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まつ子の知らない記憶

テレビで感動したという安っぽい話です。マツコの知らない世界に割ととんでもない経歴の方が出ていた。ヘッダ画像をお借りしています。

#やさしさに救われて

おかまといえば昨今では素人をいじってしまう芸が主力となってしまっていた。それは当該番組はどうしても素人しか呼べないし、おかまの特技はふんぞり返ってるタレントと互角以上に渡り歩くこと(本人がそう望んでいるかどうかとか、市場がおかまに求めているものとの乖離とかには言及しない)だから、それを伸長してやればもっと面白くなるだろう、みたいな制作の方針みたいなものは想像できる。

むしろ逆に当該番組にプロフェッショナルとして同業者が出た場合、過剰に優しくするという謎矛盾が起こり得ていて不思議に思うが、別にそれがぼくが救われた優しさではない。

ぼくが救われた優しさとは広島風お好焼きについて紹介した人の待遇について。この人は記憶喪失者だった。つまり本題である広島風お好焼きについてよりも大きな背景をこの人は抱えていると捉えられてもおかしくないのだった。

本人が記憶をたどるために記憶を失う前の行動をトレスしていらっしゃる。それもあり、ぼくは個人情報保護の観点からテレビに出たとはいえ一般の人の名前を書くことには抵抗があるんだけど(悪意があろうがなかろうがデジタルタトゥだからだ)例えばテレビを一切見たくねえけどnoteは観るよ、みたいな層に訴求するため(もしかしたら彼のことを知っている人がここにいるかもしれないから)実名を書かせていただきます。井上龍也さんという。

彼は記憶をなくす以前の人生において、広島風お好み焼きを好んで食べていたらしい。インスタか何かにはちょうど250回目のお好み焼きを食ってるシーンが投稿されていた。

そこで記憶をなくしたあとの彼が、じゃあ俺も広島風お好み焼きを食ってみっかと試したところ、ガチでうまかったらしい。体も精神も、広島風お好み焼きに対するコンセンサスやエンゲージメントをまるで失っているはずだけど、彼の広島風お好み焼きを感じるための受容体は変わっていなかった。

人格とは―――もしそんな事が起こってしまうのであれば仕方ないとは思うけど―――、あるAさんという人のなかに1という人格が50歳まで備わっていて、51歳になった瞬間に2という1とはまったくことなる人格が切り替わるように新しく芽生え、1がどこかに消え去ってしまったのであればそれは別人と呼ぶほかないぐらい、人間という生き物に否が応でも寄与する成分であると思えます。

特筆すべきは彼のバイタリティ、タフさにもあるように思える。「記憶をなくした、じゃあ」といって以前の行動記録を「手がかり」にしようと思えて実行するなんてタフだと思う……が、(以前の自分から)遺されたものがそれしかないのであれば、同じことをするのかも知れない。ぼくは彼ではないので、第三者的に一方的に客観的に想像を広げるのは下衆でしかない。

斯様な下地もあるからか、当回のおかまは寛容である。

井上さん自身が恐ろしく低姿勢であり、こちとら記憶をなくしとるんじゃ然とした風体で来てもおかしくはなさそうなものの(とはいえ、実際そう来たら視聴者様は非難轟々なのだろう。ぼくもそうならない自信はない。自分を棚に上げるがくそみてえな世の中だ)、最後のシーンでは眼前に運ばれたお好み焼きをおかまが当然先に食ってるのに自分も食べ始めていいかをわざわざ問うた。

いつものおかまならしょうもないいじり方をしたかも知れないが、お茶とかちゃんとある?みたいな気遣いを見せる。そしてこの後が更に驚いた。

食べ始めた彼をおかまがずっと見つめていて、真面目な一言を言った。制作側は茶化そうと思えば茶化すテロップなり演出なりができただろうが(テレビ番組的な文脈でひとまず場を受け入れる的な「おぉー」という裏方のどよめきが入ったが、自発的なものと理解しておく)、しなかった。ぼくはおかまがガチ泣きするところなんて見たことがないんだけど(涙も枯れるような壮絶な他人の体験を間近で見ていたのだろう)、このときのおかまは少し言葉に詰まっているように見えた。それも演出に過ぎないのだと言われれば、それはそれでぼくが純粋な生き物である証左になるわけでどちらでも良い。

ぼくはこの番組が好きだけど、わざわざ観るための時間を作ってまで観ようとは決してしない。

つまりこれは縁である。ぼくが心の師としている中山がお好み焼きを褒めており、また別の業界ではお好み焼きをして完全食であるという評価があることもありぼくはお好み焼きがかなり好きなわけです。だから観ようと思った。

イギリスのスナックが広島風お好み焼きをべた褒めしたけど、それも前の首相が左遷されなかったら起こり得なかったのかも知れない。前の金髪おばちゃんがG7サミットに来ていたらイギリスでお好み焼きが注目されただろうか?アジアにルーツを持つイギリス人が首相にたまたまなってからサミットが開かれ、開催地がたまたま広島だった。もしかしたらスナックは自分がルーツを持つ経済圏の食べ物をなんとしてでも食わんとする趣味があったのかも知れない。それを導いたのは縁以外に何があるんだろう。

ただの偶然だと言われればそれまでなんだけど。

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