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Poor Things

 『哀れなるものたち』。2023年、第80回ヴェネツィア国際映画祭で最高作品賞にあたる金獅子賞。

 昨年のヴェネツィア映画祭については、銀獅子賞(グランプリ)の『悪は存在しない』(濱口竜介監督)、同じく銀獅子賞(最優秀監督賞)の『Io Capitano』(マッテオ・ガッローネ監督)、そして審査員特別賞の『Green Border』と、主要な賞を受賞した作品について次々観る機会があって、どれもそれぞれ、これはすごい!を唸らされ、その度に、映画っておもしろい!と言う気持ちを胸に劇場を後にした。

 CGを駆使した、壮大な物語はもともとあまり興味がなく、『哀れなるものたち』も事前のトレイラーやヴィジュアルからは取り立てて惹かれるほどでもなく、おそらく金獅子でなければ観なかったかもしれない。

 ところがこれこそまさに、「百聞にして一見にしかず」、「食わず嫌い」、「目から鱗」だった。

 テーマといい、壮大な作り込み(の費用)といい、ヨルゴス・ランティモスというギリシャ出身の監督の作品ということは知っていたものの、これは、日本やヨーロッパにはできない、アメリカならではの作品だろうと思った。

 まず、そもそもテーマからして相当グロテスクなので、(それもよく知らずに見にいった・笑)当然のことながら、見た目がかなりグロい。にしても、アニメーションでなく、実写でよくまあここまで、と思う。(映画界では別に普通なのかもしれないけど、そんなわけで普段あまりそういうものを見ていないので。)

 お色気シーンが、正直ここまでなくても?と思うほど多いのは、変な言い方だが、重くかつ複雑なテーマの、一種緩和剤、緩衝材になっているのだろう。

 そしてここは、実は期待していた、エマ・ストーン演じるベラの衣装が一つ一つが、これはもう期待を大きく超えてすばらしかった。ベラ(Bella)は、イタリア語でそのまま「美しい」の形容詞から転じて、「綺麗な人」「かわい子ちゃん」。周囲の環境や人々の姿に関わらず、常に大袈裟なほど大きなパフスリーブに、超ミニスカートにすらりと伸びた足、あるいはその後ろにたなびくこれまた大きなドレスの裾。そんなベラの姿は、日本のアニメのパロディーのようであり、一つ一つ手作業で製作されたのであろうことを思うと、厳しくも、なんだか豪華で楽しげな衣装制作現場が目に浮かぶようだった。

 そして何より、エマ・ストーン自身が、すごくいい。

 邦題の『哀れなるものたち』は、原題の”Poor Things”そのままだろう。イタリア語でも”Povere creature!”と直訳。ただ、イタリア語で ”creature”(創造物)というと、それは自動的に「神の創り給うもの」、すなわち聖書の意味するところの、動植物及び人間を想起させる。さらに「!」までくっつけて強調しているのだが、最後の最後まで作品を見て、「冒涜」という日本語とともに、その生々しく意味するところに唸った。

 一方、邦題の「もの」は、者であり物でもあるのだろう。英語もどちらの意味にもなるのだろうけれど、英語話者の人が一般にどう受け取り、どう考えるのかちょっと気になった。

  科学の進歩について、人間のエゴについて、貧富や男女、搾取や善悪、友情と恋愛。そうして「いのち」について考えさせられる、というと妙に社会派映画のようだが、仕上がりは、英国風(ブラック)ユーモアたっぷりで、あっはっは、と笑わされる。映画って、やっぱりいいなー。

Poor Things
監督 Yorgos Lanthimos
出演 Emma Stone, Mark Ruffalo, Willem Dafoe, Ramy Youssef
141 min. - 米 2023

18 feb 2024

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