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あの場所に戻りたい

大型家具センター。
 
入り口。
 
女性店員と老夫婦。
 
「本日はお買い上げ、
 ありがとうございました」
「こちらこそ、
 いい買い物が出来ました。
 家具は明日、
 自宅へ届けてくれるのよね?

 
はい。
 明日の13時にスタッフが、
 おうかがいします

「ほんと、いい買い物ができた。
 また機会があれば、お願いするわ」
 
「その時はまた、
 お申し付け下さい」

「じゃあ、行こうか?」
「はい。
 じゃあ、失礼します」
 
老夫婦は自分たちの車の方へ。
 
「本日は、ありがとうございました」
 
女性店員は深々とお辞儀じぎをした。
 
………。
 
………。
 
ガッシャーン!
 
「あらやだ!
 私ったら!
 大事なお皿!
「お前、何やってんだ!
 買ったばっかりだぞ!
 
「そんなこと言ったって…」
 
る女性店員。
 
お客様!
 それ危ないですよ!
 私の方で片付けますので、
 そのままで!

「は、はい」
 
「私、ちょっと道具を取りに行ってきます!」
 
店員は店内に戻り、
掃除道具を持ってくる。
 
サッサ…ガチャガチャ…
サッサ…ガチャガチャ…
 
「ごめんなさいねえ…
 私の不注意で…」
「いえいえ。
 お怪我がなくて良かったです」
 
「ほんと、ばあさんが済まないことを…。
 そうじゃ、皿を買ってこないと。
 ちょっと買ってくるから、
 お前はここで待ってなさい」
 
男性は店内へ。
 
「ほんと、ごめんなさい。
 余計な仕事を増やしてしまって」
「いえ、これも仕事ですから」
 
私、昔っからそそっかしくて。
 いっつも旦那にしかられてばかり。
 今日はあなたがいたから、
 おとなしかったのよ、きっと

「そうなんですか?
 でも、すぐに、
 お皿を買いに行かれてましたよ」
 
あれはカッコつけてるのよ。
 昔からそうなの

「そうなんですか。
 ご夫婦だと何でも分かるんですね」
 
男性が皿を買って戻ってくる。
 
「よかった…
 まだ同じものがあって…
 あっ!」
 
「あなた!」
「危ない!」
 
ガシャーーン!
 
男性はつまづいた拍子ひょうしに、
手をついてしまい、皿が割れる。
 
「ちょっと!
 あなた!」
「大丈夫ですか!?」
 
「アイタタ…
 お~いたっ。
 あ……大丈夫大丈夫。
 ちょっとりむいただけだ

 
「何やってるんですか、あなた!」
「いや、仕方ないだろ!
 つまづいたんだから!」
 
お二人とも、
 そこは破片があって、
 危ないですから…

 
「おっと…それは済まない」
「そうですよ。
 しっかりして下さい」
 
「すぐ片付けますね」
「ああ~いいよいいよ。
 私が割ったんだから、
 私が掃除をしますよ」
 
ついでですから。
 それよりお皿は、どうします?

「そうだ!
 皿を買わないと!
 もう1回行ってくる!」
 
男性は店内に。
 
「ほんとに、何回もごめんなさい」
「いえいえ。
 旦那さん、
 大した怪我じゃなくてよかったです」
 
あの人も結構、
 そそっかしいんです、ああ見えて

「そうなんですか?」
 
「たまに家事は手伝ってくれますけど、
 私はありがとうとしか言わないの。
 何か言ったらへそ曲げそうで
「何かあったんですか?」
 
「う~ん。
 してもらって言うのもあれだけど、
 買ってきてくれたカーテンが短かったり…
 
 ワックスをかけてくれたけど、
 ムラがあったり…
 
 昔はよくケンカしたけど、
 最近は気にならなくなったわ

「色々あるんですね」
 
「でも、そういうふうになるのよ…
 夫婦って…」
 
男性が皿を買って戻ってくる。
 
「いやいや、済まなかったね。
 何度も手間を掛けさせてしまって」
「いえ、大丈夫です。
 手は痛くないですか?」
 
「ちょっと薄皮がむけただけだ。
 大丈夫大丈夫。
 ほんとにありがとう。
 世話になったね」
「いえいえ。
 旦那様も何回も大変でした」
 
「おかげでいい買い物ができました」
「本当にありがとうございました」
 
こちらこそ。
 お買い上げありがとうございます。
 では、家具は明日の13時に、
 お届けに上がりますので、
 よろしくお願いします

「はい、こちらこそ」
 
「じゃあ、また何かあれば、
 買いに来ますので」
「はい、お待ちしております」
 
「それでは、ごめんください」
「よし、行くか」
 
車へと歩いていく2人。
 
入口付近で掃除用具を持ったまま、
その様子を見つめる女性店員。
 
「ちょっと、あなた!
 このお皿!
「ん?
 皿がどうした?」
 
これさっきのお皿と違うじゃない!
「そんなことはないだろ?
 わしは同じものを買ってきたはずだぞ!
 
「いいえ、違います!
 バラの縁取りだったのに、
 これはコスモスじゃないですか!?」
「バラ?!
 バラもコスモスも同じようなものだろ!
 
「違いますよ!
 全然、違います!」
「見た感じ変わらんだろ!」
 
「私は家にあるカップに合わせて、
 このお皿を選んだんです!」
「そんなのいいじゃないか!
 花は花なんだから!
 そもそもお前が割らなかったら、
 こんなことにはならなかったんだぞ!

 
それはあなたも一緒でしょ!
 あなたも割ったんですから!

 
「いや、そもそもお前が最初に…」
 
「いえ、あなただって…」
 
………
 
………
 
………
 
(ああ~これは…
 修復に時間がかかるパターン?
 
 そして…
 何なんだろう~。
 
 これって日本では…
 どこでもやるよね~
 
 お見送りシステム…
 
 よくやってるよね~
 お客様が見えなくなるまでってやつ…。
 
 私はこの場合…
 どうしたらいいの~。
 
 お願い~
 早く仲直りして帰って~。
 
 でないと私、
 現場に戻れないんですけど~

 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。 

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