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文月悠光 詩と朗読ムービー

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詩の朗読の音声・動画をまとめています。YouTubeに再生リストがあるので、併せてどうぞ⇒https://www.youtube.com/playlist?list=PLnijS… もっと読む
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2021年9月の記事一覧

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季節の終わりから
こぼれてしまうことを恐れないで。

 *

星は誰かに見つけられて、光を教わる。
光はまだわたしを照らしているか?
その答えは足元にある。
地に影が伸びるのは、
光がわたしを見つけた証。
わたしは影と共に歩きながら、
かつて手を結んだもう一つのかたちを
自らの影に探し求めた。

忘れ去られた花にも花の役目がある。
人知れず果たしてきた人生の責務。
闇夜の気配に振りかえると 木々は

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大事なものを遠ざけて生きることに、
ほんとは慣れてしまいたくなかったよ。
閉ざされた扉と 揺れる貼り紙、
風に鳴るシャッターとギターの音色、
西日の中、うつむいて歩き去る人たち。
この街のどこかに きみもいるのかな。

知らない誰かが決めた正解で、
見えざる評価、見えざる手によって
わたしの人生も操作されてきた。
慣習に立ち向かうか、いっそ身を任せるか。
人によっては一生考えずにすむ選択を
必死に

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夏の亡骸をつかんで
心を決めるためにペダルを踏んだ。

 *

嵐のような雨上がりの朝に
からだの熱が揺らめいた。
潤っていく空気と、絶え間ない呼吸。
飛び出しそうな鼓動の近くで
みずいろの静けさを焦がす。

制服姿の小鳥たちが巣立ったあと、
学校は抜け殻のようにきれいだった。
鳥たちは迷うことなく空へ
大きく波を描き、光を渡っていく。
スカートの影がながく伸びて
わたしを切なくさせる。
制服の魔

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立ち上がるときは
ひとりの方がいい。
だれかと足並み揃えるよりも
裸足で無防備にさらされること、
その贅沢を足裏で味わうために。

立ち上がるときは
ひとりの方がいい。
海辺を わたし一色に染めるため。
空が晴れるのを見計らっていたら
日が暮れて取りのこされる残骸の身。

もう長いことうずくまっていて
立ち方がわからなくなっていた。
わたしだけが低い目線で、
なすすべもなく世界を仰ぐ。
みんなが走

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どこかに行き着くまでは
わたしも名も無きひとりです。

 *

その朝に名前はなかった。
キオスクに並ぶ雑誌の表紙だけが
あざやかに様変わりしている。
輪っかのかたちの路線図を見上げれば
日々は電車のように駆け入ってくる。
開くドアへ足を向けるのは、
わたしの顔をした誰か。
肩を不自由に扉に押しつけて
もうすこし
ここに触れていたいと願う。

あなたも わたしも鮮明ではない。
それぞれが違う現実を

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