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【連載・番外編】八百屋でお料理大作戦!

 cakesで連載中の〈臆病な詩人、街へ出る。〉第4回「八百屋で試される勇気」で端折った番外編を、写真と共にお届けします。
第4回の無料公開は3/3(木)までです。ぜひセットでご覧ください。
https://cakes.mu/posts/12333

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 初めての八百屋から帰宅した私は、購入した野菜をチェック。一人暮らしのワンルームで、白いかぶの肢体を並べて野菜の撮影会だ。
 1Kの部屋には、まな板を置くのがやっとのスペース。やむなくガスコンロの上で、撮影を決行。

 ちぢみゆきなを茹でるため、鍋に湯を沸かす。その間に昆布かつお出汁を準備。えっ、出汁用の昆布って10分水に漬けたあとに、30分も煮るの? とレシピ本を手に驚く。
 半信半疑で実践。昆布とかつお節を取り除き、おたまですくって出汁を味見する。
「おいしい…!」
 滑稽なようだけど、心底驚いた。化学調味料とは香りが違う。

 ちぢみゆきなは刻んで、茎の方から先に湯の中へ。かぶは皮をむいて、くし切りに。かぶが大きいため、りんごの皮むきをしているような心地だ。

 新鮮そうなかぶの葉も刻んで鍋へ。ニラは存在感が強くなりすぎないように、葉先の方を少しだけ。豆乳と味噌を加えて、かぶが煮崩れない程度にもうひと煮立ち。

 スープを煮立たせている間に、ちぢみゆきなと油揚げのおひたしを冷ます。

 出来上がった料理を配膳。「よく見せたい」という自意識と葛藤しながら、黙々と料理にシャッターを切る。
 下の写真は、苦労の末に生まれた「奇跡の一枚」である。

 さてお味のほどは……本編( https://cakes.mu/posts/12333 )で詳しく綴っています。

 明くる日、私は友人と横浜のカフェでランチを食べていた。
 肥大化した自意識は恐ろしい。彩り豊かなランチプレートを前に、私は
「昨日、初めて八百屋に行ったんだ」と告白した。

「えっ、初めて!?」「うん! それで、野菜スープを作ったの」

「一人で!? 誰か食べてくれるとかではなく?」

 友人に畳み掛けられ、苦笑する。スープをすする私の前にいたのは、「上出来だね」とやさしく微笑む恋人……ではなく、締め切りのスケジュールを貼り出した白い壁だった。

 家の冷蔵庫にはまだ、大きなかぶが残っている。今度は、鶏肉とニラと油揚げも加えて、出汁の効いた煮物を作ろう。

 鍋の中、あの子はいったいどんな姿になるだろう――。友人の憐れむ視線を感じつつ、私は白い膝を崩したかぶの姿をうっとりと夢想していた。

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◎記事の本編はこちらです!
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cakes連載〈臆病な詩人、街へ出る。〉
▶︎第4回 八百屋で試される勇気
https://cakes.mu/posts/12333

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