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【ティール組織検証#7】「ティールは正解じゃない。組織のフラット化と混乱、そしてその先へ」組織改革リアルストーリー

2018年2月にヒエラルキー型からフラット型組織へと移行するプロセスで生まれた生々しいリアルストーリーを、当事者たちへインタビューしながら全7回で発信しています。(Work Story Award 2018「W学長賞」受賞ストーリー)

こんにちは!編集部のしのぶんです。
前回に引き続き、ヒエラルキー型→フラット型組織に変革したリアルストーリーの最終回(第7回)をお送りします。

今回は、#6「経営会議を全社員にライブ配信してみた」の続きで、社内での「情報の開示」が進み、経営会議のライブ配信や会議自体の廃止が実行された後、急速に進んだ組織のフラット化とその後についてのストーリーです。

▼組織改革リアルストーリーの#1〜#6バックナンバー

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〈いよいよマネージャーを廃止してフラット化!社長が意思決定から退いた〉

組織のフラット化を実際に提案、主導した安部に話を聞いてみました。

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安部 孝之
2005年、株式会社ワークスアプリケーションズ入社。当時最年少で社長賞を受賞し、在籍7年間で営業、新規サービス開発、広報を経験。その後、2012年にgCストーリー株式会社入社。営業、人事、広報、事業部門にて責任者を歴任。2018年11月よりエグゼクティブフェローとして広報や新規事業開発に携わりながら、宮古島にてグランピングリゾートの企画開発運営を行う株式会社RuGuの創業に参画し、取締役に就任。東京と宮古島での2拠点居住&ダブルワーク&リモートワークに挑戦中。

ー組織のフラット化とは、具体的に何を行ったのですか?

安部:
前回の記事で経営会議がオープン化、廃止されるプロセスの中で、役員の中では「マネージャーという役職は廃止していく流れだよね」という議論は既に起こっていました。GCは1月が決算月なので改革を行うなら2月が切りがいいだろうということで、2018年2月からマネージャーを廃止して組織をフラット化しましょう、と僕から提案しました。

具体的には会社法上必要な役職や決議プロセスのみ残して、

・社長が意思決定から退く
・マネージャー職の廃止
・ゼネラルマネージャー1名〜数名が事業部、管理部にそれぞれメンバーのサポートとして付く
・コミュニケーションツール「Slack」の導入
・承認ルートを「メンバー→マネージャー→ゼネラルマネージャー→社長・常務→役員会」というものから「メンバー→Slack上でアドバイスプロセス(課題確認型)→役員会」に変更
・数字が関わらなければ各自の自己判断でOK

というような形に改革しました。

特に、コミュニケーションツール「Slack」の導入は組織のフラット化には欠かせなかったです。メールやLINEでバラバラとやっていたやり取りがSlack上に集約され、ちょっとした雑談から数字関連の把握や相談まで、チャットのように気軽にできるようになりました。もともと#5「議論と意思決定がフラットになるまで」でも書かれているように、メンバーの内発的動機を重視したアドバイスプロセスを導入していたので、そのスタイルとSlackというツールがうまくマッチして、社内コミュニケーションが劇的にスムーズになりました。

▼Slack導入の詳細はこちらの記事を参照

ー大きな改革ですね。カリスマ性が強く社内でも父親のような大きな存在感があった西坂社長が意思決定から退くというのは、社内にとってとてもインパクトがあったことだと思います。社長は具体的にどのようにして意思決定から退いたのでしょう?

安部:
社長の西坂は「自分が社内にいるとどうしても影響を与えてしまう」と考え、物理的に会社から離れるという選択をしました。自らの直感に従って全国をまわり、宮城県女川町の魅力に強く惹きつけられてそこで多くの繋がりを作り、現在は女川町との繋がりから新規事業が生まれています。

▼女川プロジェクト参考記事

社長として会社をある程度育てていると、だんだんと現場から離れざるを得ず、本当にやりたいことからは遠ざかってしまうことも多いんですよね。でもこのプロセスを通して、西坂自身が本当にやりたいことに再び打ち込めるようになり、また起業家に戻ることができたように見えました。

〈フラット化2〜3ヶ月後に大混乱。急進派と保守派の対立とその対応〉

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ーこれまでリアルストーリーでお聞きしてきた小さな変革は1つの部署の中だけであったり、役員会の中での話だったりと、社内全体ではそこまで大きなインパクトのある内容ではなかったと思いますが、この「マネージャー廃止」という改革は全社員に直接大きな影響のある改革だったと思います。社内ではどんな反応が起こったのでしょう?

安部:
だいぶ混乱していたと思います。メンバーの大多数はフラット化への改革には好意的な印象を持っていましたが、「マネージャー、メンバー」という役割の中でやりがいを持っていた社員がいたのも事実でした。その声がうまく拾えておらず、「新しく改革を進めていきたい」急進派と、「改革を急いで推し進めたくない」保守派に分かれてしまいました。

そういった対立関係を調整する機能を持ったマネージャー職が既に廃止されていたため、思いやりや信頼関係を大切にするカルチャーを持つGCでも、声の大きい人が強くなってしまったり、自らの正しさを主張し合ってしまったりと、ギスギスした空気が続きました。特に改革後3ヶ月くらいが経った5〜7月あたりは不満が一気に噴出して、改革のひずみが浮き彫りになった時期でした。

ーその混乱は、フラット化を主導した安部さんにとっては辛かったのでは...?

安部:
辛かったですね。思ったよりすぐには自由闊達な雰囲気にならず、かといって仲介に入る権限もなく、各自がそれぞれのレイヤーでものすごく悩んでいたと思います。何かに没頭していないと辛かったので、その時期はひたすら漫画の「キングダム」を読み続けていました(笑)3周くらい読んだかな(笑)「これで良かったのかな」という葛藤が消えなかったですし、その葛藤は正直今でもあります。

ーキングダムを3周も!辛い時期でしたね...。その混乱に対してはどんな対応をされたのですか?

安部:
フラット化して権限がなかったので、ただ見守ることしかできませんでした。当時は変革したばかりで「フラットであらねばならぬ」という極端な意識も社内で広がっていたので、前マネージャー陣も何もできずもどかしい思いをしていたと思います。みんな、どうしたらいいか分からなかったんですよね。でもそこは時間をかけて少しずつ、各自が自ら考えて必要なことを必要だと思った人が徐々にやっていくようになっていきました。

「マネージャーがいるメリットデメリット」も廃止してみて見えることが多かったですね。マネージャーがいないと、指摘してくれる人も止めてくれる人もいないですから。各自が不安を抱えながら、少しずつ手探りで自分なりの答えを見つけていきました。

とにかく時間はかかりましたが、会社が立ち行かなくなるとか、大赤字になるとか、人が大量に辞めるとか、そういったネガティブなインパクトは無かったです。むしろ、社内で自発的なプロジェクトが増えたり、不要なミーティングが減ったりと、ポジティブな結果もたくさん得られました。

〈ティールじゃなくてグリーンティー?組織のフラット化を経て会社がコミュニティ化した〉

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ーもともと「ティール組織を目指そう」として組織のフラット化を進めたのですか?

安部:
改革の半年ほど前に『ティール組織』解説者の嘉村さんに何度か来社していただき勉強会をしましたが、その中で「『ティール組織』という本には多くの事例は載っているが、ティール組織自体に答えや明確なメソッドがあるわけではない」ということを学んでいたので、「ティール組織を目指す」ということはしなかったです。ティール組織は目指すものじゃないですし、正解があるわけでもないですから。

ですので、ティール組織以外にもホラクラシーや発達指向型組織など、さまざまな組織論を参考にしつつ、『ティール組織』の3つの柱(パーパス、セルフマネジメント、ホールネス)も参考にして、GC独自のカルチャーを生かす形で新しいモデルケース企業の1つになろう、という意識で改革を進めました。

結果的には、GCが持つ強い特徴である「超家族型で、人と人とのウェットな繋がりを大切にするカルチャー」を残しながら縦の階層を廃止したフラット型組織を実現したことで、会社というよりコミュニティのような雰囲気が強くなったように思います。この社内の雰囲気を見て「グリーンとティールの間みたいだから、グリーンティーだね!」と社外の人に言われたことがあり、それから「グリーンティーです」と言うようになりました。フラット型組織は割とドライな印象の強い組織が多いですが、GCでは家族的なウェットなカルチャーを残したまま実現できたことで、1つの新しいモデルケースになれたのではと思います。

ーグリーンティー!面白い表現ですね。フラット化とその混乱を経て、今はどんな感じで組織運営されているのでしょう?

安部:
それが、時間をかけて各自が答えを見つけていった結果、変わっていない部分も多いんです。事実上のマネジメントのような役割を担っている人もいる。でも、改革以前の「役職として権限を持ってやる」というものではなく、各自が葛藤し模索する中で、自分の特性に合った役割を見つけ、それを自然にやっているという感じです。

マネジメントが得意な人はマネジメントを担い、数字をしっかり見たい人は数字を追いかけるグループを立ち上げ、事業でしっかり数字を上げたい人はそこに集中する。今までは縦の階層の中で与えられていた役割だったものが、自然発生的に個人の特性で選べるようになり、それで自然とうまく回る。外から見たら改革前と形はあまり変わらないかもしれませんが、現場にとってはとても大きな変化だと思います。

〈まさに冷戦...当時急進派と保守派の間で苦しんだ社長秘書〉

社長秘書という、会社全体を俯瞰して見られる立場にいる甘利に、当時の混乱について聞いてみました。

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甘利 友紀
2014年新卒入社。プロジェクト部に配属され全国規模の施工プロジェクトを担当。子会社へ出向し、新規事業開発やWEBマーケティングの業務に従事。2016年に戻り、施工事業のプロジェクトリーダーを複数担当。2018年から社長室へ異動し、社長秘書・社内教育制度の開発整備・社外向けの組織開発事業等を兼任している。

ーフラット型組織に変革したことで社内に大きな混乱が生まれたと聞きましたが、社長秘書という立場で全体を見るポジションにいたことで、何か葛藤などはありましたか?

甘利:
当時急進派と保守派で社内で意見の対立が起こったのですが、立場的にその間に立つこともありました...。まさに冷戦でした(笑) どっちの主張も聞いていて、どっちの言うことも共感できる。大好きなGCで対立が起きてしまっていることが、当時はすごく悲しかったです。

みんな、目指しているゴールは一緒なんです。「みんなにとって幸せな組織を作りたい」という根底の思いは一緒なんだけど、そこにたどり着くプロセスやスピードが違って対立が起こっていた感じでした。

あとは、GCでは社員同士で過去の経験から深い価値観までたくさんのことを共有するカルチャーを大切にしているからこそ、「深いところで分かっているから」とあえて言語化せずうまく対話ができないというコミュニケーションロスも起こっていたんじゃないかと思います。

〈「気づいた人間がやるしかないんだ」という社長の言葉に勇気付けられた〉

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ー辛い立場でしたね...。急進派と保守派の間に立ち、どうやって葛藤を乗り越えたんでしょう?

甘利:
どっちの意見にも共感できるし、対話が必要なのは分かったのですが、当時の自分はなかなか一歩を踏み出せませんでした。その胸の内を社長の西坂に相談した時、「気づいた人間がやるしかないんだ。足りないのは甘利ちゃんの勇気だよ」という言葉をもらい、後押しされました。

一番混乱の大きかった5〜7月が過ぎた夏頃、少しずつ冷静に話せそうな雰囲気になってきたので、社長を交えて対話の場を作り始めました。

ー対話の場づくり、とても素晴らしい取り組みですね。社長は社員とどのような対話をしたのですか?

甘利:
西坂はただただ話を聞いていたんだと思います。縦の階層から自由になったからこそ、それぞれの社員が「自分なりの正しさ」を主張していた状況だったので、西坂は「正解はない」というメッセージと「自分で自分の正しさを疑う」姿勢をもってそれぞれの社員と丁寧に対話を行なっていました。

そうすることで、自分の正しさをちょっと脇に置いて、「全体としてどうするのが一番いいのか」という視点で少しずつ対話ができるようになっていったように思います。あとは、やっぱり思いやりですね。GCで大切にしている思いやりの精神で、対立から少しずつお互いの理解に向かっていきました。

〈その時、社長の西坂が考えていたことーあなたは正解だよ。だけど相手も正解なんだって受け入れよう

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西坂 勇人
1971年大分県生まれ、宮城教育大学卒業。2005年サイベイト株式会社(現gCストーリー株式会社)を設立、代表取締役社長に就任。全国4,300社の施工会社ネットワークとITを活用しチェーン本部、メーカー向けの看板・販促施工事業を開始。その後、介護事業、エネルギー事業も展開。“成長と貢献”という考え方を軸に、幸せな組織づくりを探求。

GCの社内って基本的にはいつもお互いを尊重する雰囲気に溢れていたのが、当時は見事にギスギスしていました。

今まで大家族主義という言葉を標榜して、鬱陶しいくらいに愛で関わるマネジメント、理念経営を大切にしてきたGCが、時代の変化に伴って従業員の幸福を実現するためにも一人ひとりの自立、自分の意志を発揮し、相互に新しい形の補完関係を持てるようにする為にフラットな組織を目指しました。

経営の大前提は常に「従業員の幸福」であることは変わっていません。
そして、その思いからぶれない事はみんなが理解してくれていると確信していましたので、最終的にはおかしなことにはならないという信頼は強く思っていました。

久しぶりに帰ってみると、「多少苦しんででも自立せよ!」というお父さん的な幸福の追求スタイルと、「とはいっても、無責任に投げ出して苦しんでいる姿を見ているのは違う、我慢できない」というお母さん的な幸福の追求スタイル、そして、「何もしなくても全ては上手くいく、みんなを信じてる」という神のスタンス(笑)の幸福追求スタイルが混在していました。

それぞれがアイデンティティそのものとも言える愛のスタンスでいる中で、お互いを気遣えるがゆえに、アイデンティティの否定とも言える葛藤を抱えていました。

みんなが自分のアイデンティティを乗せて相談に来る(来てはいけないと思いながら来ていることもひしひしと感じる)時に、どちらの側にも立ってしまうと、違う立場の人間の張り詰めていた気持ちが折れてしまいそうな雰囲気でした。祈るような気持ちでした。

「あなたは正解だよ。だけど相手も正解なんだって受け入れよう」という想いを込めて、「幸福の追求」というこれまでの経営の大原則に、「正解はない」というメッセージを追加して社員と対話をし続けました。

〈考えさせられる「幸せな組織」のあり方ー株式会社eumo新井社長より〉

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新井和宏(あらい・かずひろ)
 株式会社eumo 代表取締役
 ソーシャルベンチャー活動支援者会議(SVC)会長

1968年生まれ。東京理科大学卒。1992年住友信託銀行(現・三井住友信託銀行)入社、2000年バークレイズ・グローバル・インベスターズ(現・ブラックロック・ジャパン)入社。公的年金などを中心に、多岐にわたる運用業務に従事。2007~2008年、大病とリーマン・ショックをきっかけに、それまで信奉してきた金融工学、数式に則った投資、金融市場のあり方に疑問を持つようになる。2008年11月、鎌倉投信株式会社を元同僚と創業。2010年3月より運用を開始した投資信託「結い2101」の運用責任者として活躍した。2018年9月、株式会社eumo(ユーモ)を設立。
著書『投資は「きれいごと」で成功する』(ダイヤモンド社)、『持続可能な資本主義』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『幸せな人は「お金」と「働く」を知っている』(イーストプレス)、『共感資本社会を生きる』(共著・ダイヤモンド社)

人は幸せになるために生きる。ハーバードビジネススクールが75年間研究して分かった「人が幸せになるための条件」は、「良好な人間関係」だそうです。組織の形に変化が生まれれば、新たな関係性が生まれます。変化のエネルギーによって作られた新たな関係性が衝突を生み、今まであった幸せな関係性から乖離していきます。「変えなきゃ良かった」、そんな声が聞こえていても、前に進むしかありません。後には戻れません。なぜなら、その衝突は一つの進化の過程だからです。生きている以上、安定的なものなど存在しません。

しかし、人には「安定的になりたい」という欲求があります。安定的になればパターン化でき、脳が休む時間を確保できます。反射神経的に動けるからです。これが硬直化すると人は考える力を失います。

残念ながら万物は流転します。外部要因としての経済や天災が抵抗もできないような新たな環境を生み出し、内部要因としての人間関係や評価が動き続けます。「バランスボール(=外部要因)の上で片足を上げて(=内部要因)ください」と、しかも「長い間(=期間)」と言われているようなものです。そう考えると、「安定的に止まっていられる」というのは、幻想なのかもしれません。

過去の経験則では通用しない時代に、過去の経験則である「これまでの幸せの形」にこだわり続けることは、淀んだ水になる可能性があります。

常に変化しているという現実を受け入れる。そして新たな均衡点を見出し、いつの間にか次のステージにある「新たな幸せの形」が生み出されていきます。

ヒエラルキーでない組織に変わって行くということは、「個」が強くなっていくということ。SNSの発展や複業の増加などを考えると、「組織」よりも「個」が優先される時代に入りました。この時代に必要なのは、わがままな個にならないための、「自律」と「共同体感覚」。人間の進化が求められています。そして、GCストーリーは進化し続けているということを感じました。

〈編集後記〉

2016年から始まり、約2年をかけてヒエラルキー型組織からフラット型組織に移行したストーリーを、全7回に渡ってお送りしてきました。組織改革の道のりは決して平坦なものではなく、また組織のカルチャーや歴史、その時の構成メンバーの特徴、時代の流れによってもさまざまであり、「これが正解」というものはありません。

このストーリーは、家族的なウェットな繋がりを大切にしてきた、平均年齢28歳、80人規模、「社員の幸せ」を一途に追求し続けた一企業の組織改革ストーリーです。今後「組織改革をしたい」「フラット型に変えていきたい」「ティール組織に移行したい」といった企業や組織の担当者様にとって、事例として何かのお役に立てば幸いです。

少しでも「幸せの輪」が広がり、そこに貢献していけますよう、GCストーリーはこれからも進化し続けます。最後までお読みくださり、本当にありがとうございました。

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取材・文・構成・編集・デザイン/蓮池 しのぶ 撮影/熊谷怜史


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