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くらしにきました |#3 「ローカルプロデューサーはつらいよ お金と職能とフリーランス」

地方出身、東京経由で、また地方へ。暮らしが移ろぐ20代を過ごしてきたアラサー男子二人が、地域、仕事、妖怪(?)についてあれこれしゃべります。

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富川屋 / to know代表。ローカルプロデューサー。新潟生まれ割烹屋育ち、岩手県遠野市在住。宮城大学非常勤講師。赤坂の広告会社でWebマーケ→移住→ベンチャー共同創業→独立→75歳の師匠に出会い遠野物語にドハマりし文化領域で創業準備中。郷土芸能舞い手、HIPHOP好き、岩手ADC賞2018グランプリ受賞作品のプロデューサー。遠野文化友の会副会長などなど。ほそぼそと実家の鮭の味噌漬け販売中。

https://www.toknowjp.com/

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1988年生まれ。プランナー / バーテンダー 。「ケケケ」という屋号で、広告代理人的に、地域と絡みあうメディア・場・カクテルづくりをやってます。たゆたうバー「movar」、空きない-飽きない-商い「アキナイイエ」など。元・おきなわ移住計画代表。自由研究テーマは風俗と民俗と芸能。趣味はローカルウォッチ。境港市妖怪検定中級。

https://note.mu/omija

都会を経験したのちに、岩手と鳥取、生活拠点をそれぞれ移した二人が、全5回にかけて繰り広げるローカルトーク「くらしにきました」。

第2回では、大見謝さんが目指す「アキナイイエ」を通した場づくりについてや、地域における“よそ者”の立ち位置などについてのお話でした。

今回は、地方でフリーランスの仕事をしているふたりの働き方や、共通点になっている「プロデュース」でお金を稼ぐことについて触れていきます。

一人の一つの仕事をあえて細分化・分業化するとき

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富川(以後、岳):去年ほとんど働いてなかったといっても、生活費はかかるじゃないですか。それはどうしてたんですか?

大見謝(以後、大):それはですね......去年度末にやった大きめのプロジェクトのお金を切り崩しながら、ってかんじでした。それが尽きかけててる今はわりとカツカツですよ(笑)。

それで、去年末くらいからフリーランスの仕事を増やさなくちゃと焦りはじめました。それで考え直したのが、これまでは編集や執筆業がメインだったんですけど、ちょっと違った方向で仕事を増やしていきたいなと思っています。

ライティング案件はやらない方向で......というか「なるべくやりたくないです」っていう話を周りにしていますね。というのも、これまでライター業をやらせてもらってましたが、僕、もともと書くのがそんなに好きじゃないんですよ(汗)。

あくまでバーテンダーという立場とか視点を活かしながら考え方や情報を伝えることに意味があって書くのは手段でしかないなぁ、と思ってたんです。それで一時期は意識的にバーの現場から離れて、修行と思ってライターをやり始めたんですけど、いつの間かそっちがメインになっちゃって。

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(大見謝さんのライター以外のお仕事。東京・千駄木にあったリトル商店街「バザール千駄木」における場の企画運営)

岳:なるほどね、そっちが先行なんだ。

大:で、去年ぐらいから一人でやるのしんどいなと思ったから、ライターユニットで活動した時期もありました。仕組みとしては、ライターが書くことだけに集中できるように、他の人に進行管理とか細かい修正をお願いするみたいな感じで。

たとえば、僕が好きなのは取材自体とか、企画の部分なんですよ。だから、取材は僕が行くけど、書くは他のライターさん、みたいに細かい分業をしながら一本の記事をつくれらたいいなと思ったんです。

富川さんも幅広くやっているから、もちろん自分がやらないといけないことはあるでしょうけど、反対に「これって他の人に任せた方がいいな」ってこともあると思うんですよね。

岳:そうですねー。そうそう。まさに今これもそうなんですよ。

「プロデュース」と「制作」の間 --- 地方でどう稼いでいくか

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(岳さんが遠野でプロデュースした仕事集。1.岩手ADC(アートディレクターズクラブ)で受賞したお米のパッケージ2. B&Bくら乃屋さんのポストカード。3.遠野の地ビール醸造所が開催するホップ収穫祭に合わせて作ったTシャツを販売。4.小学生が演じる劇「遠野の里の物語」にプロデューサーとして参加)

岳:多分、僕と大見謝さんって役割が似ていると思うんですよね。それは「企画する」とか「物事をつくって動かす」みたいなところだと思うんですけど。その動かしたいろんな部分を深めてくれたり、文章書いてくれたりする人が別でいてもいいのかなって思ってます。

大:ですね、とりあえず“言い出しっぺ“になって初動を生みたいっていう意識はわりとあります。

誰かの動きやすさをつくるという意味で言えば、今、大山にもフリーランンスやっている人がいるんですよね。その人は、撮影と編集はそこそこ長くやっている人なんですけど、仕事の交渉や進行管理が苦手なので、「僕がやりましょうか?」って話をしてます。

岳:そういうパートナー的な人がいれば、余白ができてさらに仕事受けれますもんね。僕もそういう感じです。前は自分で映像とって編集していたんですけど、手が回らなくなっちゃって......。

地域のプロデューサーとしてどうやってお金を稼いでいくか問題で、やっぱプロデュース業って、言葉を選ばずに言えば、間に入ってマージンをもらう中間職じゃないですか。この利幅を上げていくかってのが課題なんですけど、遠野に来てみたら、そもそも人材不足もあって、もう自分で映像作るしかないなーみたいな。

なので最初は、プロデュース(中間管理)と制作(プレイヤー)の業務を切り離して一緒に請求費に入れてやってみたんですけど、全体が回らなくなってきちゃったんですよね......。二つの両立って超大変じゃないですか。

大:いやもう本当にめちゃくちゃ大変だと思います!

なぜライターは低単価か。地方は編集者が足りてるか

大:それに加えて思うのは、デザインとか、映像、写真とかに比べると、テキストは基本単価が低いと思うんですよね。特に、地方においてはそうなりがちで。つまり、他のクリエイティブ職と比べちゃうと、ライターは単価が低くくて稼ぎにくいかなぁと。

文章って、言っちゃえば誰でも書けちゃうじゃないですか。ちょっとした専門機材が必要なデザインとか映像とかと違って。だから、プロと普通の人では何が違うのかみたいなところも分かりづらくて。

構成考えたりとか、こういう言葉選びをしてるのはこういう理由だから......みたいな実は繊細に考えているところがあっても、読み手にはそこに気づいてもらいにくい。それどころか、発注者もよくわかってない。だから、単価が上がりづらい......みたいな感じですかね(汗)。

岳:特殊技能って伝わりづらいところがあるんですかね。

大:そうかもしれません。あと、岩手がどうかはわからないですが、「地方ってライターは多いけど編集者が少ない」ってのがあると思うんです。でもライターって、編集者と仕事をすることで学べることが沢山あると思うんですよね。だから、ちょっと困る。

ブロガー時代から始めて、僕も最初は一人でWeb記事を書いていたんですけど、その後に、紙媒体出身で編集をやってる人のアシスタントをさせてもらったことがあったんですよ。で、その時、すげえ凹まされましたもん(笑)。どんだけ自分が文章下手なのか思い知ったというか。Webと紙って性質も違うし。そんな時期もありました。

岳:へぇ〜、そうだったんだ。

専門性やつながりが、付加価値を高め、仕事をつくる

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大:それで気づいたのは、ライターの戦略的なとこかもしんないですけど、ある時期から「専門性を決めたほうがいい」それと「なるべくは東京の仕事をもらえるようにしよう」という意識になったんですよ。取材が上手い人って、知識・経験の専門性が高いから声を掛けられるみたいなことがあるなと思って。

もちろん4年目ぐらいまでは、記事のタイプ・ジャンル問わず何でもやっていましたよ。でも、気づけば「まちづくり」とか「移住」についての記事が多くなっていたので、これを武器にしようと思ったんですね。

それで、意識的に地方を回るようにしてたら、都内のメディアで、全国各地のローカルを扱っているメディア記事を書かせてもらうような流れができてきて。単価としては、地方基準で比べるとそんなに悪くない。僕があちこち転々としていたことや、現地で得た情報や深めた関係性も、一つの付加価値になっている......。そういう感じだったかもしれません。

岳:なるほどね〜〜〜。

大:だから、自分の専門分野を一つは持っていた方がいいかなと思いますね。アメトークの“◯◯芸人“じゃないですけど、「〇〇については××さんに聞いてみよう!」みたいにパッと思い浮かぶくらいに。

岳:あ〜、そうっすね。僕のライターの友人が、オランダのアムステルダムに移住したり、その前だとエストニアにいたんです。今もヨーロッパ滞在してて、そこら辺をずっと深堀っているんですけど。するとやっぱり「海外事例は、あいつに頼む」みたいな流れがあって。海外で地方でも、移住すると、東京にいたときよりポジションが明確になる強みはありますよね。

大:ですね。そういえば、「地方とのつながりがそこそこあるやつ」みたいなイメージが転じたのか、ライターやカメラマンのコーディネートをやったこともありました。それは、仕事としてでなく趣味みたいな感じで、いろんな人を紹介したりも多かったですけど。

(大見謝さんがカメラマンのコーディネートをきっかけに展開し、ディレクション担当することになった「ニッポンたからものプロジェクト」の映像制作)

テレビ番組とかで、海外ロケ行った時に現地コーディネーターとかいるじゃないですか。ああいうのって、ちゃんと確立すれば地方でも仕事になるんじゃないかなって。

イベントの知り合いづてで、ブロガーからライターへ。1年目は、1本500円から20000円まで

岳:さっき4年目に専門領域を決めたって言ってましたけど、それまでの期間って、仕事はどういう風に作っていたんですか?

大:とりあえず仕事を始めるまでも、1~2年くらいブログをずっとやってましたよ。で、一番最初の仕事は、たまたま東京時代に知り合った人経由でしたね。

都内って”ミートアップ“とかの名目で、業界人が集まる場って多いじゃないですか。ちょこちょこそういうのに行ってました。当時は意識高かったので(笑)。そこで知り合った方から「会社で新しく始めたオウンドメディアのライターを探している」ってのを聞いて応募したのがきっかけです。

当時としては、わりと記事単価が良かったんですよね。未経験者歓迎のwebメディアだと記事1本500円くらいの時代に、1本1〜2万の仕事だったので。それは、企業案件というのもあったからですかね。

岳:確かに。オウンドメディアの自社媒体って一時期増えた時期ありましたよね。いろんな企業が。

大:そこでは海外Eコマース先進事例を書いていて、大手じゃなく、個人商店的に始めて成功している世界各国のECサイトをリサーチして、翻訳して、他社ECとの差別化はどうしてるかみたいなのを絞って書き上げるみたいなことやってました。そこでマーケティングとかの基礎知識がついたので良かったですね。

岳:そういうことやっていたんですね〜。

大:英語ができたのはラッキーだったかもしれません。1年目はそれと並行して、他メディアで1本500円記事もやってましたけどね(笑)。

職業より“職能”を重視してみる --- 転職や複業のアドバンテージとは?

大:ここまでずっと話してきたんですど、実は僕、あんまり”職業として”のライターには関心がないんですよね。どちらかというと、そのライターの”職能(職業能力)”に興味があって。たとえば、「ライティングできる」とか「取材できる」とか「リサーチできる」とか、そういうライターが持つ職能を大事にしたいと思っていて。

で、逆に言うと、「ライターという職業に就かなくてもライターみたいなことはやってもいいじゃん」とも思っていて。それを意識して2年前ぐらい前に、「ライター・イン・レジデンス」もやってみました。「プロライターから書くこと・聞くことの一通りを学んで、取材から執筆までを実践していく」を数日にギュッとまとめた地域合宿の企画ですね。

岳:リサーチとか構成とか、そういうのっていろんなところに応用できそうですもんね!

大:ちなみにですが、僕の場合、インタビューの仕方とか全然独学でしたけど、バーテンダーとしての職能が活きたんじゃないかと思ってます。カウンターに座るお客さんの話を聞くことって、取材の感覚に近かったなって。

それと、イベントやワークショップの場でのファシリテーションみたいなのをちょくちょくやらせてもらうんですけど、それもカウンターにお客さんが複数いるときにそれぞれの好き嫌いを考慮しながら話をどう回すかみたいなことに通じるなぁと。 

なので、職能的なところでは、実はいろんな職業がつながってる。

そういう意味では、サービス業界出身でライターやっている人の強みもあるんじゃないかと思っています。ライターを心ざす人の多くは、もともとが「文章が好きで」っていう入口が多いんですけど、どちらかと言えば、それは作家タイプなんじゃないかって。

そういう人は、“クライアントありき”の対人取材や、赤入れしてくる編集者とのコミュニケーションが苦手だったりすることも多くて。だから、接客経験の下地があるのはやっぱりいいと思うんですよ。

岳:それは、転職したり、複業で仕事を組み合わせる強みかもしれませんね。

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自分の職能ってなんだろう。得意と苦手を自己認識してみる


「くらしにきました」第3回は、地方で暮らす岳さんと大見謝さんの仕事観についてのお話でした。私自身ライターをやってきたので、大見謝さんのライターという仕事に対する考え方は、とても興味深かったです。

特に共感したのは、「その人が持つ職業能力」のお話。最近、ちょうど「自分の職業能力ってなんだろう」と考えていたので、自分の考えと重ねがらお話を聞いていました。

ライターになって3年。最初は「文章を書くのが好きだから」という理由で始めましたが、この3年間で、「書くこと」だけではない「ライター」という仕事のおもしろさをたくさん見つけました。

私が主にやってきた仕事は「取材をして記事を書く」という仕事なのですが、その一連の流れを分解すると、こうなります。

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(※これはあくまで一例です!)

このように、文章を「書くこと」自体は、実はライターの能力の一部であり、それ以外にも「営業」「調査」「取材」「進行管理」などなど、さまざまな要素が組み合わさっているのです。

それを踏まえて、ライター仕事を通じて、今まで思い込んできた「自分」とは全く違う「自分」に出会って驚いた、というお話をしたいです。

例えば、私は今まで「自分は書くことが好きだからライターをしている」と思い込んでいました。しかし、3年間仕事をする中で、実はアポイントをとったり取材でお話を聞いたりすること、つまり「人と話すこと」が何より好きであり、得意なことだと実感しました。

取材の時は、その人の人柄や考え方、大切にしている軸、そしてその人を取り巻く環境など、その人を構成する全てに興味があるため、細かいことでも聞いてしまう。書くことはもちろんですが、「人と話すこと」を圧倒的に楽しんでいる自分に気づきました。

また自分では無自覚でしたが、とある仕事で写真撮影をしている時、「文香さんは撮られる人の緊張を解して自然な笑顔を引き出すのが上手ですね」と言ってもらえ、とても嬉しかったのを覚えています。やっぱりここでも私は「人と話すこと」を大切にしていたのです。今やっているゲストハウスの女将業も、この職能が活きていると感じる場面がたくさんあります。 

今挙げたような得意なこと、好きなこととは反対に、自分が苦手な分野にも気付きました。

私は「情報を整理すること」が苦手です。ほかのライターさんの文章を読んだり、同僚や先輩の仕事のやり方を見ているうちに、それに気づきました。私が苦手とする「情報整理」は、文章を分かりやすく伝えるために必要不可欠な要素であり、プロのライターとして無くてはならないところ。苦手だと認識した時は「なんで私はこんなにできないんだ!」とめちゃくちゃ悔しかったです…...。

でも、自分の弱みに気づいたらかなり気持ちが楽になりました。なぜなら、苦手な部分を特に意識して仕事をすれば良いことが分かり、苦手をカバーする方法を考えることができるようになったからです。例えば、情報整理能力の高い人に助けてもらったりすることもあります。一人で煮詰まっている時に「こうしてみるのはどう?」と斬新なアイデアをもらえたりするので、一人でやるよりもより深みのあるものを生み出せることが多いです。

このように、「ライター」という職業ひとつとっても、その中にはたくさんの「職業能力」があり、その中でも得意・不得意があると考えています。だから、能力によって人に助けてもらったり、役割を分担してチームで仕事をしたりすることでみんながストレスフリーになるし、より質が高いものが生まれるんじゃないかと感じています。

自分の職業能力について、分解して考えてみるの、スッキリするのでおすすめです!

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さて次回の雑談では、「プロジェクトを動かす」ための役割分担、またチームとして動くときの意識についてなど、話もヒートアップしていきます。まさかの「しいたけ占い、すごい!」というお話も(笑)。次回もお楽しみに~!

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