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文月悠光 Fuzuki Yumi
2021年9月25日 13:44
【朗読】秋の光を招いて
文月悠光
季節の終わりからこぼれてしまうことを恐れないで。 *星は誰かに見つけられて、光を教わる。光はまだわたしを照らしているか?その答えは足元にある。地に影が伸びるのは、光がわたしを見つけた証。わたしは影と共に歩きながら、かつて手を結んだもう一つのかたちを自らの影に探し求めた。忘れ去られた花にも花の役目がある。人知れず果たしてきた人生の責務。闇夜の気配に振りかえると 木々は
2021年9月25日 04:30
【朗読】夏空に署名して
大事なものを遠ざけて生きることに、ほんとは慣れてしまいたくなかったよ。閉ざされた扉と 揺れる貼り紙、風に鳴るシャッターとギターの音色、西日の中、うつむいて歩き去る人たち。この街のどこかに きみもいるのかな。知らない誰かが決めた正解で、見えざる評価、見えざる手によってわたしの人生も操作されてきた。慣習に立ち向かうか、いっそ身を任せるか。人によっては一生考えずにすむ選択を必死に
2021年9月25日 04:28
【朗読】ネモフィラ
夏の亡骸をつかんで心を決めるためにペダルを踏んだ。 *嵐のような雨上がりの朝にからだの熱が揺らめいた。潤っていく空気と、絶え間ない呼吸。飛び出しそうな鼓動の近くでみずいろの静けさを焦がす。制服姿の小鳥たちが巣立ったあと、学校は抜け殻のようにきれいだった。鳥たちは迷うことなく空へ大きく波を描き、光を渡っていく。スカートの影がながく伸びてわたしを切なくさせる。制服の魔
2021年9月25日 04:05
【朗読】立ち上がるときは
立ち上がるときはひとりの方がいい。だれかと足並み揃えるよりも裸足で無防備にさらされること、その贅沢を足裏で味わうために。立ち上がるときはひとりの方がいい。海辺を わたし一色に染めるため。空が晴れるのを見計らっていたら日が暮れて取りのこされる残骸の身。もう長いことうずくまっていて立ち方がわからなくなっていた。わたしだけが低い目線で、なすすべもなく世界を仰ぐ。みんなが走
2021年9月25日 03:56
【朗読】朝の名前
どこかに行き着くまではわたしも名も無きひとりです。 *その朝に名前はなかった。キオスクに並ぶ雑誌の表紙だけがあざやかに様変わりしている。輪っかのかたちの路線図を見上げれば日々は電車のように駆け入ってくる。開くドアへ足を向けるのは、わたしの顔をした誰か。肩を不自由に扉に押しつけてもうすこしここに触れていたいと願う。あなたも わたしも鮮明ではない。それぞれが違う現実を