見出し画像

イタリアで、日本のアニメを観る

 「君たちはどう生きるか」を観た。

 宮崎駿監督が引退宣言をしてから10年後のこの夏、日本で公開された作品は、イタリアでは年明けの公開が予定されているが、10月18日から29日に開催されていたローマ映画祭で、アニメーションなどを集めた部門にラインナップされた。10月23日、メイン会場の他、市内2カ所でほぼ同時刻に、1回だけの上映。

 なるほど、観てみると実はこのタイトルの小説は原作というわけではなく、物語の中でキーとして出てくるのみ。とは言え、イタリア語のタイトル「少年とアオサギ(Il ragazzo e l’airone)」は何だか面白味にかける。英語のタイトルも同様で、そこからの転訳と推察されるが、もうちょっと気の利いたタイトルにできなかったのだろうか・・・。小説がおそらく知られていない国外では、そこを訳しても・・・ということだったのかと思うが、全編を通じて「どう生きるか?」と問いかけてくる、その感覚をゼロにしてしまうのは残念だった。

 作品は・・・まだこれから観るという方も多いかもしれないので、ここはネタバレはやめておきたい。ただ、ああ、やっぱり宮崎監督はイタリアがお好きなんだなあ・・・と、そこここで感じた。あと、これはきっと、これまでのさまざまな監督のいろいろな映画へのオマージュにもなっているのだろうな、と。

Il Ragazzo e l’airone
君たちはどう生きるか
宮崎駿監督、2023年

 実は夏の間、イタリアでジブリ特集として、劇場で5作品を順に上映していた。そのうち「魔女の宅急便」、「風立ちぬ」の2本を観た。前者は、劇場で見たのは初めてだったが、大きなスクリーンの中で、キキちゃんはより伸び伸びと、空を飛んでいた。後者は、ヴェネツィア映画祭で観て、その時も好きな作品だと思ったのだが、今回改めて観て、なんだか覚えていたのと随分お話が違って感じた。それは、やはり今、ウクライナという地続きの土地で戦争が起きていることと、連日のように、やれ某国だのイタリアだのから、人道のみならず武器の提供のニュースを聞いていることに影響を受けているのかもしれない。「戦争は絶対反対だけど、子どものころから戦闘機に憧れた」という宮崎駿監督の、矛盾した心がぎゅっと詰まった、かっこいいけどもその反省が滲み出た作品だった。

Kiki consegne a domicilio
魔女の宅急便
宮崎駿監督、1989年

Si alza il vento
風立ちぬ
宮崎駿監督、2013年

 そんなジブリめいた今年の夏から秋にかけて、途中でもう一つ観た「犬王」が、もうすごくよかった。2021年、第78回ヴェネツィア映画祭コンペティション部門作品。ビジュアル・イメージとタイトルからてっきり、いわゆる青年漫画と分類される漫画が原作なのだろうと思いきや、原作は小説とのことで、その創造力と個性溢れる映像にまずは圧倒、そして奇想天外な能楽、いや猿楽役者「犬王」とロックな琵琶法師「友魚(ともな)」が出会った瞬間から、その音楽にぐんぐん引き込まれる。一言、めちゃくちゃかっこいい!!!その生まれついた姿のために打ち捨てられ、犬とともに育った「犬王」は、類稀な身体能力を備え、アニメならではの表現力でまさに自由自在に動き、走り、踊る。時にフレディ・マーキュリー、時にロベルト・ボッレ、そして時に忌野清志郎となって観衆を熱狂の渦とする。やはり天才的な演奏で魅せる友魚はしかし、終始「犬王」の支えに徹する。そして、庶民から将軍の妻までを魅了した2人はその先、全く別の運命をたどることになる・・・。全編を通しての映像と音の魅力と迫力と、その結末の見事さに唸った。今年観た映画の中で、今のところ一番かもしれない。「映像研には手を出すな!」の湯浅政明監督と知り、納得。

 ちなみにセリフはイタリア語吹き替え、歌の部分はオリジナルのままでイタリア語の字幕だった。会場が(珍しく)いっぱいだと思ったら、吹き替えの若い声優さんら、関係者がたくさん来ていたようだった。

 3カ月で、アニメ映画4本も観たの、生まれて初めてかもしれない。ローマはまだ、映画館がたくさんあるのがいい。

Inu-oh
犬王
湯浅政明監督、2021年

5 novembre 2023

#ローマ #ヴェネツィア国際映画祭 #ヴェネツィア映画祭 #ローマ国際映画祭 #宮崎駿 #湯浅政明  #映画 #日本のアニメ #映画感想文 #エッセイ

この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?