[報告]淺井裕介天井壁画

現在、アーティストの淺井裕介が中国で天井壁画を制作中です。先日、わたしは現場を視察してきたので、その様子をここでレポートします。

場所は重慶市の武隆。「中国南方カルスト」として世界自然遺産に登録されている、風光明媚な観光地です。市の中心部からは車で3時間ほどですが、標高が高いため、灼熱の夏を過ごす重慶市民の避暑地として人気を集めているようです。

武隆の代表的な景勝地が「天生三橋」。石灰岩の洞窟が一部の天井を残して崩落し、アーチ状の奇観を形成したそうです。チャン・イーモウ監督の映画「王妃の紋章」(2006)やマイケル・ベイ監督の「トランスフォーマー4 ロストエイジ」(2014)のロケ地として使われました。

武隆のうちの仙女山森林公園で、この8月から「武隆ランバ国際大地芸術祭」(wulong lanba art festival 2019)が開催されます。事業主体は、中国国内のデベロッパー(土地開発業者)。彼らが、もともと高原野菜やタバコの葉などを栽培していた農村を、仏教寺院と商業施設、ホテル、そして美術館につくりかえるプロジェクトを計画しており、この芸術祭はその一部として催されます。総事業予算は約30億人民元。日本円に換算すると、約510億円。いまの日本のアートシーンではちょっと考えられない規模の巨大プロジェクトです。

わたしは2016年からこの芸術祭の計画に関わり、淺井くんを推薦するとともに、下見に同行しながら、作品の実現に向けて事務局とやりとりしてきました。当初は芸術祭のディレクターにという話でしたが、二転三転、紆余曲折を経て(中国ではよくある話)、現在は淺井くんの作品のキュレーターとして仕事をしています。

淺井くんの制作現場は、この作品のためにつくられた建物、通称「苔蘚館」。「タイシェンカン」と読みます。直径約10メートル、高さ約15メートルほどのドーム状の空間で、表面は文字どおりコケで覆われる予定ですが、内側の白い壁面に淺井くんが泥絵を描きます。ミケランジェロが「システィーナ礼拝堂」に《天井画》を描いたように、そしてヴァザーリが「サンタ・マリア・デル・フィオーレ」に《最後の審判》を描いたように、淺井くんもまた、天に向って絵を描いてほしいと思ったのです。今回の作品は彼にとってまったく新しい挑戦です。

苔蘚館の内側には足場が設置されています。いわゆる「単管」で組まれている点は日本の足場と同じですが、ちがうのは天板。すべて竹でできているのです。そのため、隙間から下が見通せたり、加重するとたわんだり、なかなかのスリルが味わえますが、竹は思いのほか強い。それらが組み合わされ、スロープも含めると、全部で7階分の水平面が確保されました。真下から見上げると、直線で構成された模様がじつに美しい。

さて、そんな過酷な現場で、ともに描くのは、中国各地から集まった有志たち。重慶市内にある四川美術学院の学生たちを中心に、社会人を含めて総勢40人ほど。みんな淺井くんの絵に興味を持って参加してきたそうです。男性より女性の方が多いのは日本と変わりません。日本からは、淺井くんの現場に欠かせない岩瀬圭司くんと、福岡を拠点にインストーラーとして全国で活躍している宮田君平くん、そして重慶でアーティスト・イン・レジデンスの経験がある寺江圭一朗くんがアシスタントとして参加しています。朝から夕方まで、人によっては夕食後から深夜まで、連日連夜、ひたすら描き続ける作業が続いています。

絵の描き方を紹介しましょう。まず、武隆の各地で採集した土を乾燥させ、次にそれらをそれぞれふるいにかけ、粒子を細かくします。今回は岩石を粉砕したものもありました。それらをパックに分類して保管します。使用する際は、それぞれの土を大小のクリアカップに少量入れ、日本画で使用される固着剤「アートグルー」(場所によっては「アートレジン」)と水を投入、菜箸で攪拌すると、いわゆる「絵の具」の完成です。淺井くんの泥絵は、それが制作・発表される土地の土を使用し、展示の終了後に、再びその土地に戻す、というコンセプトにもとづいています。

まず、淺井くんは白い壁に鉛筆で下絵をさらさらと描いてゆきます。線の内側には色指定のための記号も書き入れます。D4という記号が書かれているエリアには、D4という絵の具を塗るというわけで、とってもわかりやすい。使用する筆は、水彩画用などのいたってふつうの筆で、大きな刷毛からひじょうに細かい筆まで多種多様。面積の大小に応じて使い分けます。

今回は、支持体が平面だけでなく、大半が曲面ですから、必然的に上体をのけぞらせながら描くことになります。これが、かなり難易度が高く、みんなの身体に大きな負荷をかけているようでした。目線より上に手を持ち上げて描くだけで、そうとうしんどいのです。

残念ながら1日だけでしたが、わたしもじっさいに土から絵の具をつくり筆を握ってみました。当初は鉛筆の線を思わず残してしまうほど臆病でしたが、ある程度コツをつかめるようになると、次第に筆がなめらかに走るようになり、線をわずかにはみ出す勇気が生まれます。おもしろかったのは、淺井くんが描いた線とシンクロしていくような感覚も生まれたことです。たとえば、曲線に沿って色を塗っていくとき、淺井くんがどこに手を置いて鉛筆を動かしていたのか、その支点のポイントがわかったような瞬間がありました。また、淺井くんは左利きですが、右利きの場合、左側の線を攻めるときは容易である反面、右側の線はなかなか難しい。すると「そういえば、淺井くんは頭を下げながら描いていたな」と思い出し、真似してみたところ、右側の線と左側の線が反転し、たちまち描きやすくなったのです。土を画材にした描写法も含めて、すべての方法を彼自身で開発していることがよくわかりました。水に溶けやすかったり溶けにくかったり、筆が走るものや走りにくいもの、土にはいろんな性質があることも今回ひしひしと実感しました。 ほんとうにおもしろかった!

「武隆ランバ国際大地芸術祭」の会期は2019年8月3日から11月3日。他の参加アーティストは、日本からは松本秋則、前橋在住のフランス人アーティスト、ジル・スタッサール、フランスからはクリスチャン・ボルタンスキー、デンマークからはトーマス・ダンボが決定しており、その他に中国国内のアーティストも出品するようです(ただ、依然として全貌はつかめません。なにしろ中国では、最後の最後まで、状況は流動的なのです)。今回の淺井くんの作品《空から大地が降ってくるぞ》(大地从天而降)が、はたしてどんなふうに完成するのか、いまからとっても楽しみです。近々また現場を訪れる予定なので、改めてレポートします。

[参考]
事務局が発信しているweixinの記事。中国語ですが、写真や動画を見ることができます。

https://mp.weixin.qq.com/s/MbxiScR0lt6QJ2nxJh4ZzA

https://mp.weixin.qq.com/s/cbwrPkZlD7zVFm-qk4XAew

▲photo by miyata kumpei

▲photo by iwase keiji

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fukuzumiren

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