見出し画像

大地讃頌 〜酒呑みの譜〜

おらほは代々酒呑みでった。爺様もひい爺様もひいひい爺様も農家で酒呑みだ。一日汗を流して働いて、晩酌には日本酒を飲む。農作業ができない冬の間、杜氏として出稼ぎに行っていた先祖もいた。

ビールも少しは飲むけど、基本的に酒っこ呑みといったら日本酒の人達だった。米どころの爺様達はみんな日本酒を好んで飲む。

郷酒は日本酒のお店といっているように、日本酒にもこだわっている。コンセプトとしては、“日本のお酒”だけど、日本酒に対する思い入れは強い。焼酎やワインも大好きなんだけど、ご縁と繋がりということで、日本酒のお話をさせてください。

お米作りには八十八の手がかかると言われるように、お米を作るだけでも相当な手間がかかる。それを、さらに日本酒にするとなると、お米を洗って、蒸して、発酵させて、濾してとさらに沢山の手間、行程が必要だ。

今は機械化や効率化が進み、合成酒などもあるし、吟醸や本醸造など種類も沢山あるけど、純粋な純米酒のような日本酒は、本来沢山の人々の手間ひまがぎゅーっと凝縮されたすごい飲み物なのだ。

古来からお酒が神聖なものだったのには、いくつかの理由もあるけど、これだけ人の想いや手間が関わるのだから、なんて大変なことだ。

私の故郷は南部杜氏の里と言われている。先祖も南部杜氏だった。米や野菜を作り、時には日本酒も作り、それらの大地の恵みをありがたくいただきながら、先祖代々暮らしてきた。

だから、なんだか私は日本酒からは離れられない、と思った。

私を育んでくれた、お米、そして今、なくてはならない存在の日本酒。

母なる大地からやって来た、この恵みに本当に感謝している。

まさに、〜母なる大地よ、嗚呼、讃えよ大地を、嗚呼〜と叫びたいところだ。

料理人として働き出して、お世話になっている酒屋さんで『酔右衛門』に出会った。蔵元さんから地元で売られているのとは銘柄が違ったが、実はその頃代替わりして、新しく始めた、今の蔵元さん渾身の銘柄だった。

地元のお酒が東京で飲めて、評価されて来ているなんて、なんて素敵なご縁なんだ、と思った。

南部杜氏のお酒は淡麗で旨口と言われていた時に、酔右衛門はしっかりした旨味とフレッシュな酸味を感じさせる、味はあるのにキリッと飲みやすいお酒だった。日本全国色んな杜氏の流派があり、西の方にはあったけど、私は、こんな地元のお酒を飲んだことがなくて、一気に虜になり、同時にとても嬉しかった。

ビールやサワー、カクテルから、ステップアップして、日本酒を飲み始めた頃。まだどんな味が好きかよくわからなかったけど、『日本酒好き』を公言して、心に響く味を探しているところだった。まさか、そんな出会いがあるとは思わなかった。

そして、ありがたいことに、酔右衛門は小さな酒蔵さんなのに、今はどんどん人気もでて、飲んだお客さんはみんな喜ぶお酒になっている。

そんなこだわりの、魂込めて酒を醸す蔵人さんは全国に沢山いらっしゃるだろうから、どこが一番とか、正解!とかじゃなしに、皆さんすごいなぁと思うし、その職人気質を尊敬している。

普段、飲兵衛で食いしん坊な料理人であるわたしは、日本酒も、料理と楽しんで欲しいと思って、お酒に合うような料理を考えてお出ししている。しかも、ざっくばらんに楽しんで、味わってくれればそれで幸せじゃないか、と。そんな皆様のお手伝いが出来れば良いなぁ。

フレンチなどでは、ワインとのマリアージュとか、テロワールとかにとてもこだわりや考え、伝統や歴史があるけど、日本酒でもやはりその土地のお酒にその土地の郷土料理や食材は合うなぁと個人的に思う。同じ大地から生まれ育ったものはやはり相性が良い気がする。杜氏さんの食の好みももしかしたら酒質に反映されているのかもしれないけど。

とはいえ、チーズもフルーツも日本酒にあうし、珍味やお魚は言わずもがなだし、おひたしだってお豆腐だって、お肉だって美味しくあわせられるから、ホント懐が広い。

農家も酒蔵も後継者不足に悩んでいる。人は自然を離れたら生きていけないのに、どんどん地方の過疎化が進む。そういう私も都市生活者だし、私はここで何が出来るんだろ。今は応援し、関わり続けるしかできないけど、美味しいお酒、美味しい食材をいつまで扱えるだろう。

まずは、どうか、飲み放題だからって、沢山頼んで残すみたいな粗末な飲み方はおやめくださいね。もったいなくしないで、美味しく飲んでけろ。

日本酒のあて レシピ

画像1

・いぶりがっこチーズ

クリームチーズ50gにいぶりがっこスライス5枚分くらいを小角切りにきって混ぜる。ブラックペッパーを振り、クラッカーなどにのせて食べる。

いぶりがっこを干し柿やあんぽ柿に置き換えてでもおすすめ!!






おいでくださりありがとうございます。 不器用な料理人、たぬき女将が季節の食材、料理、方言にまつわるよもやま話を綴っています。おまけレシピもありますよ。