロベニア出身の建築家ヨジェ・プレチニックを紹介する.
彼の建築はステレオタイプな近代建築のあり方とはまったく異なる歴史的な要素に触発されたような造形などが組み合わされた,どちらかといえばポストモダンの建築を思わせる意匠が見られる.
ミースやコルビュジエなどと同時代に作品を残したにも関わらず,時代を感じさせない彼のスタイルは「プレチニック・スタイル」とも呼べると著者は述べる.

また「超豪邸としての近代建築─トゥーゲンハット邸」では,「住宅」という括りでありながら「超豪邸」という予算や土地の制約に縛られないからこそ生まれ得たおおらかさを持つミースの「トゥーゲンハット邸」について語る.「サヴォア邸」の約10倍もの建設費とされるこの住宅は何度も転用されている.それはこの建築が「超豪邸」だからこそだろう,と著者は述べる.著者が度々言及する「富豪刑事」のように,突き抜けるからこそ生まれ得る傑作も存在する.

これもまたステレオタイプな近代建築のイメージでは一括りにはできない事例だろう.

このように時にはユニークな視点で近代建築を紹介する著者の視点は,近代建築の幅広さや深さを教えてくれると同時に入門書としては取っつきやすい書籍であると言える.

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