分身、幽霊、グリッチ、ノイズ─『SFマガジン「やくしまるえつこ特集」』


書籍詳細


●特集 やくしまるえつこのSF世界
音楽家、やくしまるえつこの総力特集をおおくりする。
本誌連載中の「あしたの記憶装置」など、
音楽のみならずSF的な世界観を持つプロジェクト、テクスト、
ドローイングや美術作品などでも活躍するやくしまるえつこ。
ディスクガイドや多方面からの評論で彼女のいままでの足跡をたどるとともに、
「タンパク質みたいに」で話題を呼んだやくしまるえつこ×円城塔による
言葉のやりとり「フラグメンツのあいびき」を始め、
彼女を愛してやまないクリエイターたちによるコラボレーション、
およびトリビュートをおとどけする。
本誌初となる存命中のミュージシャンの特集をおたのしみいただきたい。
表紙絵はやくしまるによる描き下ろしドローイング&コラージュ作品。


SFマガジンの「やくしまるえつこ特集」をたまに読み返している.面白い.
ネットサーフィングしてたら最初に読んだ時の雑感が出てきた.

「ありそうでなかった」世界(そして,おそらくありえない世界)

やくしまるえつこ率いる相対性理論が登場したのは2007年.初音ミクが登場したのと同じ年だ.相対性理論をたしなみ,ニコニコ動画を視聴し,初音ミクを観て(聞いて)いた僕はこの世代のカルチャーど真ん中だったんだなぁ.
『シフォン主義』を聞くと,未だに大学受験のことを思い出す.受験勉強の時,ずいぶんと聞いていた.


ちらっと読んだ佐々木敦氏の論考はなるほどと思う部分が多かった.
相対性理論が登場した当初は顔もメンバーもよくわからない状態で,それでも聞いたことないようなあるような(佐々木はこの在り方を「突然変異的なバンドに見えつつも、先行者たちとのリンクがある音楽」と評している)奇妙な感覚を持たせる音楽に強く惹かれた.ただ,ライブに行ったり,活動を逐一追うという程のファンではなかった僕は新譜が出てたまたま目についたら買うというくらいのリスナーだった.


佐々木は,相対性理論の2007年から現在に至るまでを,「正体不明だった「やくしまるえつこ」はこちら側に向かって,一歩,また一歩と近づいてきた.」と表現している.これはたまに聞くくらいのリスナーだった僕が一番強く感じていたことだった.たまにネットなどで見かけると,やくしまるえつこの足下が見えるようになっている,また時間をおいて見かけるとやくしまるえつこのシルエットが分かるようになっている,さらに時間が経つとやくしまるえつこの顔が見えるようになっていた(しかしそこに表情というものはなかった).だんだんとやくしまるえつこはその姿を現しつつ,僕たちの世界に近づいてきている.それはまた別の世界が僕の世界に近づいてきているのだ,という平行世界的な感覚にも似た奇妙な感覚だった.

相対性理論はありそうでなかった世界(そして,おそらくありえない世界)を描写する.そのためにはその世界は突如として現れるのではなく,違和感のように徐々に現れることが重要なことだったのではないだろうか.


分身、幽霊、グリッチ、ノイズ

同書に収められている「やくしまるえつこ・AI・河原温──やくしまるのアート=分身について」という論考がとても興味深い.

「音楽でも、絵でも、WEBでも、写真でも、なんでも、何かを発表することはすべて、みんなの生活の中に、自分の分身を侵入させていくことです。ただし、分身は”自分のかけら”ではあっても、”自分のもの”ではないのです。かれらは、彼ら自身のものであり、彼らにはきっとあなたが必要です。」
「やくしまるえつこの「分身学」」

この論考では,やくしまるが一貫して行なってきたことは,あらゆる場所に分身をつくり,受け手の感覚のなかで自由に振る舞ってもらうこと,でありそれが彼女の存在を興味深いものにしていると評している.「YAKUSHIMARU BODY HACK」におけるやくしまるとデータ上のキャラクターとの関係「YAKUSHIMARU 3D SCAN」における編集可能なインタラクティブな存在としてのやくしまるえつこ,架空世界上に分身が現れることによって,逆説的に身体性が浮上してくる.「データと実存の関係」というものを体現しているのがやくしまるの在り方の特異性だというのだ.そして,この「データと実存の関係」はアートシーンでもいくつか見られるという.

「…また、造形作家の岡崎乾二郎が近年取り組んでいる《T.T.T.Bot(Table Turning Tribot)》も面白い。これは、やくしまるが参加した2015年の「高松メディアアート祭」にも出品された、降霊術「コックリさん」に着想を得た作品である。仕組みとしては、被験者の持つ固定された筆の下で、過去の有名画家の筆跡をプログラミングされたキャンパスが自動的に動き、名画を再生産させてくれるというもの。亡き画家の意思が被験者の身体を経由して、現代に甦る…と思いきや、興味深いのは、キャンパスの動きは一定にもかかわらず、被験者によって生まれる図像が異なってしまうということだ。」

再現性とコピー&ペーストを強みとしているはずのパソコンを主とした機械・データが意図し得ないものを作り出してしまう,ということ.一番遠かったであろうテクノロジーにおけるデータが実存と結びつくとき,オカルティックな「魂」のような感覚を抱かせる.

「これらはデータの変換においてまぎれこむゴーストではないか。
スーパーフラットの特徴として、単に平面的な世界観だけではなく、データの透明な変換可能性と、大きさの概念がないことを挙げられる。どこまで拡大しても、くっきりとしたままの線。とすれば、そうした状況に亀裂を入れる機軸として、メディアの横断にひそむ不気味な影が注目される。」「ゴースト・イン・ザ・サンプリング・マシーン」五十嵐太郎

機械に近づくことによって逆説的に世界の謎・生の神秘性が突き付けられること.やくしまるはその体現者としてこれからもあり続けるのだろうか.そんなことを考えさせられる興味深い論考だった.

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