見出し画像

完璧な着地を見せた人気シリーズのラスト/『るろうに剣心 最終章 The Beginning』感想

劇場版『るろうに剣心最終章 The Beginning』を観てきた。

ついに映画るろ剣シリーズの完結である。僕はコミックを全巻揃えている原作のファンでもある。当初実写化のニュースを知ったときはまさかここまで長い年月と予算をかけて丁寧に作られていくとは想像もできなかったな。裏切られることが怖くて、期待を膨らませることも躊躇した。

人気漫画の実写化は容易なイメージがない。世界観の再現も、原作へのリスペクトも、時間内にまとめ上げる脚本も、そのすべてが中途半端になりがちだ。実写化された途端、原作コミックまで安っぽい印象になることも少なくない。

その点、このるろうに剣心シリーズはとても誠実に原作に向き合ってきたと思う。主演の佐藤健の作品にかける想いも、製作陣営の気合いも幾度となく随所から伝わってきた。

春に先行して上映された最終章のFinalは個人的には物足りなかったが、要因は原作ファンにも初見者にも中途半端な内容だったからだろう。物語性やキャラクターの深みも乏しかった。ただ構造上そう作らざる得なかった点は理解しておきたい。今回、最終章の表裏でいえば「裏」にあたるこのBeginningを持って完璧に近い形で着地した。

これ一本でも十分に通用、成立する堂々たる完成度。原作ファンでもそうでもなくても満足できる見応えを備えていた。

※以下、ネタバレ含みます

画像1

新撰組の登場と夢の対決

僕の大好きな安藤政信は高杉晋作に短い時間でしっかりと存在感を与えていた。銀髪姿は渋くて男前すぎる。もうちょっと出番は欲しかったけど。

画像7

原作を読んでいなければ「黒幕かな?」と勘違いしてしまいそうな妖しい色気を放った高橋一生も、桂小五郎という本作でのキーマンにふさわしかった。

画像8

楽しみにしていた新撰組。

特に印象に残ったのは沖田総司を演じた村上虹郎、ではなく近藤勇役の藤本隆宏。元競泳選手のためガタイがとにかく良くてめちゃくちゃ強そうだった。武骨な顔面含めて存在感が抜群。

もちろん、村上虹郎も悪くない。原作では描写のなかった剣心vs沖田の夢の対決に僕は素直にワクワクしたし、歓迎した。Finalでも剣心と瀬田宗次郎のまさかの共闘には単純に興奮したほうだ。

よもやの人斬りvs壬生の天才。夜の神社だろうか。戦闘の舞台となった場所の雰囲気も絶妙で、互角の様相を呈したまま決着が見送られた場面も憎い。村上虹郎の擦れたような声もいい。

画像6

最初のシリーズからずっと賛否両論ある江口洋介の斎藤一についての言及はあまり気乗りしない。ずっと同じような表情をしているし、いまいちその強さやクレバーさも伝わらないんだよね。本来の斎藤一というキャラクターが持つ魅力を思えば、期待に応えているとは正直思えない。Finalでの立ち位置や見せ場も残念だったし。

剣心を追い詰めた闇に身を置くクセモノは北村一輝が演じた。これはよかった。声がいいのでセリフも聴き取りやすく、かといっていかにも漫画から飛び出してきた悪役です!といったような不自然さがない。実際ただの悪役ではなく、己の正義を信じて人斬りを仕留める老獪な武人を、完璧に全うしていたと思う。

画像5

雪山での死闘は美しかった。ロケーションは最高だ。展開もほぼ原作に忠実で、剣心と巴の薄命的な運命を演出しながら十字傷が生まれる過程を見せるには十分な画力だった。

有村架純と雪代巴

何より雪代巴である。間違いなく最終章の最重要人物で、この"追憶編"は巴を配役された有村架純に懸かっていた。言い過ぎでもないだろう。ここは作中でも絶大な支持を集めるエピソードであり、人気キャラクター。堀北真希が去った芸能界において、巴に適任な女優などいるだろうかと思った過去もある。けれど本作を見終えた今、巴は有村架純で良かったと心から思えた。そんな説得力を与えるにふさわしい存在感を彼女は確かに劇中で示している。

画像2

有村架純という女優はいつも哀しそうな瞳をしている。淋しそうな儚さをデフォルトで持っている。僕の彼女に対する昔からの印象はそうだった。それが今回、巴の消え入りそうな佇まいに完璧に導入されている。巴はミステリアスながら、ほんとうは人一倍慈悲深い。そんな雰囲気の再現にちゃんと成功している。少ないセリフを補う有村架純の視線の動き、瞳を揺らすように落とすところとか素晴らしかった。

巴の葛藤を慮るとたまらなく切ない。彼女の心の雪解けと移り変わり、またそれに反射する剣心の心模様。手紙が語った真実。誓いと約束。

この人は私の幸せを奪ったひと。そして、もうひとつの幸せをくれたひと。

セリフなんてほとんど無いものの、映画はしっかりと2人の想いを映像にしている。

画像3

「このエピソードをやりたかったがために、これまでがある」

佐藤健はインタビューでそんなふうに答えていた。言葉に偽りはなかったようだ。

裏と表、過去と現在。歴史は想いと真実を内包し、語り継がれるべきことを選びながら、狂気を孕んで刻まれていく。幸せも真実も、いつだってその逆と表裏一体なのかもしれない。

シリーズラストにふさわしい力作で、作り手と演じ手の想いの詰まった作品でした。

画像4


この記事が参加している募集

映画館の思い出

サポートが溜まったらあたらしいテレビ買います