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初恋【エッセイ】

昭和53(1978)年10月のとある土曜日の午後のこと。
僕の中で初恋の定義について定かではない。だがなんとなくではなく、“好き“という感情が芽生えた相手と出会ったのはこの日。
だから、これが僕の“初恋”だと思う。
ただ、“片想い”で実ることのない恋なので“初恋”とは言えないのかも知れないとその時は思っていた。
中学生のころ、交際していたのかどうかよくわからない相手は数人いて僕自身恋愛感情を持っていなかったので、このころのことは“交際”ではなく“交流”があったと認識している。
特にそのとき“彼女”が欲しいとも思っていなかったので何故こんなことに
簡単に話すとクラスメートが女子校の女の子とデートするのに2対2なら会ってもいい言われそこに参加したという話だ。
だが何でそのデートに参加したということを説明しなければいけないと思う。そして、そのときの僕がどういう状態だったかも説明しないとわざわざこんな話しをするかこの話しを聞いている人は理解出来ないかも知れないので、その前日のクラスメートの行動と僕のその日の朝からの状態を説明することにする。
クラスメートがそもそも前日の夜に以前から想いを寄せている女の子がいてアプローチをかけていた。その女の子は同じ中学出身の1つ上。帯広の郊外の生徒数の少ない中学校で以前から面識はあり話しなどはしていたようだ。
それでデートしてくれるよう電話をしたとき、1人づつ友達を連れて来て2対2ならいいということになった。
僕はその時点でこんな話しがされていたことも知らない。またその時クラスメートも誰を連れて行くかと考えたとき真っ先僕の名前が浮かんだらしい。
僕はというとその日土曜日の朝起きると頭がぼうっとした感じがして、体温を計ると38.0℃を超える熱が出ていた。
僕は、帯広農業高等学校の酪農科の1年生だった。
農業科と酪農科の生徒は、1年生の1年間強制的に寮生活をすることになっている。
このとき、寮の当直の教師に熱があることを言って、授業を休んで病院へ行き、そのまま帯広市内にある自宅に帰宅することにした。
病院で診察を受けるとインフルエンザではなくただの風邪だと言われ1日安静していれば熱は下がり月曜日から通学しても問題ないだろうということだった。
外泊や自宅へ帰ることが出来るのは、土曜日の授業が終わった後、そして日曜日の消灯時間の22:00前には寮に戻らなくてはならなかった。
僕の家は、帯広市内の繁華街に近いところにあった。
自宅兼店舗といった感じのところで父親は精肉業に営み、それと肉牛の生産を行う畜産業を自宅から少し離れた場所でしていた。
農業科、酪農科の生徒はほぼ農業、酪農、畜産を生業にしている子息でそれ以外の家庭の出身者はクラスに1人か2人程度といった感じなので、家が帯広市内の中心地に自宅があるという人間はこのころ農業科、酪農科では僕だけだった。
これは余談だか数年前に知ったマンガで『銀の匙 Silver Spoon』(荒川弘 著)というのがあり、そのの舞台になった大蝦夷農業高等学校(おおえぞのうぎょうこうとうがっこう)のモデルらしい。
ただ、そのマンガの舞台より10年以上も前のことなので、そのマンガを読んでみると変わっていることはある。
まず、僕が通っていたころは女子生徒が少なかった。
農業科で40人中女子は5人程度。
僕のクラスの酪農科は40人中女子は1人だけ。
こんな感じだったので、ほぼ男子校といった感じだった。
だから、彼女を作るときは他校の女子というのがほとんどだった。
そんなことを考慮しても、僕の通った学校の雰囲気などはこのマンガと異なることはあるが校風みたいなものは少し知ることが出来ると思う。
僕は、自宅で寝ていると電話がかかって来た。
クラスメートからの電話で僕の家から歩いて10分もかからない喫茶店にいるから、そこに来て欲しいというものだった。
クラスメートは帯広市内に住む僕を誘うつもりで朝寮の僕の部屋に来たが僕はもうそのときには寮から出ていた。
何人かのクラスメートに声をかけるが都合がつく者がいなく、授業が終わり放課後女の子と会う約束した喫茶店へ行ったが1人だけで来たので女の子2人は帰ると言い出したようだ。
とにかく1時間でも30分でもいいから来てくれないかということで、まだ熱は下がっていなかったがその喫茶店に行くことにした。
頭がぼうっとして、目は空ろといった感じだった。
喫茶店は、家から歩いても10分もかからないところだったので電話を切って、着替えもして喫茶店には15分程度で着いた。
喫茶店に着いて、クラスメートが想いを寄せている“彼女“が“可愛い”と思った。
そのとき頭がぼうっとして何を話したなんか全く覚えていないがその彼女がクラスメートにではなく僕の方に色々話しかけて来ていたみたいだった。
もう1人の女の子もクラスメートではなく僕の方に話しかける感じでクラスメートは少し浮いた感じになっていた。
僕は体調が思わしくないのでと言って1時間もしないで先に帰った。
僕が帰った後で、次の土曜日も同じメンバーで会うということになった。
実は、この時僕はクラスメートが想いを寄せる彼女ともう一度会いたいと漠然とした気持ちがめばえたがクラスメートにそのことは言わず僕自身の心に収めた。
とにかくクラスメートとその女の子が付き合えるように応援しようと思った。
その後、何度か4人で会っていたが彼女とクラスメートと僕とで会うようになり、僕はクラスメートにそろそろ僕も抜けてふたりで会うようにしたらと言うと”彼女“から僕が来ないと会わないと言われたらしい。
そこで僕はクラスメートから”彼女“の電話番号を聞いて、直接電話で話しをすることにした。
「次からは、僕抜きで◯◯と会って下さい」というと彼女から「会って、話しをしたいのはあなたです。初めて会った時からあなたとの”恋の予感”がしたの。私のことは嫌いですか?」と言われ、今まで自分の気持ちを殺して会っていたことを打ち明けた。
それから、僕たちは彼女が高校を卒業して就職するまでの間交際をした。
彼女が就職して、社会人となりすれ違いが多くなり自然消滅のような感じで僕の“初恋”は終わった。

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